山脈と山国
王様はしばらく壁の地図を――真ん中の、
「我が国がどんな状況にあるか、だいたい理解はできたかね」
「は……はい。王様は、
「うむ。今のところは、その理解で大丈夫だ。そこでクロエの手紙の件に戻るが――」
王様は、たくさん並ぶ三角形――
「このあたりに、グレモス王国という小国がある。昔から、我々
王様は少しうつむいた。少し、眉の間に皺がよっている。
「クロエの手紙が本当だとすれば、グレモス王国は皇国についた。そして皇国の手先として、我々の民を奪い去っている、ということになるな」
「それじゃ……わたしたち、その国と戦争をするんですか?」
王様は、静かに首を横に振った。
「グレモス王国が絡んでいるという決定的な証拠がない以上、表立って動くわけにはいかない。今やるべきはあくまで、我々
王様は、ラピスさん・ソフィーさん・ティエラさんをぐるりと見た。
「可能であれば、背後にいるのが何者かを突き止めてほしい」
「……できれば、グレモス王国だとは思いたくないがな」
ラピスさんが深く溜息をついた。こんなに落ち込んだ様子のラピスさん、見るのは初めてかもしれない。
「いずれにせよ、調べてみないことにはわかりませんわ。……陛下、この任務はわたくしに任せていただけませんこと?」
「勇ましい申し出、主君としてはありがたいかぎりだがな。戦術上、君を行かせるべき理由は?」
「グレモス王国が絡んでいるかもしれないこの任務、ラピスに任せるのは酷ですわ。そして敵の拠点を襲撃するのなら、『炎』は何かと便利ですわよ」
「ほう。……だが、他の二人も何か言いたげだぞ?」
王様がちらりとティエラさんを見る。ティエラさんは大きな身体を折って、深々とお辞儀をした。
「この手紙が来たということは、現地には師クロエがいるかもしれません。でしたら、連携をとるには弟子である私が適任でしょう」
「要するに、クロエに会いたくてたまらないんだろ、ティエラは」
「な! ち、違うぞラピス、私は――」
抗弁しようとしたティエラさんを、ラピスさんは手で制した。
「陛下、ここはオレに行かせてほしい。グレモスが絡んでいるとしたら、この件はオレの手で片をつけたい」
「ラピス、今回は『片をつける』のが目的ではありませんのよ? あなた、冷静でいられるんですの?」
「言葉のあやだ。そもそもこれは任務だろ……オレが任務ひとつ冷静に遂行できねえって、ソフィーはそう言いたいんだな?」
空気がぴりぴりしてきた。大丈夫かな、と思いながらラピスさんとソフィーさんを見ていると、王様が急に笑いだした。
「本当に君たちは火と水のようだな……だが、すまないなソフィー。今回はラピスに任せることにしたい」
意外にも、ソフィーさんは抗議しなかった。さっきまで鋭かった目が柔らかくなって、薄い笑いを浮かべてラピスさんと……わたしの方を見た。
「ご随意のままに。陛下ならそう言うと思いましたわ、これはラピスの試練だとね」
「どういう意味だソフィー。それはつまり、オレが――」
「君の出自についても、考慮はしている」
少しいらいらした感じのラピスさんへ、王様はあくまで静かに言った。
「グレモスが本当に関与しているかどうか、君なら正しく見極められるだろう。だがそれ以上に――」
そこで急に、王様は私を見た。太い眉の下、ものすごい力のこもった目が私をじっと見つめる。
王様のこの目に見つめられると、わたしは逃げることもできず固まってしまう。……きっと、みんなそうだと思う。
「――ラピスよ、君はこの子の師匠だ」
王様の大きな右手が、私の肩を掴んだ。
「この子の初陣を見守るのに、君以外の適任者はいないだろう。この子の門出は任せたぞ、ラピス」
ばん、ばんと、少し痛いくらいの力で、王様は私の肩を叩いた。
王様の肩越しに、ラピスさんが、深々と頭を下げているのが見えた。
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