第6話 死の実感
僕は、サキさんが言う「魔王ってそもそも人間なんですか?」という質問に、ギクリとした気持ちになる。
車に轢かれても平気な肉体
腕を軽く振るっただけで相手を骨折させてしまう筋力
どれだけ走っても疲れを知らない体力
どう考えても、今の僕は人間離れしていた。
まさしく「人間ではない」ような、そんな異変が僕の体には生じていた。
僕は…人間じゃなくなってしまったのか?
そんな風に考えて戸惑う僕を置き去りにして、スマホの画面では会話が進行していた。
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サキ「魔王っていうぐらいなので、中身は人間じゃないと思ったんです」
トオル「ん?役職ってだけなんで、中身は人間なんじゃないっすか?」
コウタ「何を言っているのだ貴様は」
シンジ「何か気になることでもあるんですか?」
リン「ええ、トオルの言う通りよ。あくまで役職というだけで、人間であるはずだわ」
サキ「今日、車に轢かれても怪我一つない人がいたんです。むしろ、その人を轢いた車の方が大破してしまうぐらいでした」
ジーク「…なるほど」
コウタ「馬鹿馬鹿しい」
トオル「草w」
ケント「草に草を生やすなw」
サキ「その人が魔王なんじゃないかって、何の根拠もないですが、そう思っただけなんですけど」
リン「いいえ、サキ、貴方の直感は正しいわ」
アヤカ「魔王や一部の役職には、肉体的な強さが増す能力のようなものがあるの」
サキ「肉体的な強さですか?」
リン「そうね。車ぐらいなら轢かれても平気でしょう」
サキ「それじゃ!あの人が魔王なのかもしれないんですか!?」
アヤカ「サキが見たその人が魔王の可能性はあるわね」
コウタ「なるほど、つまり、貴様が見たという人間が参加者であり、魔王である可能性が高いというわけだな」
シンジ「あー、飲み会の続きしたいんで、さっさと俺に投票してもらっても良いですかね?」
ケント「お!そしたら、サキさん、その人の特徴とか教えてもらっても良いっすか?」
コウタ「待て、問題ないのか?」
ケント「何がっすか?」
コウタ「役職を見てみろ。この戦闘力補正とやらが、その肉体的な強さのことを示しているのだろ?」
トオル「役職…」
ケント「…魔王はAで、勇者はSっすか」
トオル「勇者!強っ!w」
コウタ「迂闊に特徴を話してしまえば、魔王に勇者が誰なのかわかってしまうのではないか?」
トオル「あー!勇者が魔王にバレるのは不利だな!」
ケント「何で?」
トオル「勇者が襲撃されて殺されば、誰も聖女を護衛できなくなるからって感じ」
ケント「お、それじゃ、俺がぶっ殺されるってことっすか」
トオル「そうそうw」
ケント「www」
リン「コウタの言う通りよ。サキが見た人は勇者の可能性もあるわ」
アヤカ「ええ、特徴を言うのは伏せた方が良いわ。魔王からすれば、自分以外にすごく強くなっている人間を探せば、それが勇者である可能性が高いもの。名前を調べて、一致する参加者を襲撃しちゃえばお終いよ」
リン「参加者のこの名前はみんな本名だからね」
ジーク「聖女が襲撃されてしまう以外にも、勇者がいなくなってしまうことのデメリットは大きい」
トオル「ん?何かあんの?」
コウタ「個人情報の保護はどうなっているんだ!」
ジーク「この編成では、誰も魔王を止められなくなる」
アヤカ「このゲームは、何も処刑や襲撃だけで敵陣営を減らさなくても良いのよ」
トオル「おふwww」
トオル「まさか、直に殺しても良いとか言わないよな?www」
アヤカ「その通りよ」
リン「ええ、勇者が殺されてしまえば、魔王は手当たり次第にゲーム範囲内の人間を殺し尽くせば、自ずとゲームに勝てるもの」
コウタ「馬鹿げているぞ!」
ジーク「過去、今回のような配役で勇者が殺されてしまったゲームでは、魔王が暴れに暴れて、襲撃を用いずに参加者を皆殺しにしてしまったこともある」
リン「ええ、ジークの言う通りよ。特に、今回は、この市内とそこそこ狭い範囲だわ」
トオル「範囲?」
アヤカ「ゲーム中の参加者は、決められた範囲外に出られないのよ」
トオル「げっ!何だそりゃ!?」
ケント「出かけられねぇっす!!ゲームっていつまでやんだよ!?」
アヤカ「長ければ3日か4日は掛かるわね」
トオル「あの赤い変な透明な膜はそういうことか」
ケント「あー!あの不気味なやつっすね」
トオル「そうそうw」
ケント「不気味過ぎて吐きそうになったっすw」
アヤカ「近付き過ぎると吐き気だけじゃ済まないわよ」
ケント「怖w」
コウタ「だが、古谷市はそれなりに広いぞ。参加者を皆殺しにするなど、なかなかできるとは思えん」
リン「魔王からすれば狭いわよ」
アヤカ「魔王は、肉体的な強さとは別に、魔法も使えるの」
コウタ「馬鹿馬鹿しい」
ケント「魔法が使えるとしてw」
ケント「そんなに暴れたら、俺らが殺される前に、警察に捕まらないんっすか?」
トオル「車に轢かれても無事なぐらいだったら、警察じゃダメじゃね?」
ケント「あー!確かにそうっすねw」
サキ「待ってください!あの人が魔王だったら…簡単に人なんて殺せちゃいますよね!?」
ジーク「その通りだ」
アヤカ「さっきから、それを話しているでしょ?」
サキ「そうじゃないんです!つまり…このゲームで本当に人が死ぬかもしれないってことですよね?」
リン「ええ、それも説明したはずよ」
コウタ「何が言いたいんだ?」
サキ「それぐらい強くなった人なら、その気になれば人を殺せちゃいますよね!?」
コウタ「だから!何が言いたいのだ!?」
サキ「そんな力を授けられるなら、このゲームの処刑とか襲撃とかで、本当に人が死ぬんじゃないですか!?」
ケント「あ、いや、それとこれは別っすよね」
コウタ「試してみれば良かろう」
トオル「試す?」
コウタ「もし、本当に死ぬというならば、シンジで試せば良いだろう」
シンジ「はいはい、さっさとやっちゃってくださーい」
サキ「でも!本当に死ぬかもしれないんですよ!?」
コウタ「そうだとしてもだ。魔王側に死んでもらうのが被害を最小限にできるのではないか?」
ケント「いや、まぁ、そりゃそうっすね」
トオル「6人と3人ってことだしな」
サキ「みんな軽すぎませんか!?人の命が掛かっているかもしれないのよ!?」
アヤカ「いずれにせよ、魔族だとわかったシンジを処刑するしかないわ」
リン「ええ、そうね」
トオル「ま、確実に魔王側だしな」
ケント「みんなが良いなら、良いんじゃないっすかね」
コウタ「ならば、シンジに投票するぞ」
リン「そうね。みんな、今日はシンジへ投票して」
トオル「お、すげぇ!シンジさんのところに赤い丸が増えてく!」
ケント「俺にも赤い丸があるんだけど!?」
トオル「ウケるw」
ケント「2つってことは魔王だな!俺に入れたの!?」
シンジ「1個は俺だ、投票は俺もしないと終わらないみたいですからね」
アヤカ「全部で7票よ」
リン「誰が投票していないのかしら?」
サキ「私は投票なんかしません!」
ジーク「そういえばだが、ユウタはいるのか?」
トオル「ユウタ?」
コウタ「誰だそれは?」
ジーク「参加者は9名だ。1人だけほとんど会話に参加していないぞ」
ユウタ「すいません!います!」
ケント「何か、俺の知っている奴と名前も感じも似てやがるw」
アヤカ「ケント、やめなさい」
リン「ケント、個人を特定出来そうな発言は控えなさい。魔王に情報を渡すだけになるわ」
サキ「皆さんは、本当にシンジさんに投票するつもり何ですか!?」
アヤカ「ユウタが魔王だったら、聖女のケントを真っ先に殺しに行くわよ」
ユウタ「僕は魔王なんかじゃありません!」
サキ「本当に死ぬかもしれないんですよ!?やめましょう!」
ジーク「ユウタ、君は誰に投票するのだ?」
ユウタ「それは…」
ジーク「君が人間側なら、シンジへの投票に迷う必要はない」
アヤカ「そういうので迷っているわけじゃなさそうよ」
サキ「本当に死ぬかもしれません!投票なんてやめましょう!」
リン「時間内に全員が投票しなければ、全滅になるわ。してもしなくても、人は死ぬわよ」
ユウタ「僕には投票なんて無理です!」
シンジ「あー!ユウタ君!俺に変な気を使わないで良いですよ。さっさと終わらせましょう」
ユウタ「シンジさん!本当に殺されちゃうかもしれないんですよ!?」
シンジ「いやいや、みんなが必死になりすぎでしょ」
サキ「周りは真っ暗だし!変なの出たし!おかしいことばかりですよ!?本当に死ぬかもしれないんですよ!?」
シンジ「はいはい…俺はとっとと終わらせたいんで、俺に投票してください」
アヤカ「ユウタとサキ、2人がちゃんと投票しないと、私達全員が死ぬことになるわ」
サキ「なんですかそれ!?」
アヤカ「ルールには書いてないけれど、生きている限り無投票は許されないの」
リン「ええ、アヤカの言う通りよ」
コウタ「待て!なぜルールに書いていないのに、無投票だと全員が死ぬことになると知っているのだ!?」
コウタ「全員が死ぬってことはだ!生き残りなどいないはずだろ!?であれば、無投票だと全員が死ぬという情報はどこから知り得たのだ!?」
アヤカ「アイテムがあるわ。ゲームに負けても消滅しないものがあるのよ」
コウタ「アイテムだと!?」
リン「ええ、ゲームに勝つとポイントが貰えるのよ。それで、消滅を防げるアイテムを買えるわ。ま、消耗品だけどね」
ジーク「我らは何回も魔王ゲームを行なっているが、負けたことや殺されたことがないわけではない」
トオル「あー!それで、何度も生き残ってこれたわけか」
ケント「全勝無敗ってわけじゃないんっすね」
トオル「人狼ゲームは勝率が7割も行けばそこそこだし、何戦もやって無敗なんて無理だ。何かおかしいと思ったけど、そんなアイテムがあったわけだな」
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