第34話 時間稼ぎ
「離してください!!」
サラサラの黒い髪を長く伸ばした美少女は、車の後部座席で男性2人に押さえつけられながらも毅然とした態度で叫ぶ。
金髪にピアス、恰幅の良い男性の2人といかにも柄の悪そうな2人の男性が彼女の手足をギュッと掴んで押さえつけている。
そして、運転性にはスキンヘッドでサングラスの男性がおり、彼はニヤニヤとした笑顔を浮かべつつ、片手で車のハンドルを握っている。
「うわー!本当にめっちゃ可愛いっすね」
「だろ!?」
「流石っすね!」
「かっかっか!!こりゃ高く売れそうだぜ」
「でも、そのまま売って良いんっすか?」
「いやー!1発ぐらいやってから売ろうぜ」
男性達の不穏な会話に、黒髪の少女はキッと彼らを睨みつける。
「うひー!その表情がまた堪らないっす!」
「相変わらずドMだな」
「離してください!何でこんなことするんですか!?」
「あー!何で?」
「そうです!私に何か恨みでもあるんですか!?これは犯罪ですよ!」
「いんやー!恨みなんてねぇ!」
「むしろ!パンツを拝ませてくれてありがとう!感謝感謝!!」
そう言って恰幅の良い男性は彼女の足を強引に開いて、制服のスカートの中をニタニタとした目で眺める。
そんな彼の気持ちの悪い行動に、流石の少女も目に涙を浮かべ始めていた。
「っ!やめてください!」
「うひひ!この嫌がる表情が堪らんです!」
「うわっ!キモッ!ぎゃはははははは!!」
「…何で…こんなこと…誰か…助けて…」
少女は泣きそうな顔でそう呟くと、恰幅の良い男性は涎を撒き散らしながら笑う。
その表情には愉悦や嗜虐心と言ったもので満ちており、猟奇的な笑顔をしていた。
「ねぇ!リュウガサキさん!この子、やったらダメっすか!?」
「馬鹿野郎!本家からの依頼品だ!勝手はできねぇ!」
「本家ってことは、コレクションっすよね!?貞操はどうでもいいんじゃないっすか?」
恰幅の良い男性が問いかけた先は、運転席にいるスキンヘッドの男性だ。
彼はハンドルを握っていない方の手で顎を撫でると、少し考えてから言う。
「んー!下がった価格分をお前が払うなら構わねぇぞ!」
「おっシャァ!!」
「脱ぐの早っ!!」
「リュウガサキさん!!!!前!!!前!!!!」
「あん?…っ!!!!」
彼らの乗る車の前に、平凡そうな男子高校生が飛び出してきた。
金髪ピアスの男性が真っ先に気付いて、運転しているスキンヘッドの男性へ警告するが…
「がっ!!!」
「「っ!!!!」」
ブレーキなどとても間に合う距離ではなく。
車は飛び出してきた男子高校生と衝突する。
物凄い衝撃が車内を走り抜けると、すぐにエアバックが車内の全ての箇所で作動し、白い風船のようなもので車内は覆われる。
「ぐぇ!!」
「がー!!邪魔だくそ!!おらぁ!!!」
騒然となる車内の中、エアバックをかき分けて柄の悪い男性達が車外へと飛び出してくる。
「リュウガサキさん!!これ!人を轢いたっすよ!?」
「ふざけろ!!!あのクソガキ!!!あいつが飛び出して来たんだろうが!?」
2人は轢いたはずの男子高校生の姿が見えないことに驚いているが
「普通だったらそう言えますけど、今はまずいっすよ!!!」
轢いた少年の救助など念頭にない彼らにとって、今は警察に捕まらないことが優先される。
「誰か助けっ!!」
自分達と同じく車外へ飛び出そうとする少女に気付くと、その顔面へ拳を打ち付ける。
「オラァ!!黙れ!!」
「がぁ!!」
そして、少女の口を押さえて叫ばないようにさせていると、もう1人の男性が車外へと飛び出してくる。
「ゲンタ!!!その女はいい!!!逃げるぞ!!」
スキンヘッドのリーダー格の男性が、少女の口を押さえている男性へ、手を離して逃げるように指示するが、当の男性は名残惜しそうに首を横に振る。
「いやっすよ!!!」
「馬鹿野郎!!捕まるぞ!!!」
「いくぞ!!!」
2人の男性に肩を掴まれて、ようやく、その男性は少女を離す。
そして、3人の男性は車を乗り捨てて、何処かへと消えていく。
「…鴉天狗、奴らの尾行も頼む」
『御意!』
「これで9台目…ミスズはどこだ」
ユウタはそう言うと、街の奥へと飛び去っていく。
そんな彼の姿を目撃しているのは、連れ去られそうになっていた少女だ。
彼女はジンジンと痛む鼻を押さえながら呟く。
「…あれは、スズキくん…?」
ーーーーーーーーーーーーーー
「があぁぁ!!!腕がいてぇ!!」
「がははははは!!!リュウガサキさん!!ひき逃げっすね!!」
「笑ってんじゃねぇぞ!!シン!!!」
金髪にピアスの男性を先頭にして、その後ろをスキンヘッドの男性と恰幅の良い男性が歩いていく。
スキンヘッドの男性は右腕を痛そうに左手で掴んでおり、顔は悲痛に染まっていた。
「これ、折れてるかもしんねぇ」
「俺は首がいてぇっす!折れてるかも」
「あほ!首が折れてりゃ死んでんだろ!」
女子学生を拉致し、車で男子高校生を轢いて逃げた3人
まったく罪悪感がない様子で笑いながらどこかを目指して歩いていた。
そんな彼らだが、とある住宅街の路地でピタリと足を止める。
彼らの目の前には、まるで自分達を待ち構えていたように立っている平凡そうな男子高校生がいた。
「あん?」
「…何だお前?」
「てか、こいつの服、めっちゃボロボロ!」
「うは!くそ貧乏なんじゃね?」
「ぎゃはははははは!!!」
「…待て、こいつ…」
恰幅の良い男性と金髪ピアスの男性は、平凡な男子高校生の姿に大笑いする。
しかし、スキンヘッドの男性だけが、彼を怪訝そうな顔で見つめていた。
「…」
「お前…飛び出して来た奴か?」
スキンヘッドの男性が男子高校生へそう問いかけると、彼は微かに肩を揺らす。
まるで「はい」と答えているように見えた。
「え?」
「何言ってんすか!?リュウガサキさん!!」
「そうっすよ!あのガキはリュウガサキさんが轢き殺したじゃないっすか!」
「ぎゃははははは!死んだかどうかはわかんねぇーだろ!ぎゃはははは!」
スキンヘッドの男性の後ろで、恰幅の良い男性と金髪にピアスの男性は大笑いしている。
しかし、それでも、スキンヘッドの男性は怪訝な顔で男子高校生を見つめていた。
「…何か用事か?」
スキンヘッドの男性の問いかけに対して、服がボロボロの平凡そうな男子高校生は拳を堅く握りしめて震わせながら言葉を開く。
彼の言葉にも震えがあり、それは怒りや緊張といった感情が込められていると、誰もが感じ取れるだろう。
「お前らの飼い主を教えろ」
「あん?飼い主?」
「そうだ。僕の妹を攫う指示をしたやつだ」
「あーん!?お前があの子のお兄ちゃん」
「ぎゃははははははは!!似てねぇ!!」
「そうか、お前はあの子の兄か」
「そうだ。お前らがミスズを攫おうとしたのは、飼い主の指示によるものだろう。その飼い主の名前と居場所を吐けば、苦痛なく殺してやる」
「が…がははははははは!!」
「何だこいつ!?」
「厨二病ってやつか!?笑える」
「おいおい!勘違いするな!俺達に顧客はいるけどよ!飼い主なんざいねぇよ!」
「なんだと?」
「…俺らは人身売買で生活している。それで分かるな?」
「おい!ゲンタ、余計なことを教えてやるな」
「なるほど、僕の妹を攫ってこいと客から言われていたわけだな」
「ああ、そうだ」
「ぎゃはははは!!得意客の依頼でヨォ!高く売れそうだったのによ!」
「そうだぜ!くそー!!事故っちまうなんてな!!」
スキンヘッドの男性が男子高校生の言葉に頷くと、その少年はキッと敵意を露わにしたように彼らを睨みつける。
「ん?ムカつく奴だな」
「ああ、生意気そうだぜ?こいつ」
男子高校生の表情に苛立った様子を見せるのが恰幅の良い男性と金髪ピアスの男性だ。
「リュウガサキさん!何を真面目に応対してんすか?」
「さっさとボコして行きましょうよ」
「…」
スキンヘッドの男性の前に、その2人の男性が躍り出る。
しかし、リーダー格のスキンヘッドの男性はその2人を止めることはせず、自分も加わることもせず、静観するように腕を胸の前で組んで立っていた。
リーダー格の男性が黙認したと感じた2人の男性は、そのまま直進していき、男子高校生の前に立つ。
「…」
男子高校生は手を震わせながらキッと歩み寄って来た2人の男性を睨む。
ガクガクと震えているのは手だけではなく、膝も同じ様子だ。
内心ではビビっているのに敵意を露わにしている少年の様子に、2人の柄の悪い男性は苛立ちを隠せない様子だ。
「おう、何だ?その目は?」
「くそ弱そうなくせに生意気だぜ。お前」
恰幅の良い男性が、男子高校生の頬へビンタを飛ばそうとする。
しかし…
「っ!?」
「…」
男子高校生は何くわぬ顔で、ビンタを放とうとした彼の腕をギュッと片手で掴んで止めていた。
「離せやっ!」
恰幅の良い男性が腕を強引に振り払って、男子高校生の手を振り解こうとする。
「がっ!」
「…」
「離せ!!おらぁ!!」
「…」
恰幅の良い男性は、ついに両手で男子高校生の腕を振り解こうとする。
しかし、どれだけ彼が頑張っても、男子高校生の腕は微動だにすることなく、その掴んでいる恰幅の良い男性の腕を離すことはなかった。
「何をふざけてんだ!お前!きゃははははは!!」
「ふざけてねぇ!!なんか!!こいつ!ヤバいぞ!!」
「あん?」
「リュウガサキさん!?」
「…あれ?」
恰幅の良い男性が助けを求めるような声色で叫びながら背後を振り返る。
しかし、そこにスキンヘッドの男性の姿はなかった。
「リュウガサキさん!?」
「あれ!?どこっすか!?」
2人の柄の悪そうな男性は周囲をキョロキョロと見渡すが、どこにもスキンヘッドの男性の姿はなかった。
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