第20話 呪言



 緑豊かな公園の片隅で、車椅子に乗りながら空を見上げている女性がいた。


 少し先の未来で悪魔の歌姫と呼ばれて世界中を虜にするアヤカだ。


 しかし、この時の彼女には、その片鱗はまるでなかった。


 動かなくなった足、掠れた声、やつれた顔と誰かを魅了できるようなものはなく、ただ死者のように、生気を失った表情を浮かべていた。




 そして、ふと、アヤカは目に涙を浮かべながら青い空を見上げる。




「…諦めたく…ない」




 才能が欲しい。

 力が欲しい。



 私のことを世界が認めてくれる。

 そんな才能が欲しい。



 そうすれば…母も私を受け入れてくれる。

 お父さんも…戻ってくる。


 また家族が一緒になって暮らせる。


 

 そんなことをどれだけ祈っても、願っても、恋焦がれても、もう夢は叶わない。

 

 もう声も出なければ、足も動かない。

 これで踊りや歌なんて無理だ。





「私は…何でもやる…何でも捨てる…だから…力が欲しい…」


 もはや祈るしかない。

 残されているのは魔法のような奇跡だ。


 しかし、奇跡は必ずしも、善意を持った存在が起こしてくれるとは限らない…




「力が欲しい…力が…」




 彼女が心の底から力を求める。

 その渇望がなにかを呼び寄せたように、急に、青い空が灰色に染まる。



 周囲の緑豊かな木々すら、モノクロのように変化していく。



 落ちゆく葉っぱは空中で止まる。

 遊んでいる子供達は、急に微動だにしなくなる。



 そんな白黒の世界で、色のあるものが空から舞い降りてくる。


 天使のような翼が左右に1枚ずつ生えている本だ。

 表紙はラッパを持った赤子が描かれており、本の色は全体的に黄色だ。





『やぁ!こんにちは!キミをゲームに招待しにきたよー!』





=============




アヤカ「もう終わりよ!何もかも!これまでの努力も全て!アンタのせいで!!」


ユウタ「アヤカさん…?」


アヤカ「お前が自白なんて馬鹿なことしなければ、まだチャンスはあったわ!!」


リン「アヤカの言う通りね。最後まで諦めなければ、感情に流されなければ、勝機は残されていたかもしれないわ」


コウタ「確かに、決まりかけていたとはいえ、自白などする必要は全くなかったな」


リン「アヤカ、今回は素直に諦めなさい。恨み言なんて仕方ないわ」


アヤカ「今回?」


リン「ええ、次のゲームで頑張ればいいわ」


アヤカ「勝手なことを言わないで!!…私は…蘇生できないの!!」


リン「どうして?あなたは上位プレイヤーでしょ?」


アヤカ「ポイントは…全て使ったわ」


リン「なんて馬鹿なことを…!?」


アヤカ「馬鹿なこと!?私には必要だった!必要だったの!!」


アヤカ「母さんが私を愛してくれる!!お父さんも帰って来たの!!やっと手に入れたの!!なのに!!!」


サキ「アヤカさん…」


リン「そう…残念ね」


アヤカ「手も汚した!!体だって汚した!!心も捨てて!!何もかも捨てて!!何でもやって!!勝って!!ここまで来たの!!ここまで!!!」


ジーク「…執念は認めよう」


コウタ「魔王側が負ければ、アヤカは完全に死ぬということか?」


アヤカ「ええ!!そうよ!!!死ぬたくない!!なのに!!こいつが!!!こいつが!!!」


ユウタ「僕じゃないです!ケントが悪いんだ!!こいつがすべて悪いんです!!」


ケント「何言ってんだ!?お前の妄想を俺に押し付けてんじゃねぇよ!」


アヤカ「ユウタ!!アンタが悪いに決まっているでしょ!!」


ユウタ「妄想!?」


ケント「もううんざりだ!!こいつらに構うのはこりごりだ!!とっとと、投票して終わりにしようぜ!」


アヤカ「お願い!!やめて!!ここまで来るのに、ものすごく頑張ったの!!辛い想いもしてきた!!助けて!!お願い!!」


ジーク「すまないが、情けはない」


リン「ええ、アヤカ、悪いけれど処刑させてもらうわね」


アヤカ「お願いです!!お願いします!!やっとなんです…お願い…お願い…」


コウタ「うるさいうるさい。見苦しい」


リン「…早く終わらせましょう」



アヤカ「ユウタ!!お前を呪ってやる!!絶対に化けて出てやるわ!!」


ユウタ「待って!!アヤカさん!!僕は頑張って勝ちますから!!」


アヤカ「お前に期待なんてしてないわ!!」


ユウタ「そ、そんな…」


アヤカ「最初から…アンタみたいな奴!!信用なんかできなかったわ!!こうなったのも、やっぱりって感じが強いわよ!!」


ユウタ「僕は…」


ケント「待てよ!!俺もアヤカに情けはなんかないけど!!どうしてユウタからじゃないんだ!?」


ジーク「言ったであろう。経験者で、手を汚すことに慣れているアヤカの方が、同じ魔王でも脅威だ」


リン「アヤカは…ポイントで才能か能力を交換した可能性が高いわ。非常に危険よ」


ジーク「もう1日はあるのだ。生かしておく魔王はユウタの方が脅威性は少ない」


ケント「ちくしょう!」


アヤカ「あははは!!ユウタ!!お前が殺されてくるのを待ってるから!!」


ユウタ「僕が悪いんですか!?なんで!?アヤカさんは!!どうして僕を責めるんですか!?」


アヤカ「お前が自白なんて馬鹿な真似をしたからよ!!お前が私を殺したようなものでしょ!?」


ユウタ「ケントを処刑してください!!!こいつが一番悪いやつなんです!!」


サキ「ふざけないでください!!ケンちゃんは悪い人じゃないです!!」


ケント「ユウタ!!お前ってやつは!!」


リン「そんな妄言を聞き入れると思うかしら?」


ユウタ「ケントは僕を虐めていたんです!!!お腹を殴るし!!お金も盗られました!!タバコだって裏で吸っています!!」


サキ「ケンちゃんがそんなことするはずない!!」


ユウタ「なにを言って…!?」


アヤカ「アンタみたいな奴は!!そうされて当然でしょ!!」


コウタ「ああ、ケントのいい噂はよく耳にする。そんな戯言で俺達の心が傾くとは思わないことだ」


ジーク「ケントと面識があるが、サキを強く想う優しいやつだと感じた」


サキ「ケンちゃんは誰にだって優しくて!いじめなんて!むしろ!見過ごせない人なんです!!」


ユウタ「それは騙されているんです!こいつに!!こいつの外面の良さに!!!」


サキ「嘘を言っているのはユウタさんです!!ケンちゃんは人望だってあります!古谷北の副生徒会長なんです!!友達だっていっぱいいます!!学校の先生からの信頼も厚いです!いじめなんてしません!!優しいです!!」


ユウタ「嘘なんて言ってない!!」


ケント「サキ!もう、そいつの話に耳を貸すな!!」


サキ「うん!大丈夫!信じないよ!この人の話なんて!!」


ユウタ「どうして…信じて…くれないの…」



コウタ「信じるはずないだろう。お前のような奴は距離を誰もが取りたがるだろう」


リン「ええ、友達にはしたくないタイプね」


アヤカ「本当にキモいわ」


ユウタ「僕を…必要としてくれる人…誰もいないの?」


アヤカ「いるわけないでしょ!!お前なんか誰も必要としていない!!要らないのよ!!邪魔っ!!」



ユウタ「…はははは…あははははは!!」


ケント「笑い出したぞ」


サキ「やめてください!そんな気味の悪い笑い方!!」


アヤカ「キモっ」


ユウタ「はははははは!!そうか…そうなんだね。誰も…信じてくれないんだね…誰も僕を必要と…いいさ、僕が蒔いた種だ…」


ケント「なんかブツブツと言ってるわー」


アヤカ「キモい!本当にキモい!!」



コウタ「さて、アヤカに投票してさっさと終わらせよう」


ジーク「明日は、みな、念の為、外出は控えてくれ。今日はサキが襲撃を受けるだろう。誰もユウタを止められない。見つからないようにすべきだ」


コウタ「俺に作戦がある」


リン「余計なことはしないでほしいのだけれど」


コウタ「俺に任せろ」


ジーク「ケントは俺と共に行動するぞ」


ケント「サキ…必ず生き延びて、ユウタを処刑して勝つからな!」


サキ「うん!信じてる!ケンちゃん!」


サキ「それに…私を襲撃できるようになるまで時間があります!必ず…ユウタさんを見つけ出して!私が倒します!」



ユウタ「わああああああああああああああぁぁぁぁっ!!ああああああああああぁぁぁぁあぁあっ…ああぁぁぁぁああああ!!」


アヤカ「うるさい!喚くな気持ち悪い!!」


ユウタ「皆殺しにしてやる…明日までに僕が!!!お前らを駆逐してやる!!!」


コウタ「聞くに堪えん」


ジーク「投票を始めよう。俺も不快だ」


サキ「はい!」


ケント「おう!」


アヤカ「お願い…待って!やめて!!」


リン「悪く思わないでね」


アヤカ「投票をやめて!!死にたくない!!」


ケント「…悪い」


アヤカ「いや!!いやぁぁぁぁっ!!ここまで来たの!ここまで来たのよ!!!」


サキ「…ごめんなさい」


アヤカ「ユウタ!!!お前は!!!絶対に呪ってやるわ!!絶っ…」


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