第三話『チョコレート』
『望って呼んで』その言葉が頭の中で何度も繰り返される。
うん、無理。
最後に同級生を名前呼びしたのなんて小学生の頃だ。
元々親しかった人達は遊ばなくなってから少しずつ疎遠になって、中学に上がった頃には部活や同類同士の集まりでより強固なグループが出来上がった。
私はどこにも属さなかった。
それで良いと思ってたから、それが良かったから。
そんな私にこんなこと言われても困る。
…………よし、諦めよう!
時計を見ると、璃垣さんと別れてから約二十分の時が過ぎていた。
流石に遭遇して気まずくなるようなことは無さそうだし、そろそろ帰ろうかな。
校庭で行われている部活動の景色を眺めるのをやめて教室に入り、そのまま荷物を持って教室を出る。
するとそこには――
「安良城さん、ちょっといいかしら」
「……はい」
保健の
きっと昨日のことを怒られる。でも仕方がない。無断でベッドを使って整えも謝罪もせずに逃げてしまったのだから。
「リボン忘れてたでしょう、ちゃんと名前書いてて偉いわね」
あ、やっぱり保健室に忘れてたんだ。
昨日帰った後、リボンが無いことに気づいたから、今日は予備で済ませて、後で探そうとしてたの忘れてた。
「ありがとうございます」
「それでね、昨日のことなんだけど……」
……やっぱりきた。そうですよね。完全に私が悪いです。
うん、謝ろう。
「無断でベッド使用してすみません。反省しています」
「え、ああ、そうじゃないのよ。そんな些細なことで怒らないし、むしろもっと使ってほしいというかなんというか。昨日の子、なんて言ったかしら」
「璃垣さんです」
「璃垣さんね、覚えておくわ。もし困ったことがあれば、幾らでも相談に乗るから言いなさい。教師としては生徒に幸せになって貰うのが一番嬉しいの。それに現実でこういうの見られる機会ってあまりないでしょう? 先生、趣味で本を描いてるんだけど、最近創作意欲が全然湧かなくて困ってたの。でも昨日の二人す見てたら、今までに無いくらい筆が進んで本当にすごいの。やっぱり美少女って良いわね。私の解釈では受けが…………あら? 私ったら本人を前にして何言ってるのかしら。熱くなって思考力が低下してるわ」
……この先生やばい人かもしれない。早口で圧が凄いし、所々何言ってるのか分からないし……なんていうか怖い。前に会った時は優しい先生という印象を受けたのに……。極力保健室に行くのは控えた方がいいかも。
コホンッと咳払いをして先生は話を続ける。
「そういう訳だから保健室にはいつでも来て頂戴。相談にも乗るし、話し相手がいると先生も楽しいから。おいしいチョコ持ってるの、あげるわ」
そう言って先生はポケットから取り出したチョコレートをくれる。
やっぱり優しい先生だ。
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