第38話 仕返し
僕はベクターと鴉天狗をお供に、戦国時代を彷彿とさせるお城を進んでいく。
2階、3階と進んでいくと、やがて、宴会でも開けそうな大広間へとたどり着く。
「…っ!」
大広間に出ると、そこにはケントの姿があった。
広大な空間にポツリと置かれているベッドやゲーム機などがあり、それらの家具の中心に彼はいた。
「おや、こんなところで隠れていたのか」
「ユウタ!?」
僕の姿を見ると、慌てて驚くケント
奴は四つん這いになって僕から逃げ出そうとするのだが
「待って、どこへ行くんだ?」
「っ!?」
ケントの前に僕は瞬時に回り込む。ただの市民が、魔王である僕の動きを目で追うことなど無理だろう。
「ぐっ!!」
悔しそうな顔をしながらも、ケントは慌てて反対方向へ逃げようとする。そんな彼の足を、ベクターがツタを伸ばして、その足に巻き付かせる。
「上げろ」
「はっ」
ベクターがツタを振り上げると、釣られるようにしてケントも宙吊りになる。
ジタバタと踠いているケントを見上げながら、僕は愉悦に浸っていた。
「…良い光景だ」
「ぐ…くそっ!!!ユウタの分際で、この俺に歯向かうつもりか!?ああん!?」
「そうだ。その調子で悪態を続けてくれ。その方が僕も愉しめる」
敵の術中にハマっている自覚はある。それでも、僕はケントを前にニヤリと笑みを溢す。
ケントをここに置いているのは時間稼ぎだろう。僕とケントが因縁浅からぬ関係であることはコウタも知っている。
だからこそ、僕がただケントを殺すわけないと知っているのだろう。
悔しいが、その通りだ。
残り1時間ちょっとしかないのだが、僕はギリギリまで、こいつを痛めつけるつもりだ。
やれやれ、相手の時間稼ぎは成功だな。僕はゲームに勝つことよりも、ケントを痛ぶることに意識が集中している。
「…ベクター、あれを持て」
「御意!」
「な、何だ!?俺に何をするつもりだ!?」
僕がベクターへ指示を出すと、よりジタバタと暴れるケント
そんな彼の前に、ベクターは放り投げるように一つの頭部を転がす。
「ひぃいいいいいいい!!!」
「あはははははは!!!」
「ジークさん!?殺したのか!?い、いや!!!作り物だろ!?」
ケントは眼下に転がるジークの生首を作り物だと思い込んでいるようだ。
僕は、その生首のところまでゆっくりと歩いていくと…
「ね、これ、本物だと思う?偽物だと思う?」
「はははははは!!偽物だろ!?お前に人なんか殺せる度胸、ねぇだろ!?」
「…ぶぶー!」
「あん!?」
僕はケントの目の前で、ジークの生首を踏みつけてみる。
すると、脳味噌や目玉、そういった顔面を構成している部品が血飛沫と共に散らばっていた。
「…あ…ああ?」
「どう?」
真っ赤に濡れている僕は、きっと愉しそうな笑顔でケントを見上げているのだろう。
彼は、自分の下に広がるスプラッタを前に、顔色を青くさせて…
「うぇぇええええ…」
「わ、汚いな…もう」
空から吐瀉物が降り注ぐ。
返り血を浴びる趣味はあるけれど、吐瀉物はごめんだ。
僕はひょいっと、その場から離れて、ケントの吐瀉物を避ける。
「…うぇ…ひっく…うぇぇえ…や、やめてくれ…助けてくれ…よ…あぁ…」
ケントは一通り胃の中をものを吐き終えると、ヨダレと吐瀉物を口元から垂らしながら、ついでに涙も垂らしていた。
まさか、こうも容易く心が折れるとは思わなかった。
「…」
僕はそんなケントの指へ視線を向けると、キッと魔力を込めて睨んでみる。
「ぎゃぁぁあああああ!!!あぁぁあ!!!うぁああ!!!ああああ!!」
ケントの指の一本が吹き飛んでいくと、彼はその痛みで絶叫を轟かせていた。
「あはは…あはははははははは!!!」
「ぐ…くそぉ!!!ユウタのくせに!!ユウタのくせにぃ!!!お前…なんかにぃ!!くそ!!」
「あははははははは…ほーら!」
「っ!?ぐやぁああああ!!!ぎゃぁぁああ!!!」
さらにもう1本の指を吹き飛ばしてやると、再び、想像を絶する苦痛がケントの脳裏を焼き焦がしている様子だ。口から涎と胃液を撒き散らしながら叫んでいる。
「お前…覚えてろ…俺にも…蘇生チケットある…んだ…次のゲーム…ぎゃぁああああああ!!!!」
「はいはい、うざい」
「ははは…今に見てろ…やればやるだけ…同じ目…いや、倍返っ…ぎゃぁああっ!!うが…うがぁあ…」
指を何本も吹き飛ばすのだが、なかなか、ケントの心は折れないようだ。
「俺が…勇者…魔王…になったら…お前を…同じ…ぎゃあぁああ!!!」
ケントは指を飛ばすぐらいでは心が折れてくれないようだ。
ならばと…
「ベクター、ツタであいつの脳味噌を抉って」
「…よろしいのですか、すぐに死んでしまいますよ?」
「僕が治療魔法をかけ続けるよ」
「私に…機会をいただけるのですね」
「くどいぞ。その通りだ。お前も恨みがあるだろう」
「ありがとうございます…これで同胞達も浮かばれます」
「うん、あいつの絶叫がレクイエムになると良いね」
「はい…心遣い、痛み入ります」
ベクターは僕の指示通りにツタを伸ばしていく。
彼の仲間である花々や虫達は、ケントによって何度も何度も踏み躙られて殺されていた。
僕のいじめに利用していた虫や花々は、みんなベクターの仲間であったようだ。
だからこそ、ベクターも、彼には強い恨みがあった。
「お、おい!何をするつもりだ!?」
「…」
「お、おい!やめろ!!やめろ!!!」
ベクターの伸ばしたツタは、ケントの耳から中へと侵入していく。
耳にツタが侵入したケントは段々と激しく揺れ動き…
「がぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!」
ジタバタとブランコのように揺れているケント
手足が激しく動いており、目は白目を剥き、鼻からは血が大量に滴り落ちていた。
ツタからは鋭い棘が出ており、耳の中を傷付けながら頭の中へと侵入している。刺々しいツタの先端により、ケントの脳味噌はまるで洗濯機のように掻き回されていることだろう。
掻き回すと同時に治癒魔法をかけ続けているため、死ぬことも気を失うことも許されず、想像を絶する苦痛を味わい続けている。
糞尿までも撒き散らしているのも加点要素だ。概ね、満足のできる光景だ。
ベクターが彼の脳を掻き回すツタの勢いを激しくさせる。
「あばばばばばばばばばばばばばば!!!あばばばば!!!!」
掻き回されてケントの脳から変な信号が放たれたのか、白目で舌を伸ばしながら奇声を響かせている。
「あははははははは!!!変な叫び声!!!あはははははは!!!僕のこと!!変な格好とか!!変な声とか!!いーっつも笑ったけどさ!!!今のケントが1番変な声だよー!!あははははは!!!」
「あばばばば!!!あばばばばばばばばばばば!!!」
「…さーて、そろそろどうかな?」
僕がベクターを一瞥すると、彼はスッとケントの耳からツタを引き抜く。
「…あーう…あー…」
「あれ?廃人になっちゃったかな?」
ケントは白目のまま表情に変化がない。まるで感情を失ってしまったような印象だ。
「なんと…これからがメインでありましたのに」
僕とベクターは少し不安になってきた。廃人になったのでは面白くない。
仕方ない。
アレを使うか。
廃人のようになっているケントの前へ、ゴロゴロと何かが転がっていく。
すると、みるみる内に、ケントの表情が変わっていき、生気に漲ってくる。
「サ…キ…助けて…くれ…」
「ほっ」
「おやおや、恋人に助けを求めておりますね」
「うんうん…心がかなり折れてきているね」
「もう…痛いの…やだ…サキ…助けて…くれ…」
ケントは幻影でも見ているかのように、地面を見つめていた。
そこに、まるでサキが本当にいるかの様子だ。
「ユウタを…殺して…くれ」
ケントは何かに向かって手を伸ばす。
「サキ…サキ!!…サキ!?」
ケントはハッとする。
それは幻影ではなく、確かにサキの顔だった。
「サキ…!!!生きていた…生きて?生きて…い…え?」
ケントの目の前にいるのは確かにサキだ。
「うそ…だろ?」
「ううん、本当だよ」
ケントは目に涙を浮かべていた。
指がすべてなくなった手を下へ向けながら、何かを掴むように踠いている。
「サキ!!!サキ!!!!嘘だろ!?サキ!!!」
「あははは…あはははははは!!!」
ケントが踠き続ける先には、サキの生首が床に置かれていた。
安らかに眠るような表情をしているサキの生首
その上に、僕は静かに足を乗せる。
「やめろ!!やめてくれ!!!頼む!!!サキを殺さないでくれ!!!頼むよ!!!」
「殺さないでくれって…とっくに殺したんだけどなー」
「お願いだ!!!頼む!!!俺はどうなっても良い!!!サキだけは!!サキだけは!!!」
「ね、ケント」
「やめてくれ!!!ユウタ!!!なんでも言うこと聞くから!!もういじめなんてしない!!!」
「ね、ケント!」
「っ!?」
「僕がさ、そう、何度もやめてくれって言ったよね」
「…」
「それでさ、キミ、やめたことある?」
「…ごめん…本当に悪かったと思ってる…もう、あんなこと、しない…」
「ふーん、でもさ、僕はやめてくれって言えるから良いけどさ、あの虫とか花とか、物言えない人達も、キミは何の思いをかけることなく、文字通り、踏み躙ったよね」
「やめる!!ごめん!!ごめんなさい!!もう!自然も大切にします!!だから!!だから!!!!」
「あは…あはははははは!!!」
僕の笑い声にかき消されないほどの音量で瑞々しく潰れる音が響くと、周囲に血飛沫が再び舞っていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
ケントの四肢をバラバラに引きちぎった後、あいつの家にベクターが運んで行った。
鍋の中にでも入れておいてもらおう。
あいつの骨や肉からは、きっと、良いダシがとれると思うんだよね。
で、残りの頭は学校の教室にでも飾ってもらおうかな。
学校が楽しみだなー。
早く再開されると良いけど。
そんなことを考えながら、広大な城を淡々と進んでいくと、すぐに襖が見えてくる。
「…この奥にいるんだね」
「はっ…気配を確かに感じます」
「そうか」
僕と鴉天狗は襖の前で立ち止まると、警戒心を持って、その襖を開ける。
襖の奥には、ケントがいたところよりも狭いが、それでも十分な広さはあろう広間があった。
そこには、厳つい容姿の背広の男性、着物姿の狐耳の女性、磔にされているミスズ
そして…
「ユウタ…お前…なんてことを…」
僕の父であるヨウゲンがいた。
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