第19話 負けられない想い



リン「ケントの家が魔王に燃やされた?」


ケント「そうだ!ユウタに…俺の家は燃やされた!妹と!弟もだ!くそっ!ちくしょう!!ユウタ!!お前は必ず同じ目にあわせてやる!!」


アヤカ「作り話よ!」


リン「アヤカは黙っていて」


コウタ「リン、俺はケントの言うことは事実だと保証できるぞ」


リン「…どうしてかしら?」


コウタ「俺はケントと面識がある。ケントの家が燃えていたのは事実だ。ニュースにもなっている」


リン「そういえば…さっきもそんな話をしていたわね」


コウタ「そうだ。あれが魔王によるものであれば、恋仲であるサキが、ケントの家を燃やしたことになる」


リン「ジークがカモフラージュのためにやった可能性があるわ」


ジーク「そのような真似はしない」


サキ「そんなこと!私が止めます!」


コウタ「疑い過ぎだ。ジークがケントの家を燃やしたとすれば、悪感情を隠して、ここまでのまとまりを見せるはずはない。そこまでの応対力があるように、ケントとサキが見えるか?」


リン「そうね…考えすぎね」


サキ「絶対にしません!私が…仮に魔王でも!大切なケンちゃんが悲しむようなこと!絶対にしません!」


ケント「俺もだ!確かに…サキが魔王だったら、俺は人間側でもサキに協力してたと思う。そこは否定できない!だけど!信じてくれ!仇を討たせてくれ!ユウタが魔王だ!!」


コウタ「俺はコウタを信じるぞ。そもそも、アヤカとユウタは、どこか胡散臭い」


ユウタ「胡散臭い…?」


コウタ「リン、お前はどうする」


リン「いいわ。サキ、ケント、ジークを信じましょう」


ケント「ありがとうございます!!!これでユウタを…仇を討てます!!」


サキ「ありがとうございます!!」


ジーク「処刑するならば、今日はアヤカからにすべきだ」


コウタ「経験者のアヤカを先に処理するということだな。よかろう」


リン「…待って…私は…やっぱり、もう少し考えさせてほしいわ」


サキ「リンさん!ユウタさんは人殺しです!殺したんですよ!まだ幼い…シュウくんとカナちゃんを!!」


ケント「頼む!ユウタを処刑してくれ!!!こいつを処刑してくれ!あいつらが浮かばれない!!俺の大切な家族と家を奪ったこいつを!!!こいつを!!!処刑してくれ!!!」


コウタ「2人とも落ち着け」


ユウタ「ふざけないで!!!」


ユウタ「ケント!お前が悪いんだ!!お前は!!いつも僕から奪っていたじゃないか!!!」


ユウタ「ゲーム機も!お婆ちゃんがくれたヨーヨーも!お金も!プラモも!何でもかんでも!!僕から奪って!僕を虐めて!!花壇を荒らして!!お母さんが作ってくれた弁当もグチャグチャにして!!!」


ケント「だから!俺の家族を殺したのか!?」


ユウタ「そうだ!!!本当は!!!お前をぶっ殺してやりたかった!!!」


サキ「ひどい…そんな嘘まで言って…ケンちゃんを殺しに来るなら!私が絶対に守ってみせる!!」


ユウタ「お前は!今日!襲撃で殺してやる!ケントの彼女なら!こいつと同罪だ!!!」


コウタ「決まりだな…もう迷いはないだろう?リン」


リン「そうね…ユウタが魔王のようね」


ユウタ「そうだ!!僕が魔王だ!!!」


サキ「ユウタさんを処刑してください!!」


ケント「自白しやがったぜ!こいつを処刑しろ!!」


リン「いえ、今日はアヤカよ」


アヤカ「待って!そもそも、私がユウタと仲間だと決まったわけじゃないわ!!」


コウタ「お前はユウタを魔王ではないと言ってただろ。こいつが自白した以上、お前は嘘の結果を言ったことになる」


アヤカ「…っ!」


コウタ「つまり、お前が偽物の聖女だ。そして、ジークが本物の聖女だろう」


アヤカ「ユウタ…やってくれたわね…」


リン「終わりね…」


アヤカ「いやよ!!私は負けられない!!負けられないの!!」




ーーーーーーーーーー




 白い部屋の壁には一面に鏡が張られていた。

 その部屋の中央には、小学生達がダンスの練習をしており、部屋の入り口ではその姿を見守る父兄の姿がある。




「…お父さんとお母さん。少しよろしいですか?」

「はい」

「…」



 部屋の入り口で見守るのアヤカの両親へ、斜め前から声をかけるのはダンスの講師だ。

 2人は講師の言葉に頷くと、まだ幼いアヤカをどこか憐れんだ瞳で一瞥する。



 そして、両親は講師としばらく話をすると、再び私のところへやってくる。

 その表情は、どこか作り物の笑顔に見えた。




 私は分かっていた。

 父と母が私に期待していないことを。


 姉と同じにはなれないことを分かっていた。

 幼いながらに、周囲の大人達の反応から、自分に才能がないということが分かっていた。


 父も母も、私に冷たいわけじゃなかった。

 姉と同じように、同様に、愛情を注いでくれていた。


 だけど、期待だけは同じではなかった。

 2人が私の歌を聞く時、踊りを見る時、どこか諦めているような、憐れんでいるような気がした。




「パパ!ママ!!どうだった!?」


 不安を払拭する様に両親へ私の歌の評価を求める。

 父と母は決まって、満面の笑みで「すごかった」と「良かった」と称賛をくれる。


 

 幼い日の私は…それで満足していた。

 満足できていた。

 父と母の作り物の笑顔と称賛でも、私は満足できていた。



 しかし、成長するにつれて、私の承認欲求は増していく。

 姉と比べられる日々、まるで姉の付属品のような扱いに私は耐えきれなくなっていた。


 

 才能が欲しい。



 姉を超えるような才能が欲しい。


 私は才能の差を努力で埋められるように、ただひたすらに、練習に励んだ。


 歌や踊りが上達すればするほど、姉の背中が遠く見える。

 段々と、私では追いつけないことが理解できてしまう。




 …いつからだろう。

 姉を尊敬や憧れではなく、憎悪のこもった視線で見つめるようになったのは…




ーーーーーーーーーー




「何!?その踊りは!?やり直し!!」



 スーツの女性に見下ろされているのは、座り込んでいるアヤカだ。どう見ても、スーツの女性がアヤカを押し倒したように見える。



 そんなスーツの女性を止めようか迷っているピンク色のレオタードを着ているのがアヤカのコーチである。



 母は、私の歌や踊りが気に入らないと、こうしてすぐに肩や背中を押して転ばせてくる。



「ほら!やり直し!立ちなさい!!」



 倒れたアヤカは肩で息をしており、目は虚で、明らかに疲れ切っいた。



「…アヤカ!!立ちなさい!!そんなんじゃ!!お姉ちゃんみたいになれないわよ!!」



 

 

 姉が事故で死んでから、母は私に姉の代替品としての役割を求めるようになった。


 私も姉を目標としていたし、家族や周囲も、そんな私に期待していた。


 でも、私には、センスがなかった。



 歌も、踊りも、何もかも。

 姉と比べてどうしようもないほど劣っている。


 姉には追いつけないと気付いた時には、母は愛情を無くし、父はどこかへ出てしまった。


 センスがあれば、歌や踊りが姉に追いつければ、また家族が一つにまとまる。




 だから…諦めてなるものか!

 これまでの努力を無駄になんかしたくない!




「…っ!」



 私は血反吐を吐くような思いで立ち上がる。

 今すぐにでも倒れそうだ。


 目眩もするし…

 私は…なんで…こんな…



 弱音なんかダメ!


 ここで踏ん張らないと!





 白く見える景色の中、母の怒号が響く。


「しっかりなさい!!」


「…はい」



 私は…やるしかない…

 才能がないなら、努力で埋めるしかない。



 よし!

 もう1度だ!!



 …






「…お母様、今日はダメそうですね」

「…」



 あれ?

 私?



「バケツに水を汲んできます」

「熱湯にしてちょうだい」

「…わかりました」




 私は…?

 お母さん?


 コーチ?

 どこ?




「起きないですね」

「…ほら!アヤカ!起きなさい!!」


「気を失っているようです…」

「また汲んできなさい!」



「お母様…あまりやり過ぎると」

「この子は●●●と比べて才能なんかないんだから!練習させないとダメよ!良いから!お越しなさい!!」




 お母さん…

 私…頑張るから…


 今すぐ!

 立ち上がるから!




「これは…お母様、病院に連れて行った方が良いかもしれません」

「ふざけないで!」


「しかし…」

「死んでも構わないわ!これでダメなら、どうせ、この子はダメでしょ」


「そ、それは…あまりにも…」

「口答えしないで!あなたはクビよ!!」



「…クビで構いません。それでも、せめて、アヤカを病院に連れて行きます」

「勝手なことしないで!!」

「本当に大事になりますよ!?」


「構わないわ!これでダメなら…もう要らない!」





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