第17話 2人の勇者、2人の聖女



「待てよ!それじゃ、サキが勇者だって知られれば、魔王に殺されるってことか!?」

「ああ」


「死ぬとか死なないとか、本気で言ってんのか!?」

「お前も見たであろう。お前も体感したであろう。その力を」


「っ!?」

「それは…」


「魔王にも、そういう類の力が宿っている。人を殺すことなど容易いほどのな」


「なんだよ…それ!?」

「でも、人が人を簡単に殺すなんて…そんなこと!?」


「この平和な世界では、人を殺すことなど考え難いのかもしれんな。たった数日だが、ここが素晴らしい世界だとわかる」


「それなら!!きっと、魔王だって、人を殺すことを躊躇いますよ!?」


「…しかし、俺と同じように魔王ゲームの経験者はいるだろう。もしかすれば、俺と同じように異世界からやってきたものもいるかもしれない。すでに、人を殺すことに慣れてしまった人間が魔王ならば、勝つために、平気で手を汚してくるだろう」


「そ、そんな…」

「ふざけろ!!なんだよ!これ!サキに何が起きてんだよ!元に戻せよ!!」


「…俺に言うな」


「ぐ!くそ!!くそが!!」


「ケンちゃん、私、怖いよ…」

「安心しろ!!俺が守ってやる!!」

「…うん」



「ただの市民のお前に、魔王からどうやって守るのだ」


「おい!アンタは聖女なんだろ!?」

「ああ」


「結果が出たら、まずは俺に教えろ!」

「構わんが…なんのつもりだ?」


「俺が聖女を名乗る!」

「それで?」


「あいつは俺を狙って、殺しに来るだろ!?」

「可能性はかなり高いな」


「だったら、その時によ!誰が魔王なのか、この目で見てやる!」


「…それで、サキを守ることになると思うのか?自分の身を犠牲にするだけだぞ」

「そうだよ!ケンちゃん!やめよう!」


「サキ…俺に作戦がある」

「作戦?」




ーーーーーーーーーーー





 僕は暗黒の中に浮かぶスマホを見て、もし、意識だけでなく、顔が存在していたら、きっとしたり顔をしているだろうと思う。



 僕とアヤカさんの作戦はかなり順調だ。

 勇者が誰なのか炙り出すこともできていた。


 最終的に、僕が処刑されることとなっても、情報さえ落としてアヤカさんへ繋げられればと割り切っていた。



 ケントが本物の勇者である可能性を追っていたが、そうではない可能性も同時に考えていた。



 つまり、ケントと一緒にいた女の子が勇者である可能性だ。


 そもそも、ケントが勇者であろうとなかろうと、ケントと一緒にいた女の子が誰だったのか、それがサキさんなのかリンさんなのか、その特定はかなり重要だ。


 ケントが勇者であれば、その子が聖女である可能性が高い。

 逆に、ケントが勇者でなければ、その子が勇者である可能性が高い。




==============



サキ「私は勇者です!本当の勇者なんです!」



アヤカ「何を言い出すの?」


コウタ「サキ、何のつもりだ?」


ケント「サキ!!お前!何をやってんだよ!」


サキ「私が勇者なんです!魔王はユウタさんの方です!」


リン「今更、そんな妄言、誰も信じないわよ」


アヤカ「ケントとサキが魔王なのかもしれないわね」


ジーク「それは早計だぞ」


リン「いえ、ケントとサキが結託しているようにも感じたわ。さっきのやりとりでね。2人が魔王である可能性は確かにあるわよ」


ケント「待てよ!本当にサキは勇者だ!!」


ユウタ「嘘です!サキさんもケントさんも嘘を言っています!」


サキ「嘘を言っているのはあなたでしょ!?」


ケント「ふざけやがって!ユウタ!!テメェ!!覚悟しとけ!!」


コウタ「もういい。時間の無駄だ。俺はケントに投票する」


ユウタ「サキさんではなく、ケントさんですか?」


サキ「やめてください!ケンちゃんは魔王なんかじゃないんです!」


コウタ「ああ、少なくとも、ケントは自分が聖女だと嘘を言ってた。魔王である可能性が一番高いだろう」


アヤカ「それはサキも同じではないかしら?」


コウタ「同じではない。気になる点がある。ユウタとサキ、どちらが本物の勇者かは少し考えた方がいい」


サキ「お願いします!ユウタさんを処刑してください!彼が魔王です!」


ユウタ「僕は勇者です!」


ジーク「…コウタに同意だ」


サキ「いいえ!私が本当の勇者よ!」


アヤカ「考える余地なんてあるのかしら?ユウタが偽物であれば、ユウタが魔王である可能性が高くなるわ。そうなれば、ケントとユウタが魔王だったとなるわよね。ケントが仲間を売るように、ユウタを魔王だと言ったことになるわ」


コウタ「そうだ。そうすれば、逆にケントが魔王だと怪しまれなくなるだろう」


リン「なるほどね。さっき、口にしていた作戦ってそういうことかもしれないわね」


ケント「違う!そうじゃない!俺の作戦はそうじゃない!!」


アヤカ「逆に考えすぎだと思うけれど、ユウタとケントの言い合いは、わざとらしさを感じないわ」


コウタ「そうだな、アヤカの言うことも分かる」


リン「いずれにせよ。ユウタとサキ、本物の勇者は、今日の夜に魔王から襲撃を受けるでしょ。わざわざ話し合って見分けるまでもないわ。明日は、残った方を処刑すれば終わりよ」


ケント「やめろ!このままじゃ負けるぞ!」


ジーク「勇者がいなくなるのはかなり厳しいことになるぞ」


リン「ええ、そこは覚悟するしかないわね。役職を開示させた時点で覚悟はしていたでしょ」


アヤカ「そうね。明日は、魔王に見つからないように隠れて過ごしましょう」


コウタ「残りの魔王が、勇者がいなくなったことを良いことに、暴れ回るかもしれないのだな」


ジーク「ああ、そうだ…だから、今日は誰に投票するのか、もう少し慎重になるべきではないか」


リン「意味ないわ。ケントが魔王、サキとユウタのどちらかが魔王でしょ。残りは全員、人間側だわ。処刑するなら、この3人以外はありえないけれど、誰を処刑しても、勇者が死んで、明日、魔王が暴れられる時間ができてしまうのは避けられないわよ」


アヤカ「そうね。何とか…明日は生き延びて、サキかユウタの生き残っていた方を処刑する。それしかないわね」


リン「ええ、それで終わりね」


コウタ「なるほど…了解した」


ケント「違う!!終わりじゃない!!俺は魔王じゃないんだよ!!」


サキ「そうよ!魔王はまだ潜んでいるわ!!」


ジーク「いや、初心者が多いゲームだ。必ずしも、勇者を襲撃しに来るとは限らないぞ」


アヤカ「襲撃するとは限らない?」


コウタ「どういうことだ?」


ジーク「魔王側の勝ち筋で最も勝率が高いのは、今日の夜に勇者を襲撃して排除し、明日の1日で他の参加者を3人殺す。そうなれば、魔王と人間が同数となり、魔王側の勝利になる」


コウタ「なるほどな…ユウタとサキのどちらも、現実で人を殺せるようには思えない」


ジーク「そうだ。この2人の内、どちらが魔王であっても、虐殺のような行為はできないと思う」


アヤカ「それでも…勇者が怖くて、襲撃対象に選ぶかもしれないわ」


ジーク「ああ、経験者なら迷わず勇者を襲撃するだろう。だが、そうなれば、現実の世界で自分が他の参加者を手にかけなければならない。ゲーム外で参加者を殺さなければならない。それができなければ、明日の夜に処刑されるのは自分になってしまう。サキとユウタのどちらにも、そのような覚悟や度胸は見受けられない」


リン「ジークの言いたいことは分かるわ。私も同感ね。ユウタとサキのどちらが魔王であっても、現実で人を殺せるようには見えないわね」


アヤカ「そうなると、勇者以外の誰かを襲撃する可能性が高くなる」


リン「ええ、そうね。明日の投票時間は5人…外しても、明後日は3人…サキとユウタを交互に処刑していけば終わりね」


ジーク「リン、そこが問題だ」


リン「問題?」


ジーク「ああ、いくら度胸がなくとも力はある。追い詰められれば何をするかわからない」


リン「…それも一理あるわね」


ジーク「…そうだ。そこでだ。本物の聖女に出てきてもらおうと思うが、どうだろうか」


コウタ「なぜだ?隠れていた方が良いと言っていたであろう?」


リン「いいえ、ジークに賛成よ。本物の勇者は聖女を必ず護衛対象にしていてもらうわ。それで、本物の聖女に、サキかユウタのどちらが魔王か確認して貰えばいいわ」


アヤカ「仮にユウタとサキが生き残ったとしても、聖女がどちらが魔王なのか見分けることができる…そういうことね」


リン「ええ、5人ならまだしも、外して3人になった時、勇者のいない状態で魔王に暴れられると厄介だわ」


アヤカ「…そうね。聖女に当ててもらう方が得策かもしれないわね」


ケント「待てよ!俺がまるで偽物みたいじゃねぇか!?」


ジーク「ケント、作戦は逆効果であったな」


ケント「…あん?」


ジーク「みな、隠していてすまなかった。私が聖女だ」


アヤカ「いいえ、違うわ。私が本物の聖女よ」


ジーク「なるほど、アヤカとユウタが魔王であったか」


アヤカ「それはこちらのセリフよ…ジーク、あなたが魔王だったとは思わなかったわ」


コウタ「何がどうなっている!?」


リン「これは…想定外だわ」

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