第50話 次なるゲーム
どうやらゲームが終わって、僕は魔王じゃなくなったらしい。だからだろうか、ただの武装した人間相手にも、こうして遠隔での戦闘を余儀なくされていた。真正面から闘ったのでは、僕は数の暴力に屈することになるだろう。
ああ、何と嘆かわしい。
王である僕が…こんな無様な戦い方を…
「いや、これはこれで面白いか」
守るべき生徒達を代わりに虐殺していく警察の特殊部隊、この悲劇が一段落した後、世間はどのように今回の件を論ずるだろうか。また無駄な、身も蓋もない会話を続けて、話し合った気になって、それで次の話題へ移るのだろうか。
いや、そんなことよりも、どっちらが勝つかな…
「ね、ベクター」
『はっ!』
「賭けをしないか?」
『賭けでありますか?』
「うん、ベクターの操る生徒が勝つか、特殊部隊がみんなを殺し切るか」
『では、ユウタ様、私は自身の配下達が勝つ方に賭けさせていただきます』
「そうこなくっちゃ…じゃ、僕は警察が勝つ方に一応だけど賭けておくよ」
僕の高校には約700名の生徒がいる。対する警察の特殊部隊は30人から40人ぐらいかな?人数的には圧倒的に不利だけれど、武装していることもあるし、訓練だってしているだろう。
んー、でも、生徒達も武装しているようなもんだしなー…
「人間を応援するって…何だか嫌な気分だなー」
『恐れながらユウタ様』
「ん?」
『どうやら、先日の人間の女のようです」
「…アヤカさん?」
僕がそんな学校の様子を眺めていると、背後に人の気配を感じる。
振り返ってみると、そこには誰もが目を引く美貌を持つアヤカさんがいた。
「…こんにちは」
「こんにちは」
アヤカさんはどこか気不味そうな雰囲気で僕へ挨拶を交わす。
「ね、あの…謝りたいと思っていたの」
「何をですか?」
「ひどいこと、言ったわよね」
「あー…あまり気にしてないですよ」
「そう…」
「…」
「まさか、あそこから逆転するとは思わなかったわ。サキから逃げ延びて、他の参加者は直接殺したの?」
「いえ、サキも含めて、参加者は皆殺しにしましたよ」
「…っ」
僕が淡々と語ると、アヤカさんの表情が強張っていた。
「雰囲気が変わったわね」
「そうですか?」
「ええ…何というか…凄みが出たというか」
「…それよりも、一つ聞いてもいいですか?」
「どうしたの?」
「次のゲームはいつから始まります?」
「…そうね。早くても1年後かしら」
「っ!」
「安心して、しばらくは平穏に過ごせるはずよ」
アヤカさんは落ち着かせるように笑顔を見せるが、僕の心境は逆だ。早くゲームに参加したくてウズウズしている。早く大勢の人間を虐殺したい。
あー!やっぱりダメだ!!見ているのも楽しいけれど、あの悲鳴!あの肉を切り裂く感覚!!あー!ダメだ!やっぱり直にやらないと楽しくない。
「ユウタくん?」
「…1年も…僕は我慢しないと行けないのか」
魔王でなくなった僕
ナイアやベクターは未だに配下として仕えてくれており、特にベクターからは魔力が運ばれてくるため、普通の人間よりも遥かに肉体が強くなっている。
しかし、それでも、魔王であった頃よりも、かなり弱体化はしていた。
警察ならば勝てるかもしれないが、武装した特殊部隊や自衛隊なんかは難しそうだ。
「…ハマったタイプね。ユウタくんは」
「え?」
「魔王ゲームの参加者の中には、このゲームで得られる力に魅了されてしまう人もいるのよ」
「…」
アヤカさんが言う狂った人達に僕は含まれるのだろう。
いや、否定はしない。
こうして早くゲームに参加したくて飢えているのだから。
隠れてコソコソと人を殺すなんて楽しくない。
「もし、ユウタくんのポイント購入メニューに、役職を希望できるチケットがあれば購入すると良いわ」
「チケット?」
「そう、チケットを購入すると、こちらからゲームに参加できるのよ」
「っ!?」
僕はアヤカさんの言葉を前に、すぐにスマホを取り出して、魔王ゲームの画面を開く。
「ユウタくん?少し考えてからの方が…」
僕を止めようとするアヤカさんの言葉を笑顔で遮る僕
「アヤカさん。教えていただきありがとうございます」
僕は心からそうお礼を告げると、すぐにスマホの画面をタップする。これが次のゲーム開始の始まりであった。
僕がスマホを操作して魔王ゲームの画面から『大魔王チケット』を購入する。
僕に迷いなどない。
今すぐにでも、次のゲームを始めたいぐらいだ。
「ユウタくん!?」
「…色々とありがとうございました」
「まさか…そんな迷いもなく!?」
「…」
「え!?嘘でしょ…いきなり買ったの!?」
すぐに周囲の景色が移り変わる。
僕に迷いなどない。この世界で大切だったものはすべて失った。いや、捨てたというのが正しいか。
「…ユウタくん!」
僕を止めようとするアヤカさんの声など耳には入れず。僕はスマホの画面を凝視していた。すると、すぐに連絡はやってくる。
==============
足「魔王ゲームへのご参加ありがとうございます」
足「ユウタ様の役職は"伝説の勇者"です」
足「以下に、伝説の勇者の概要を記載しております。ご確認のほど、よろしくお願い申し上げます」
◇役職名:伝説の勇者
◇所 属:人間陣営陣営
◇能 力:超護衛
『自分以外の参加者を1人選んで襲撃から守ることができる。護衛対象の参加者を魔王が襲撃した場合、いずれかの魔王に“死”が訪れる』
◇戦闘力:S S
足「今回のゲーム設定は以下の通りでございます。重ねてになり恐縮ですが、こちらもご確認のほど、よろしくお願い申し上げます」
◇参加者数:13名
◇参加役職:大魔王×1、殲滅の魔王×1、魔大臣×1、黒騎士×1、市民×2、戦士×2、勇者×1、光聖女×1、賢者×1、伝説の勇者×1、ヒロイン×1
◇投票結果:見られない
◇行動範囲:地球
◇時間設定
1ターン:7日
投票時間:7日目の19時から19時 10分
能力使用:7日目の21時から21時 1分
◇初日(昨晩)に能力は使用可能
足「また、以下のURLより、各役職の能力を確認することができます」
足「それではユウタ様、ご武運をお祈り申し上げます」
===============
伝説の勇者!?
馬鹿な!!!
僕は"大魔王"を希望した筈だぞ!!!
ふざけるなっ!!!
「ユウタくん!?」
「…どうしてですか!?」
「へ?」
僕は目の前のアヤカさんを睨みつける。きっと、ものすごい形相をしているのだろう。彼女はビクリと肩を震わせて僕に怯えた様子を見せる。
「僕は大魔王を希望したのに!!何故か!!!伝説の勇者になっています!!」
「…希望者が他にもいたのよ」
「っ!?」
アヤカさんは僕の言葉に対して冷静に返す。
その一言で、僕の中ですべてが繋がるように理解する。
「…つまり、僕は…抽選で負けた?」
「ええ…外れると、他の誰も希望者のいない役職から選ばれるの」
「希望者のいない役職…?」
「ええ、伝説の勇者は…魔王側に狙われやすいから、意外と希望する人はいないわ…」
「この僕が抽選させられたというのか!?王であるこの僕が!!」
僕はものすごい勢いで叫ぶと、暴風のようなものが巻き起こり、屋上のフェンスがガタガタと揺れる。
慌てて、そんな僕を止めるアヤカさん。
「ユウタくん!?」
「…っ」
「…どうしても魔王側が良いのね」
「当然だ!!人間側だと!?ふざけるな!!人間など徹底的に駆逐してやる!!」
「そう…人間が嫌いなのね…少しだけ…気持ち…わかるわ」
「くそ!!くそ!!!見ていろ!大魔王!僕の意向を妨げた罪!万死に値するとたっぷり後悔させながら理解させてやる!!」
「ユウタくん…冷静になって」
「…ああ、わかっている」
僕は深呼吸すると、まずはゲームに勝つことへ意識を向けることにする。今回のゲームで大魔王となった奴が、僕の希望を打ち砕いたやつであろう。そいつを存分に苦しめて殺すには、まずはゲームに勝つ必要があるのだ。
「ね、ユウタくん、良かったら協力するわ」
「ん?」
そんな風に考える僕へアヤカさんが協力を申し出てくる。
「なぜだ?」
「恩返しよ。あそこで負けていたら、今の私はいないわ」
「…ま、好きにしろ」
そう言って頭を深々と下げるアヤカさん。
ま、悪い気分はしない。
「…それで、今回はどんな配役なの?人数は?」
「これだ」
僕はアヤカさんへスマホの画面を見せる。
すると…
「ユウタくん!!見せてはダメ!!」
「…キリュウインさん?」
そんな僕を呼び止める声が響くと、屋上へ続く建物から1人の女子高校生が飛び出してくる。慌てた様子のキリュウインさんだ。
あの誘拐事件でてっきり死んでいるものとばかり思っていた。
そんな彼女が慌てて僕の行動を止めようとしているのだが、時はすでに遅く。
「…そっか、ユウタくんは確かに伝説の勇者なのね」
「む?」
アヤカさんは僕のスマホの画面をマジマジと見つめると、そう言い放って笑う。
「ありがとう…それじゃ」
「っ!?」
そして、アヤカさんは僕の目の前からパッと姿を消していた。
「待て!!」
嫌な予感のした僕が手を突き出してアヤカさんの肩を掴もうとするが、その手は虚空を虚しく掴んでいた。
「ユウタくん!!」
「…」
そんな僕へキリュウインさんは駆け寄ってくる。
彼女は息を切らしながらも、慌てながら僕へ言う。
「はぁ…あの!…あの人!!魔王側の協力者です!はぁ…はぁ…」
そう言い放つキリュウインさんを僕は怪訝な瞳で見つめる。
アヤカが敵対していることは事実だろう。僕のスマホの画面をジッと見つめたのは、僕の役職が本当に"伝説の勇者"なのかしっかりと確認するためだろう。
だが、そんなことを、どうしてキリュウインさんも知っている。理解できているのだ?
「…キリュウインさん。まずは事情を話してください」
「ごめんなさい!私…私がヒロインなんです!」
僕がそう言うと、キリュウインさんはゴクリと息を飲み込んでから、必死な表情で僕へ訴えかけてくる。
「ヒロイン?」
「はい!殺されてしまうと…人間側が負けになってしまう役職なんです!」
「…つまり、キリュウインさんも同じ陣営で、同じ参加者ってこと?」
「はい…まさか、ユウタくんも同じ参加者だとは思いませんでした」
それはこちらのセリフなのだが…
それに、どこかキリュウインさんはゲームに慣れていそうな雰囲気まである。
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