第4話 行商人

「まいどでーす! 商品を見てくれまへんかー?」

「あら、今日は何があるの?」

「これなんかどないです?」

「あら~奇麗ねぇ」

「お綺麗な奥様が付ければ更に綺麗さに磨きがかかりまんでぇ」

「あら、クリスさん、お上手ねえ。これちょうだいな」

「毎度ありぃ」


久しぶりにやってきた行商人を村人が囲んで買い物をしている。

行商人がくるのは三カ月ぶりになる。


「この南の国のフルーツなんてどないです?」


「この剣はすごいでぇ」


「この服は、西の国で取り扱ってるのを手に入れて来たんよ」


商人魂が素晴らしく、その人それぞれが欲しそうなものを見繕って声をかけている。

ジンも見てみたことがあり、中々に色々なものがあって面白いのだ。


「剣は間に合ってるんだ」

「そうなんですかい? しっかしこれの切れ味と言ったらすごいですぜ!」

「いや、切れ味が半端じゃない剣があるから」

「それは聞き捨てなりませんねぇ」

「是非、見せてくれまへんか?」


その村人は一旦家に帰ると剣を抱えてやってきた。


「これなんだけど......」

「ん? なんや、ただのブロードソードやないですか」

「まあ、持ってみてくれよ」

「あいよ」


持ってみるとブンッと剣が風を纏う。


「なんなんこれ!? 魔法剣やないか! 来ないなものどうやって手に入れたん!?」

「いや、作ったらしいんだよ」

「作った!? 誰が作ったんやこれ!?」


詰め寄るクリスに村長が返事をする。


「クリスや、落ち着きなさい。これを作った者を教えるわけにはいかんのだ」

「なんでや!? こないなもん作れるならガッポリ儲かるで!?」

「それはわかっておる。そこでじゃ、お主も一枚かんでくれんか」

「なにやら、商売の話でんな!」

「そうじゃ、まず製作者は明かせない。その分、手数料を多くとってくれて構わんから売り捌いてくれんか? この村もそこまで金があるわけではないでの」

「お安い御用や! やったるで!」

「そうか、やってくれるか。クリス、有難う」

「いや、お礼を言うのはこっちの方や! こんな凄い魔法剣を取り扱ってるってなったら、儲かるでぇ」


やる気になったクリスは魔法剣をまず、試しに一本持っていくことにした。

何本もホイホイ売っては、高く売れなくなるからである。


ーー


それからしばらくして

今度は二カ月ぶりにクリスがやってきた。


「村長さん、これが約束の剣を売ったかねや」

「おぉ。こんなにもらっていいのかい?」

「この前の件な、金貨千枚で売れてん。そんでな、利息で三割もらって十分やねん」

「そうか。有難う。助かるわい」

「製作者は聞かれたけど、しらばっくれたで。まぁ、現にワイも知らんからな」

「それでよい。苦労かけるのう」

「ええよ、ええよ。持ちつ持たれつや。そんで、今回は何本売るんや?」

「今回も一本でお願いするかのう」

「あい、わかった」


快く返事をするとまた行商に旅立っていった。

村長はその足でダンの元への向かった。


コンッコンッ


「はい」


ダンが顔を出す。


「あぁ、村長じゃないですか。どうしました?」

「例の剣を売って残った金がこれじゃ。受け取っておくれ」

「えぇ!? こんなに!? 村長も手数料引いてくださいよ!」

「何を言っておる、クリスが三割、村で一割引いておる、残りの六百枚じゃ」

「ホントですか!? すごい大金でどうしたらいいものか」

「そういうことは、ジンに相談してみてはどうじゃ? あやつなら、解決してくれそうじゃが」

「そうですね......」

「ではのぉ」


お金を渡すと去っていく村長。後姿を見送りながら呆然とするダン。

いきなり2年分の給金を貰ったようなものである。

戸惑うのも無理はない。


中に入るとジンを呼んだ


「ジン! ちょっと来てくれ!」

「なぁに? 父ちゃん?」

「これを見てくれ。お前が作って売った剣のお金だ。こんな大金、どう保管していいのかわからん。何か案はないか?」

「それなら、これに入れよう」


ブンッ


空中に魔法陣が出現した。


「この魔法陣の中に金貨を入れて!」

「あ、あぁ」


返事をして徐に魔法陣へお金の袋を入れ、手を放す。


「き、消えた」

「異空間へ入れたんだ。この魔法便利なんだよね」

「い、異空間? 俺には何を言っているのかわからん ユイ! ちょっときてくれ!」


「なぁに? 大きい声出して?」

「ジン、さっきの金貨入った袋出せるか?」

「うん」


ブンッ  ドスッ


「えっ!? 今どうやって出したの!?」

「ん? 異空間にしまってたのを出したんだよ?」

「......異空間?」

「うん。異空間」

「空間魔法はまだ研究途中のはず......」

「便利だよねぇ。異空間。なんでも入れれるからさぁ」

「......やっぱり天才ね。」

「だな。」


異空間魔法を使えることに驚愕しつつ、天才だからという一言で解決してしまう夫婦。


ーー


今度は一か月後にクリスがやってきた。


「村長さん。これが今回の分やで!」

「おぉ。すまないね。今回は随分早くやってきたのぉ」

「それが、王都の騎士様が一本早く欲しいというんよ」

「そうかいそうかい。ではこれを頼むよ」

「まいど! おおきに!」


剣を馬車にしまう。すると辺りがもう暗くなってきた。


「今日の所は、この村に泊まるかねぇ」

「もう辺りも暗いじゃろ。ワシの所に泊まっていきなさい」

「すまんね! あんがとう!」


パッ パッ パッ


村が急に明るくなっていく。

これを初めて目にするクリスは目を剥いて驚いている。


「な、なんなんこれは!?」

「あぁ。クリスは見るのが初めてじゃったか。あれはこの村の夜の明かりじゃ」

「夜の明かり?」

「そうじゃ、係りの者が点けて回っておるのじゃ」

「あの明かりはずっと魔力を入れ続けているのか!?」

「何やら自然の魔力を使用して光っておるらしい」

「自然の魔力......これは流石に、ワイの手には負えない」

「あれは、売るつもりがないのじゃ。クリスも黙っておいて欲しいのじゃ」

「いや、喋っても誰も信じる人はおらんて」

「ふぉっ。ふぉっ。そうじゃなあ」


クリスは目の前の光景に驚き、この村の異常さに漸く気が付いたようである。

村長の家の中に入ったクリスはそこでも驚くことになる。

天井に同じ明かりを発する石があるのだ。

それは量産が可能だという事、この事実は話せば絶対に作成者が捜索されるだろう。

最悪の場合は、言わない人がひどい目に合うかもしれない。

そのくらいの出来事である。


ーー


次にクリスが来たときの事である。


ガガガガッ ガガガガッ


「クリス? どうしたのじゃ?」

「あぁ。村長さんですかいな。この馬車の車輪が壊れてしもて」

「それは大変じゃな。どれ、詳しいものを連れてくるわい」


そういうと村長はダンの家に向かった。


コンッコンッ


「ダンや! ちょっといいかのぉ!」

「はいはい。なんでしょう」

「クリスの馬車の車輪が壊れてしまったようなのじゃ。見てくれんか」

「はい! 今行きます!」


すぐに出てきたダンを連れてクリスの元へ向かう村長。

クリスの元へやってきたダンは馬車の車輪を見る。


「......これは、車輪の損傷が激しいのでこの村では直せませんね。一から一つの車輪を作ることになります」

「そうなんかぁ。堪忍してぇな! なんで壊れるんよぉ! どないしたらいいのかわからへん!」


心底困ったようにいうクリスを見かねてダンは切り出した。


「なんとかなるかもしれません」

「ホンマでっか!?」

「おい! ダン! いいのか!?」

「仕方ありませんよ。村長」

「なんなん? ワイにできることなら何でもするで!?」

「クリス、これから見ることは他言無用で頼む」

「今更、何もいいまへんよ!」


その返事を聞くと家に戻るダン。

家に着くとジンを呼んだ。


「ジン! ちょっといいか!?」

「なに? 父ちゃん?」

「ちょっと一緒にクリスの車輪を見に来てくれないか?」

「いいよ」


ジンを連れて戻るダンにクリスが抗議の声をあげる。


「ダンさん! 何ふざけてますのん!? そないな子供が見てもわからんやろ!」

「クリス。まず黙ってみててくれ」


そういうとジンに向かって聞いた。


「この車輪なんだが、損傷が激しくて直せないんだ。この村では作れる者がいない。どうにかならないか?」

「これが、元通りになればいいんだね?」

「そうだ。できるか?」

「できるよ」


その言葉を聞いたクリスは驚いた。


「何言うてんの!? できるわけがないやろ!」

「クリスさん、見ててね」


そういうとブンッと魔法陣を車輪に展開する。

すると、みるみるうちに車輪が巻き戻るように元に戻っていく。


「はい! これで元通り! クリスさん、よかったね! じゃあ、帰るね!」

「あぁ。ありがとう、ジン。」

「いいよ。先に戻ってるね! 父ちゃん!」


家に戻るジンを見送った三人は沈黙する。

しばらくの沈黙の後、クリスが徐に口を開いた。


「もしかして、あの光る石や剣を作ったのは......」

「あの子じゃ。ジンが作ったのじゃ。しかし、あの子が作ったと知れれば国が欲しがるじゃろう」

「当たり前や! さっきの魔法もなんなん!? 見たことないで!?」

「ガッハッハッ! あの子は天才なんだ!」

「そういうことやないやろ!」

「そうなるから、黙っておった。見なければ誰もあの子がやったなどとは信じられんからのぉ」

「そういう事かいな。大人が守らんといかんな」

「そうじゃ。あの子はワシらで守らんといかんのじゃ。成長するまではのぉ」

「わかったで! ワイも全面的にサポートしたる!」

「すまんな! クリス! ありがとう!」


ジンの驚愕の魔法を見たクリスは、これが知られれば国に連れていかれる。

そう思い、ダンと村長と結託し、ジンの事を隠すことに尽力するのであった。

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