二十三章



 崔萃さいずいは自他共に認める天才だ。二十の加冠せいじんと同時に辟召へきしょう、つまり推薦を受けて早々に国府に仕え、とんとん拍子で五年後には公府掾こうふえんに昇進した。頭脳良し、愛想良し、なにより容貌みめ好く立ち回りもうまい。誠実で融通が利き優しく、しかし仕事には手を抜かない能吏で崔一族の中でも逸材とうたわれる。よく宗家に出入りしていて葛斎とも幼い頃から懇意だ。彼は妹代わりの彼女にだけは普段周囲に向ける華やかで爽やかな雰囲気を崩し、剽軽ひょうきんで少し意地悪な子どもっぽい態度を見せた。



「珍しいこともあったもんだ、小妹が俺のいえに来たいと言うなんて」


 何梅との約束の前日、下女を三人ほど連れて押しかけると本人がやれやれと言わんばかりに出迎えた。葛斎からしても兄代わりとはいえ、歳は十余も離れていて遊び相手というにはすでに苦しく、加えて崔萃が仕官してからこうして会うのも稀なことになっていた。


「いつかのその昔、俺はすっぽかされた挙句に君は家出してたものなあ。おや、怖い顔。なんだい、事実じゃないか瞪瞪とうとうよ」

「その呼び方、もうやめて」

 むっすりとして返すと鼻を鳴らした。

「まだ髪は結い上げてないみたいだけど?」

「新年にはすぐに成丁おとなになるし、そうしたら宮入りする」

「分かったよ、では葛斎。それで俺と遊びたいと?」

 入内じゅだいすれば親族とはいえ軽々には会えなくなる。男ならなおさら、後宮に入ることなど滅多に出来はしない。

「まあ、そう。同じ宮にいても呼び立てたりなんか無理だし」

「寂しいことを言わないで。顔に似合ってない」

「ふん。萃兄さんなんかへまして罷免クビになっちゃえばいい」

 口が悪い、と崔萃は肩を竦め、居室いまに招いて手ずから茶を淹れた。

「君ももう立派な淑女だ。さすがに遠乗りに行きたいなんて言わないね?」

正鵠あたり

 あちゃあ、と額を打ってみせる。「俺としたことが!気づいてないふりして黙って碁盤でも持ってくるんだった」

「それでね、兄さん」

 手招きして声をひそめた。

「下女をどうにか置いていきたいんだ」

「なんでまた」

「二人だけで行きたい」

 こんなことではぐらかされるような男ではない。すっ、と目が細まり「続けて」と腕を組んだ。

「私の鷹も遊ばせたいから。鼠なんかを捕らせるなら下女たちが気味悪がって騒いでうるさいんだ」

「鷹を飛ばしたいだって?ならだいぶん郊外へ行かなきゃならないよ」

 ううん、と唸って茶を啜る。

「いったいどうしたっていうんだい?なにか怪しいね。俺に隠さなきゃいけないようなことなのかな」

 やはり鋭いな、と目を泳がせた。市街へ出てはぐれたていにしようと思ったが、どうすべきか。

「……あまり訊いてほしくないのだけど、少しの間一人にして欲しいんだ」

 誤魔化すのは難しいか、とやんわり依頼したがすげなく首を振られた。

「それは出来ないね。宗家の一人娘をほっぽらかすなんていくら俺でも伯母上からめった打ちにされてしまうさ」

「…………ひとが」

 急にぼそぼそと口をすぼめたのに屈んだ。

「なに?」

「……慕ってるひとがいるんだ」

 小声で訴え顔を赤らめた葛斎をぽかんとしてまじまじと凝視すると、次いで噴き出した。

「そ、そんなに笑うことないじゃないか」

「いや……だって……そうか、君ももうそんな歳か」

 ひとしきり腹を抱えて笑い、涙を拭く。そして優しく頷いた。

「今のうちに逢っておきたいんだね。…………そりゃそうか」

 想い人がいるなら、これが最後に顔を見る機会だ。葛斎は年が明けたら並ぶべくもない高貴な伴侶を得るが、その代わり世俗の全てを捨てなければならない。

「うたぐりたくないけど、まさか私奔かけおちするつもりじゃないね?」

「そんなことはしない。私は、どうあっても湶后おうひになる」

 決して結ばれることはない、二度と言葉を交わすこともできない悲恋を経験してなお、葛斎はそれでも定めた道から逸れない、逸れられないのか、と哀れに思った。

 大きく息を吐き出す。

「…………いいよ。分かった」

 許諾に顔を上げた。「ほんとう?」

 崔萃は大きな黒い目の前に指を立てる。

「分かってると思うけど大事な入内の前に密通は厳禁だ」

「なっ、そこまで深い関係じゃないぞ!」

「君はそうでも相手は違うかも。というわけで俺が君にあげられる自由時間は本当に少しだ。約束の場所は決めている?近くで待たせてもらうよ?」

「うん……あなたも会う?」

「いいや。そこまで無粋じゃないんでね。やめておく」


 それに、葛斎が惚れるほどの者ならそこらへんの農民ではあるまいと予想した。名家の子弟だった場合、親族が宮に出仕している可能性は大いにある。姿を見てしまって後々身分を知り摩擦が生じるのが嫌だった。朝廷での一挙一動は気を張るもの、無意識に顔や仕草に出てしまうのも避けたい。

 場所は巌嶽外れの雑木林。まあ、人目につかず逢うとなると妥当な場所だ。しかし取り壊されてない昔の古い家屋も多く浮浪者もいる。気をつけねばならないだろう。


「あまり仰々しいのも衆目が鬱陶しいね」

「兄さんは剣の腕は?」

「舐めてる?これでも昔から文武両道の秀才だと褒められてきたんだぞ」

「なら危険なことになっても多少は大丈夫だよね」

 それで伴を付けず二人で出掛ける計画を立てた。下女たちには夜宴の用意を手伝わせておく。

「君にかぎって無いだろうけど、戻る時間を破ったら無理にでも引き離しに行くよ?」

 葛斎は硬く頷き、鷹を連れて立ち上がった。

「待ち合わせ場所を知らせてくる」

「……本当に、よく躾けたよね」

 崔萃はさらに葛斎の反応を見る。

「鳥が好きだなんて聞いたこともなかったのに、ある日急に飼いだした」

「もともとはもらった子なんだ。本当に偶然に」

 愛おしげに相棒を撫でる顔をふぅん、と喉を鳴らして観察した。よもや、馴鳥師たかしょうに入れ込んだ……?まさか。しかしどうやって、誰から与えられたのかは気になるところだ、と問おうか迷ったが、いつも鉄面皮の葛斎が今ばかりはあまりに切なそうなので言葉は口中で失われた。自分も大概、甘い。



 翌朝、遅い時刻に出発した。馬の鞍に大きな鷹を止まらせた葛斎はどうしたって目立つが本人は気にしたふうもない。とはいえ男装してきて良かった、と手綱を振った。これで娘が乗っていたらますます好奇の的だ。


 巌嶽郊外とはつまりは街全体を囲む廓壁かくへき沿いに区画整理されないまま残されている森や閑地、墓所などだ。泉畿みやこといっても関門や街道のないところは不便でしかも地盤がゆるく陥淖ぬかるみだらけ、軒屋や高楼を建てるのは危ぶまれる。雨季には辺り一帯はちょっとした池になるほど水はけが悪い。よって人口は北に集中しているのだった。


「俺はここで待ってるから」

 葛斎は手綱を渡し、「ありがとう兄さん」と頷き、鷹を連れて鬱然とした木々の間へと入っていく。崔萃はふと不安になりその背に呼び掛けた。

「葛斎、怪我しないよう気をつけるんだよ」

「うん。大丈夫」

「時間を守れよ!」

 木立にするりと隠れた影からはもう応答はなかった。





 自分の姿が表兄いとこから隠れただろうと確信した途端、葛斎は息せききって駆け出した。勢いに鷹が腕から飛び立つ。帆翔しながら主を見下ろした。


「あった…………」


 良かった。まだあった。かつて遷氏から教わって以来、自分と外界を繋ぐ唯一の抜け道。その廃屋はやはり今にも埋もれて崩れそうになっていたがまだなんとか建っていた。

 入口の前まで来て急停止する。鷹が再びばさりと羽をしならせて餌掛けを嵌めた手に降りた。

 呼吸を整えて前方を窺った。なぜ、とひとりごちる。風のいたずらか、老朽化が進んだからか?なぜ、……扉が少し開いている?

 もしや難民でも居着いたのか。高鳴る胸を押さえ一歩踏み出せば、妙なにおいが鼻をついた。


「…………?」


 じゃり、とまた近づき、そっと戸に触れる。今までどおりに軋んで難なく開いた。――その向こう。

 むっとなにか、嫌な気がこもっている。生臭い……暗くて何も見えない。


「――――葛斎」


 突然声がして思わず悲鳴をあげる。しかし重ねて続けた声は知ったもの。

「迎えに来たわ」

「何梅⁉どこ⁉」

「下よ」

 地下道への入口を開く。青い燐粉が光るなか、静かに佇む影が火折子てしょくを掲げて白い顔で微笑んだ。葛斎は夢中で降りて抱きつく。

「何梅……!」

「良かった。さ、行きましょう」

 示したのは馬ではない。てらてらと光る鱗に瞠目どうもくした。

「な、なんだこれ。蜥蜴とかげ……?」


 この獣のせいで道が小さく見える。ぐるる、と喉を鳴らす頭は豺狼やまいぬのそれだが、四つ這いの体は爬虫の類だ。明らかに妖、出っ張った大きなまるい金の瞳は睨みつけるように細まっている。


サイよ。乗って」

 またがり、何梅の腰に手を回す。手綱も鞍もないが、座り心地は柔らかくて悪くなかった。

「お兄様にはなんて言って来たの?」

 凄まじい速さで疾走しはじめる。しかし顔に当たる風はほとんど感じず、問われたことも聞き取れた。

「少しの時間待ってくれるよう言ったんだ。――嘘をついて申し訳ないけど」

「……そう。では捜しに来るかもしれないわね」

「一人では無理だよ。すぐ大騒ぎになるかもしれないけど…いいんだ、また怒られるから」

 楽観的な発言に何梅が少し首をかたむけた。それに笑う。

「国を出るのはこれが最後だよ。本当に。もう何も怖くない気分だ。きみと会えたしね」

 葛斎の目的は半分達成されたのだ。何梅と約束どおり落ち合えた、それだけで今は胸がいっぱいだった。


(だって、これからもう何年も)


 額を親友の肩に押しつける。会ったばかりなのにすでに切なくてたまらなかった。今日が終わって欲しくない。

「大丈夫?」

 掛けられた声は優しく静かに労る。


 どうして、と胸が締めつけられた。なぜ自分は泉国の民で、何梅は泉外人なのだろう。なんの違いがあるのだろう。なぜいがみ合う。なぜ戦う。水がないなら分け合えばいい。住む場所がないなら一緒に住めばいい。同じ人なのに、どうしてこうも隔てられ、離れ離れで。

 何梅は不思議な子だ。今まで周囲には家柄や容姿しか見ない人ばかりだった。崔家の同年代の女の子たちは皆高慢ちきで勝手に対抗意識を燃やしてきて嫌いだったし、下女は気安かったが決して対等な間柄にはなり得なかった。胸を張って友人と呼べるような者は誰一人としていなかった。

 何梅だけはこちらのそういった身分など無いかのように接してくれた。それが彼女にとっては普通なのかもしれない、でも葛斎にとっては新鮮で有難かった。それがどんなに嬉しかったか。

 失いたくない、と心から思う。


「私……このまま、きみと行こうかな」


 昔から、お前は将来この国の正妃になるのだと言い聞かせられ、自分もそう思ってきた。国の仕組み、改善すべき点、伸ばすべき長所、世の中の情勢と潮流を家にいながら全て把握していた。たぶん湶后せんごうをこなせるほどの頭脳と気配りはあると自負してきた。――ここにきて揺らぐ。初めて出会ったとき誘われたように、生国の外で何梅と暮らしてもいいのでは、その道もあるのでは、と。

 こんな機会はもう二度とない。そう思うとこの博奕ばくちに賭けても後悔しない気がした。

 しかし、


「それはだめ」


 はっきりと簡潔な禁止にたじろぐ。何梅は後ろを向かない。


「私たちには役目があるの。葛斎、あなたにも出来た。もう逃げられない。逃げることは許されないのよ」

「役目……」

「あなたはこの国の頂点に君臨する最も尊い女になるの」

「…………天門のため?」

「そうよ。あなたがおらねば我々が泉国に介入するのが難しくなる」

「でも、九泉主が味方なのだろう?」

「違うわ。ただ知恵を授けてくださるだけ。あなただけが頼りなの。必要なのよ」

「…………うん。分かった。まかせて」

 なんでも独りで出来そうな何梅からそうまで言われては駄々など捏ねられない。



 暗闇をあっという間に抜けた。葛斎が一日半かけて通った道を豺はほんの数時で越えた。

 眩しさに一度目を閉じ、再び開ければ懐かしの紫の濃霧。

醸菫水じょうきんすいは飲んでいるわね?」

「もちろん」

 手を借りながら地に下りる。改めて明るいなかで何梅を見、白い頬にこびりついた染みを指した。

「ああ、泥が飛んでる」

 取ってやろうとしたが何梅は身を引いた。

「大丈夫。あなたの指が汚れてしまうわよ」

 手帕てぬぐいを取り出して拭い、気を取り直して微笑んだ。「行きましょう」


 いつかの湿地を通り過ぎて見知らぬ森の中、どこをどう来たのかはもう葛斎には分からない。すがすがしい開放感に伸びをした。微かな地鳴りに、今は陽が三つ、曇り空に朧げに照っている。極太の幹に絡まる木の蔓、食べられはしないすずなりの果実、聞き慣れない鳥の声、小さな獣がくさむらにがさがさと忙しなく動く音。まさに異質、異界。

 茶緑と紫の空間の彼方にふらりと鮮烈な色が現れた。珍しい、赤いたてがみの馬だ、と葛斎は目をすがめた。長い毛を緩やかな風にたなびかせてゆっくりと近づいてくる。しかしそれが徐々に人だと分かり、悟った直後、戦慄した。


「な…………え…………」


 燃えたぎる炎の赫髪かくはつ、輝く雪肌。ゆったりとした暗色の衣に身を包み、口許には微笑を浮かべて。

「あのひとは…………?」

「私の母」

 平然と返した何梅は震える葛斎の手を取った。「なぜ母が騂髪せいはつの君と呼ばれているのか分かったでしょう?」

「う、生まれつきなのか?」

 いまだかつて黒髪以外の人間を見たことがなかった。

「ええ。母は一族に福祥をもたらす『祝穎ほさき』。奇跡の赤髪の方なの」


 奇妙な感覚を味わう。ひと目で魅了され、舐め回すように眺めたいのに視線が彷徨さまよう。ひどく恐ろしく、なにか禍々まがまがしい――見てはいけない、と無意識に怯えが走る。これが畏怖か、と滝汗を流しながら唾を飲み込んだ。


「何梅が『つの』を与えたのはお前か」

 少し硬く低い声にびくついた。

「顔を上げろ」


 白い手が伸びてきて触れられそうになり慌てて言われた通りにする。ばちりと目が合った。

 粟肌あわはだが収まらない。吸い込まれるような光のない闇の双眸は葛斎を冷ややかに見下ろし、しばし無言の時が満ちた。やがて、ふっ、と、彼女の頬は盛り上がる。

 笑ったのだ、と認識した時には身を引く暇もなく頭に手を置かれていた。

「美しい木菟みみずくだ。よく来た」

「……み、木菟?」

「おいでなさい」

 すたすたと歩いていくのをぽかんと見つめ、隣の何梅を見るとそちらは可笑おかしげにしている。

「気にしないで葛斎。あなたの目がくりくりと丸くて可愛らしいからそう言っただけよ」


 褒められたのかよく分からないままついて行けば松の小枝を重ねた仮小屋に到着した。促されておずおずと入ると中は十分に広い。

 中心で焚き火を強くした何梅の母は胡座あぐらをかき、二人にも座るよう手を差し出す。

「葛斎と言ったな。娘と仲良くしてくれてありがとう」

 面食らった。なにか、彼女は俗に言う『神聖さ』を備えていて、そんな人が母親そのものような科白せりふを言うとひどく似合わず、もてなしのために言わせたのが忍びなくなり慌てて首を振った。

「あの、私のほうが世話になっていて」

「骨の化石が好きと聞いた。ある意味風流だ。近づきのしるしにこれをやろう」

 首に提げていたひとつを外す。「四不像しふぞうの角を磨いたたま。泉地ではなかなか出回らない」

「そんな貴重なものを……。改めてご挨拶を。私、崔梓さいし葛斎と申します。生まれも育ちも一泉です」

「知っている。私は可敦カトンだ。あの抜け道は親類から受け継いだと聞いたが?」

「は、はい」

崔遷さいせんで間違いないか」

 葛斎は驚いて瞼をめいっぱい開いた。

「なぜ」

「九泉でたまに会う」

「そんな……まさか」

 可敦は、にや、と口端を上げた。「まこと数奇な巡り合わせだ。一方は王の寵臣となり他方は寵妃になる天命か。しかも我々の摂理ことわりに深く関わってくるえにし

 不思議な香りのする茶を勧められ呆気に取られたまま受け取った。

「ここまで来ると偶然とは言いきれない何がしかを感ずるな。そう思わないか、葛斎」

「はい……ええ。遷氏は、元気にしていますか。最近は文も途切れていて」

「それはいけない。釘を刺しておこう」


 可敦は紛れもなく女だったが、女くさくはなかった。一見は男のようでもあり、性のにおいを感じさせないどこか人を超越した雰囲気を纏っていた。腹を膨らませていてなお、か弱いという印象は全く無い。


「ああ、これか?」

 視線に気がつき、さらに唇が弧を描いた。

「何梅の八人めの妹が入っている」

「妹……」

「分かるのだ。また女だよ」

 どこかぞんざいな言に窮し、何梅を見るとそちらも微笑んだまま茶を飲む。倣って啜り、妙な味に眉を寄せた。

「口に合わなんだか。無理して飲むな」

「すみません……」

「話が逸れた。私は回りくどいのが嫌でな。本題に入らせてもらう。――お前、本当に湶后になれるのだな?」

「崔家はすでに段取りを進め、来春の入内を取り付けました。朝廷でも承認されたと」

「現一泉主は下賎から召し抱えためかけに入れ込んでいるそうだな。正妃がおらぬまま後宮が乱れるのはいただけない。周りが案じるのも無理はないか。とはいえ、十以上も歳が離れた男に嫁ぐのはお前とて手放しで喜べまい?」

 葛斎は置いた茶の湯気に視線を落とした。

「……いえ。歳は関係ありません。私は湶后になるよう育てられました。今さら別の道へは行きたくとも行けない。きっと後悔するでしょう」

 何梅に手を握られて目を閉じる。

「私の生まれた意味はそこにあるのだと思うのです」

「見上げた覚悟だ。ゆえにお前は我々の仲間となり得る」

「……可敦さまたちがなされようとしていることは大体聞き及びました。……いまだ現実味がありませんが……」

「そうそう、それだな」

 可敦は頬杖をついた。

「お前はこの世の神とはなんだと思う?」




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