第47話 異星からの参加者




 青を基調としたパイロットスーツに身を包むのは茶色の髪の男性だ。


 球体状の入れ物の中に浮いているシートに座っている彼は、ハッと驚いた素振りを見せている。




「何だったんだ?あれ…夢か?」



 男性は周囲のモニターを覗く、そこには生い茂る木々が映し出されており、その光景を見て彼は怪訝な顔をする。



「いや、戻ってない…?ここは…?」



 怪訝そうな彼の瞳は、全周囲を映し出すモニターではなく、目の前の計器類のあるモニターへと視線が移る。そのモニターにはスマホのホーム画面のようにアイコンがズラリと並んでいた。


 彼は視線をモニターへ向けて意識するだけで、並んでいたアイコンの中、コンパスのようなデザインのものが立ち上がる。



「座標…特定不能?」



 画面い表示されていた文字をそのまま読み上げる彼

 少し短く息を吐くと、再び周囲のモニターに映る景色を見つめる。



「…確かに、こんな絵みたいな森、見たことないぞ」




 彼は続けて、別のアイコンを意識する。温度計のようなデザインのものだ。




「気温…気圧…大気成分…」



 彼がモニターを見つめる瞳に、段々と驚きと輝きで彩り始める。




「どれも…嘘だろ…」



 彼は再び周囲の景色を見つめる。

 彼の視線の先には、生い茂る木々があり、大自然が広がっていた。


 そんな景色を前にして、彼は少し鼻息を荒くしていた。




「この星…地球と一致してる…まさか」





ーーーーーーーーーーーーー



 



「…すごい…すごいぞ!!!」



 彼は濁った川の前で大はしゃぎしていた。

 手にしているビーカーの中には、川の水と思われる少し濁った液体が入っている。そのビーカーに浮かび上がっている文字を見つめて、彼は驚いているようだ。



「この微生物も!これも!これもだ!!全部!!地球にしか存在しないとされているものだ!!あはははは!!これは大発見だぞ!!!」



 土を手にして、袋に入れると、彼がしている腕時計に何かが表示される。



「すごい!!本物の土だ!!」



 彼は、近くの木へと歩み寄ると、その表面に針を刺す。

 川や土と同じように、彼は自分の腕時計を見つめると…




「うわ!!本物の木だ!!あはははは!!!」




 彼は両手を広げて空を仰ぐ。

 深い木々の葉によって、太陽の光は少し遮られ、青空も微かにしか見えない。




「あれは太陽だろ!?そうだよね!」



 彼はまるで誰かに話しかけるようにして、背後を振り返る。そこには15mサイズの人型をしたロボットがいた。



「…」



 話しかけられたロボットだが、まるで応答がない様子であり、微動だにせず座り込んでいた。




「あれ?おーい!メッシュ?」

「…」



「故障か?」



 彼はロボットから返事がないことに気付くと、腕にある時計のようなものの操作を始める。




「いや…オールグリーンだ。自動修復機能も動いているし、ナノマシン濃度も良好…おかしいな」



 彼が怪訝そうに見つめている腕時計の画面の右端に、丸い円の中に1と書かれたマークがある。



「あれ?通信が来てる」





==============



足「魔王ゲームへのご参加ありがとうございます」

足「シュクト様の役職は"黒騎士"です」

足「以下に、黒騎士の概要を記載しております。ご確認のほど、よろしくお願い申し上げます」


◇役職名:黒騎士

◇所 属:魔王陣営

◇能 力:防衛、準共感覚

     『1ゲームに1度だけ、その日に選んだ参加者の処刑を防ぐことができる』

     『誰が魔王か知ることができる』

◇戦闘力:SS



足「今回のゲーム設定は以下の通りでございます。重ねてになり恐縮ですが、こちらもご確認のほど、よろしくお願い申し上げます」



◇参加者数:13名

◇参加役職:大魔王×1、殲滅の魔王×1、魔貴族1、黒騎士×1、市民×2、戦士×2、勇者×1、光聖女×1、賢者×1、伝説の勇者×1、ヒロイン×1

◇投票結果:見られない

◇行動範囲:地球

◇時間設定

 1ターン:7日

 投票時間:7日目の19時から19時 10分

 能力使用:7日目の21時から21時 1分

◇初日(昨晩)に能力は使用可能



足「また、以下のマインドより、各役職の能力を確認することができます」

足「それではシュクト様、ご武運をお祈り申し上げます」




===============






「…何だこれ…ハッキングか?」



 シュクトは首を傾げていると、ふと、つい先ほどまでの夢かと思うような出来事を思い出す。



「そういえば…あのゲーム…これのことか!?」



『マスター、送信元がありません』


「おわ!!メッシュ!?」

『どうされました?』


「お前!?返事がなかったから、故障かと思ったじゃないか!」

『返事…?』


「ま、いいか…で、送信元がないってどういうこと?」

『はい。マスターへ通信が入っていますが、送信されずに、受信しています』

「意味が分からない」


『送信するという過程を省いて、受信したという結果だけがあると言い換えても語弊は少ないでしょう』

「…何だそりゃ…言いたいことは分かるけど、そんなことありえないだろ?」


『マスターが地球にいることもあり得ません』

「…そりゃ、そうだけど」



 シュクトは周囲を見渡す。

 明らかな、人工ではなく、自然の森が、彼の目の前には広がっていた。


 そして、彼の相棒であるメッシュも、ここが地球であると結論付けていた。




『異常事態です。マスター、あり得ないと考える常識は捨てましょう』



 メッシュの言葉にシュクトはすんなりと頷く。まるでワープでもしたように地球と思われる惑星へ移動しており、その移動の前にも、暗闇の中でゲームをさせられていた。

 あり得ないと考えて思考停止するのは危険だと、考えを切り替えることにしている。



「オーライ…で、行動指針はどうする?」


『母艦への帰還と報告が最優先と思われます』

「同感だ…地球がこうして存在していること、ロストマザーが偽りであったことの報告…これは人民への多大な貢献となる」

『はい、マスター』


「さて、行くか」

『どちらへ?』


「当然、調査だよ。原住民がいるかどうか、確かめてやろう」

『…原住民への接触は慎重に願います』


「へいへい」





ーーーーーーーーーーー





 茶色の髪の男性がモニター越しに空から見下ろすのは港町だ。



 灯台から放たれる光はグルグルと回転しており、そのライトに当てられて、宵闇の中に何隻かの軍艦が映し出される。レンガ造りの建物が並んでおり、建物と建物の間の道路には民間人だけでなく、軍人の姿も散見される。




 そんな港町の上には人型のロボットが堂々と浮いていた。

 街から見上げれば、そのロボットを肉眼で捉えることは容易いぐらい高度なのだが、港町で暮らす人々の誰の目にも止まることはなかった。


 港を警備している軍人がふと空を見上げると、その視線がロボットへ向くのだが、それでも軍人は異変を感じている様子もない。


 まるで、ロボットの認識が阻害されているような光景であった。




「メッシュ…」

『はい、マスター』


「あれは何だろ?船のようにも見えるけど」




 シュクトがそう尋ねると同時に、モニター上に映し出されている港町の景色の一部へ赤い丸が浮かび上がる。その赤い丸は、港に停まっている空母を囲うようにして浮かび上がっていた。




『はい。石油時代の空母と呼ばれるもののようです』

「空母?」


『はい。戦闘機と呼ばれるものを乗せた船です。あの形状…海上戦略の転換期のようですね…』

「あれほど見事に石油時代のものを復元することは可能なのか?」


『空母個体であれば可能でしょう。しかし、この光景は復元されたものでないと考えます。海や空は自然環境そのものです。ここまで見事に再現できる技術があれば、そもそも我々の生活環境は大きく変化しているでしょう」


「…」

『マスター、あり得ないという考えは捨てましょう』




 シュクトは人が住んでいる港町を見つめながら、とある疑念が彼の脳裏には宿っていた。


 ロストマザーと呼ばれる第1次恒星間戦争によって、地球は完全に破壊されたと聞いている。


 それが偽りの歴史であったのだと、地球に降り立ったシュクトとメッシュは考えていたのだが…




「…月も…太陽もあるな」

『はい』



 ロストマザーにおいて、地球のみならず、太陽系に属する数々の惑星やコロニーにも甚大な被害を及ぼしたとされている。それが、こうも見事に再生しているのだ。もしくは、まったく破壊されていないのだ。



 再生しているのか、破壊されていないのか。そのどちらの可能性も考慮して、メッシュが計算してみたところ、太陽系が存続していると辻褄の合わない現象がチラホラと浮かび上がってくる。


 そうなると、考えられる第3の可能性は…





「調査しよう」

『はい』



 シュクトが乗るロボットは降下を始めていく。降り立とうとしている場所は、港町のど真ん中ではなく、少し離れた森の中だ。


 ロボットが着地すると、そのまましゃがみ込むような姿勢で機体を地面に固定させる。そして、コックピットハッチが開き、中からシュクトが飛び出してくる。




「…さて」



 シュクトは森から港町を見下ろす。

 港町の建物にある窓ガラスからは光が外へ漏れており、道路には車や歩行者の往来が見える。




「人が暮らしているみたいだね」

『はい、マスター』



 シュクトは感慨深い気持ちになったのか、あらためてメッシュへそう言う。大地を確かに踏み締めて生きている人間がいること自体、彼らには思うところがあるようだ。




「少し話を聞いてみよう」

『接触は慎重にお願いします』


「へいへい」



 シュクトは相変わらずのメッシュの小言に、少し不機嫌そうな表情をしつつ、両腕を頭の後ろで組みながら森の中を進もうとする。



 そんな時だ。




「…やぁ、こんばんは」


「っ!?」



 そんなシュクトだったが、急に背後から男性の声が響くと、すぐに腰から銃のようなものを抜き取り、その銃口を背後へ向ける。



『マスター!』



 背後から呼び掛けられて、咄嗟に反撃しようとするシュクトの行動に、メッシュが警告の意味で彼の名前を呼ぶ。


 急に声をかけてきた相手が一般市民の可能性は十分にあるのだ。一般市民へ銃を向けることが良しとされる軍律はなかなかないだろう。



 だが、シュクトは交戦的な性格というわけではない。彼にそうさせるほど、不意に響いてきた声には、只ならぬ気配を感じ取ったのだ。


 それをただの勘と切り捨てることは容易い。

 しかし、シュクトは軽率そうに見えるのだが、これでも歴戦を潜り抜けてきた戦士の1人だ。


 彼の勘は鋭いと評価しているメッシュは、彼の臨戦体制を複雑な気持ちで捉えていた。





 シュクトとメッシュの前には、柔和な笑みを浮かべるシルクハットを被った男性がいた。

 銀色の長い髪を束ねることもせず腰まで伸ばしており、スラリとした細い体躯を黒の軍服が覆っている。


 彼の服が軍服なのかシュクトとメッシュには判断できないが、彼が一般市民ではどうやらなさそうだと、その雰囲気で何となく伝わってくる。




「…お前は!?」



 その雰囲気を具体的に言えば、銃口を突き付けられても、なお、笑みを絶やさないことだ。


 その胆力は間違いなく堅気ではないとシュクトは判断していた。



 警戒するシュクトを他所に、銀髪の男性は笑みを浮かべたまま、彼へ歩み寄って行く。

 依然として、自分に銃を向けられているのにも関わらずだ。




「私は…貴方の仲間ですよ」

「仲間!?」


「はい…同じ魔王側の人間です」



 銀髪の男性はそう言って笑うと、仰々しく会釈する。



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