第5話 ゲーム開始
僕は家に戻ることもできず、市内を駆け回る。
無我夢中だったからなのか、どれだけ走っても走っても、体が疲れを感じることはなかった。
「おかしい…何だ…これ」
とっくに10km以上の距離は走っただろう。
それでも、僕の体はまったく疲れることを知らない様子だ。
当然、僕に10kmを楽に走れる体力なんてない。
そんな体の異変への違和感を胸に抱きつつ走っていた僕だったが、更なる異変に意識と視線を奪われることになる。
「…何だあれ!?」
目の前に広がるのは、商業施設が道沿いに並ぶ2車線道路なのだが、途中にはまるで結界のような赤い透明な膜が見える。
"死"を連想させるような、不気味な赤い膜だ。
その不気味さに、僕は思わず足を止めて、空を見上げる。
「…空まで続いている」
赤い幕はドーム状に覆われており、まるで市内をスッポリと覆っていそうなほどの大きさはあるようだ。
気付けば、僕が住む古谷市と隣の蓮堂市のちょうど境目に赤い膜はあるようだ。
赤い膜がちょうど被さるように設置されている看板には「ようこそ蓮堂市へ」と書かれている。
きっと、あの看板の反対側には「ようこそ古谷市へ」と書かれているだろう。
「…大丈夫なのか?」
そんな不気味な赤い膜を、車や歩行者が平然とくぐり抜けて行く。
車の運転手や歩行者は異変を感じていない様子であり、まるで赤い膜なんて存在しないかのような反応を示していた。
「…」
しかし、僕は、本能的に赤い膜へ恐怖を感じていた。
あの膜に近付いてはいけない。
きっと良くないことが起きるだろう。
そんな予感が悪寒と共に、体の底から込み上げてきた。
「引き返そう」
僕は、来た道を戻ることにした。
特にアテがあるわけでもなければ、家に帰ろうと考えたわけではない。
だけど、あの赤く透明な膜を超えて、その先に進んではいけないと本能が警鐘を鳴らしていた。
しかし、あの赤い膜が僕を閉じ込めるようにして古谷市を覆っていることに気付くのは、すぐ後のことだった。
ーーーーーーーーーーー
僕は古谷市の外へ出ることができず、こうして家の近くにまで戻ってきていた。
誰もいない暗がりの公園で、あれだけ走ったのにも関わらず乾いていない喉を、カタチだけでも潤そうと蛇口を捻る。
「…」
細く噴き出す水を喉の奥に感じながら、僕は、自分の体に違和感を感じていた。
どれだけ走っても疲れない体、先生の腕を振り払っただけで直角に折ってしまう筋力
そして、車に轢かれても返り討ちにしてしまう丈夫さ。
普段の慣れしたんだ自分の体の筈なのに、どこか自分の体ではないような、そんな違和感があった。
そして、夜空を見上げれば、空を覆う透明な赤い膜が見える。
僕を含めた周囲に異変が生じているのは確かなようだ。
「…僕はどうすれば良いんだ…これから…」
そんな時だ。
僕のポケットから通知音が鳴り響く。
「…っ!」
僕はゆっくりとポケットからスマホを取り出すと、そこには画面が割れているスマホがあった。
僕自身は無事でも、所持品が無事だとは限らないようだ。
「…え、あれ?」
体が動かない?
何だこれ?
目の前に映る景色が全て止まって見える。
声が出ない。
何だ…これ
世界が…吸い込まれて…行く?
世界の色がどこかに吸い込まれていくように消えていき、僕の周囲が真っ暗になる。
これまでに感じたことのない暗闇の中に僕はいた。
まさしく暗黒の中に取り残されてしまったようだ。
手も足も動かない。
言葉も出ない。
暗闇の中で、僕の意識だけが存在していた。
全てが停止した世界で意識だけが存在しているような、そんな暗闇の中にいるような気分であった。
そんな時だ。
僕のスマホがひとりでに動き始めた。
フワリと僕の手から離れると、スマホは僕の顔の前にまで浮かび上がってくる。
その割れたスマホの画面には、何かチャットのようなものが表示されていた。
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目「ようこそ!魔王ゲームへ!」
目「私はメインゲームマスターの目と申します。どうぞよろしくお願いします」
目「さて、皆さま、1ターン目の投票時間となりましたので、お話し合いのため、こうして時間を止めさせていただきました」
目「止まった時間は、感覚的には1時間となります。この1時間で誰を処刑するのか話し合っていただきます」
目「今のリンクにゲームのルールが記載されております。まだお読みでない方は、すぐに目を通していただく事をお勧めします」
目「それでは、良い殺し合いを」
アヤカ「経験者の人、いる?」
シンジ「経験者?」
トオル「俺はやったことあるぜ。こういうの」
ジーク「私も初参加ではない」
アヤカ「あら、異世界人がいるなんて珍しいわね」
ジーク「訳あって、こちらへ来た」
アヤカ「そう、別に興味はないわ」
ケント「何すか、この魔王ゲームって」
コウタ「仕事中なんだが、どうなっているんだ。これは」
アヤカ「初参加者が多いわね」
アヤカ「えっと、残り50分から始めるから、ルールがまだの人は見てきて」
ケント「だれか説明してください!」
コウタ「なんで平然としている奴らがいるんだ?」
コウタ「周囲が真っ黒だぞ!」
アヤカ「ルールがわからない人は、GMのリンクを見てきなさい」
ケント「これ、みんなで人狼やりましょうって事ですよね?」
アヤカ「ええ、本当に命懸けのね」
ケント「www」
トオル「草」
コウタ「俺は遊んでいる暇なんかない」
リン「ま、最初はこんなもんよね」
コウタ「大事な会議中だったんだぞ!」
アヤカ「コウタ、あまり個人情報に繋がることは言わない方が良いわよ」
コウタ「俺に指図するな。仕事中だったんだぞ。下らない真似をして、この損害はどうするつもりだ?」
トオル「誰に言ってんだよw」
リン「大丈夫よ。時間が止まっているから」
コウタ「時間が止まっているだと?」
リン「ええ、話し合いが終われば、すぐに商談の続きができるわ」
コウタ「何を頭がイカれたこと言ってんだ?」
リン「世界が真っ暗でしょ。光すら止まっているから暗闇になってるの」
アヤカ「投票時間が19時から19時って書いてあったでしょ。あれは、投票時間での話し合い中は、時間が停まっているって意味なのよ」
コウタ「あんな迷惑メールを間に受けるなど馬鹿馬鹿しいぞ!」
=============
何だ…何だよ…これ?
僕はチャット画面と、その上部に表示されている時計を見つめる。そこには「残りの57分」と表示されている。
ルールがわからないことにはどうしようもないぞ。
50分から始めるって言ってたよな。
えっと、ルールは…これか!?
僕がスマホの画面を意識するだけで、手を触れずに、スマホを操作することができていた。
目と名乗る存在のチャットに記載されているURLを意識すると、画面がパッと切り替わる。
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◇勝敗条件
人間に紛れている魔王を全て「処刑」できれば人間の勝利
逆に、人間と魔王の数が同数となれば、魔王の勝利だ。
◇処刑とは
「処刑」は1ターンに1人だけ実行することができる。
「処刑」の対象者として選ばれる基準は多数決であり、参加者が「処刑」したい人間を選び投票する。
その投票数が1番多い者が「処刑」の対象者となる。
「処刑」の対象者として選ばれたものには”死”が訪れる。
なお、投票数が同数であった場合、同じ得票数の人間からランダムに選んで処刑される。
◇襲撃とは
「襲撃」は1ターンに1度、魔王側が参加者から選んで実行することができる。
選ばれたものには”死“が訪れる。
参加者の中に、魔王が2人以上いる場合、「処刑」と同様に多く選ばれた者が襲撃の対象者となる。
名前を書かれた数が同数の場合、ランダムで襲撃の対象者が決まる。
◇役職
・市民 能力:なし 戦闘力:なし
・聖女 能力:占い 戦闘力:なし
『選んだ相手が魔王か確認できる』
・司祭 能力:神託 戦闘力:なし
『処刑した参加者が魔王か確認できる』
・勇者 能力:護衛 戦闘力:S
『自分以外の参加者を1人選んで襲撃から守ることができる』
◆役職
・魔族 能力:なし 戦闘力:C
・魔王 能力:襲撃、共感覚 戦闘力:A
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まさに人狼ゲームだぞ…
僕の役職は魔王か…
つまり人狼ってことだろ?聞いたことはあるけどやったことなんてないから、何をすれば良いのかわかんない…
疑われたら終わり…殺されるのか!?
いや、そんなバカな。
でも、この異変は…
=========
アヤカ「今回が初参加の人は教えて」
コウタ「初だ」
ケント「初めてっす」
ユウタ「僕も初めてです」
トオル「人狼はありますけど、魔王ゲームは初でーす!」
シンジ「俺も初めてです」
サキ「私も初めてです」
リン「初参加が6名ね」
コウタ「おい、残り時間が51分になったぞ」
アヤカ「ルールを見ていない人はいない?」
・
・
・
リン「いないようね」
コウタ「50分になった。さっさと始めて終わらせるぞ」
アヤカ「それじゃ、聖女の役職を持っている人は名乗り出て」
ケント「何でですか?」
リン「聖女は、誰が魔王か特定できるからよ」
コウタ「聖女が魔王にとって脅威なのは理解できる。自ら正体を明かせば、魔王から襲撃されることにならんのか?」
アヤカ「勇者がいるでしょ。誰が聖女なのかハッキリとさせて、勇者がしっかりと護衛した方が良いわ」
シンジ「でも…それなら、みんなが聖女だって言い出しませんか?」
ケント「ん?何でだ?」
コウタ「なるほどな」
シンジ「魔王から襲撃されたら殺されるからです。それなら、勇者に護衛してもらえるように、聖女だって名乗ろうと考えませんか?」
コウタ「ああ、魔王に襲撃されれば死ぬんだろ?」
アヤカ「襲撃されても仮死状態になるだけで、本当に死ぬのはゲームに負けた時よ」
コウタ「仮死状態でもふざけるなだ」
シンジ「仮死でも嫌ですよ」
トオル「負けたら死ぬとか笑えないw」
ケント「笑えないにwってなんだよwww」
シンジ「ケントさんとトオルさんは、もう少し真面目に話しましょう」
トオル「マジだぜ。こっちもな」
コウタ「襲撃だとか仮死とかふざけるな。なぜ、この俺が死なねばならんのだ!」
サキ「何だか、本当に死ぬみたいに話していませんか?」
シンジ「…そう言われると、なんでマジになってたんですかね」
ケント「異常事態っちゃ異常だからじゃないっすか。知らんけど」
サキ「確かに異変は起きてますけど、だからって、こんなゲームで死ぬなって変ですよ」
コウタ「ふむ、確かに雰囲気に呑まれていたな」
アヤカ「いえ、ゲームに負けたら、本当に死ぬわよ」
リン「ええ、何人も死んでいく姿を見送ってきたもの」
ジーク「2人の言う通りだ」
トオル「草」
ケント「何か空気を読まない奴らがいまーす」
コウタ「馬鹿馬鹿しい。異常事態なのは認めるが、ゲーム如きで死ぬとは考えられん」
トオル「アホらし」
ケント「てか、アヤカさんやリンさんは、この魔王ゲームの経験者ってことっすよね?」
アヤカ「そうよ」
リン「そうね」
ケント「あ、ジークさんもか」
ジーク「何が言いたい?」
ケント「3人が生きていて、経験者ってことは、その話が本当なら人殺しってことですよね?ヤバくないっすかw」
アヤカ「否定しないわ」
リン「ええ、何人も殺して生き延びてきたわ」
トオル「カッコつけw」
ケント「厨二病!w」
コウタ「馬鹿馬鹿しい」
サキ「人が死ぬかどうかはさておき、ゲームをさっさと終わらせたいので、どうすれば良いですか?」
リン「時間内でも全員の投票が済めば終わるわ」
シンジ「なら、変にあれこれ言うよりも、誰を処刑するか話し合った方が良いですね」
コウタ「誰でも構わんから、さっさと投票するぞ」
ケント「それじゃ!コウタさんにみんなで投票しましょう!」
コウタ「貴様!ふざけるな!!」
ケント「あれあれ?ビビってません?」
トオル「ゲーム如きで死ぬはずがないんですよね?」
コウタ「ビビってなどおらん!」
シンジ「あー!ストップ!とりあえず、万が一に備えて、なるべく勝つ方向で話を進めましょう」
サキ「それで、どうすれば良いんですか?」
ジーク「アヤカが言った通り、聖女が殺されると、一気に人間側が不利になる。聖女は名乗り出てほしい」
アヤカ「そう、聖女は名乗り出て、誰が魔王で、誰が魔王ではないのかをみんなに伝えるの」
サキ「私は聖女ではありません」
コウタ「俺も違う」
ユウタ「あ、えっと、僕も違います」
トオル「俺も違いまーすw」
リン「ジークとアヤカも違うわよね?」
アヤカ「ええ」
ジーク「ああ」
ケント「あー、えっと、俺だ」
トオル「草」
コウタ「お前が?」
トオル「聖"女"じゃねーし!」
ケント「知らないっすよ。何故か聖女だって言われたんっすから」
アヤカ「役職と性別は関係ないわ」
リン「ケントが聖女ね」
シンジ「ケントは聖女じゃない。俺が聖女です」
コウタ「何だ?聖女が2人いるのか?」
リン「シンジとケント、2人に聞くけど、誰かが魔王かどうかって出た?」
シンジ「トオルだ。トオルは魔王ではないと出ています」
ジーク「シンジは偽物だな」
シンジ「は?」
ケント「初日は能力が使えないってあるぞ」
リン「ええ、聖女の能力が使えるのは今夜からよ」
シンジ「な、なんですか!?どういうことですか?」
リン「簡単な罠に引っ掛かったわね」
コウタ「ん?つまり、シンジが偽物ということか?」
トオル「初日が昨日で、能力は今夜から使えるのに、すでに俺が魔王じゃないなんて知るはずがないもんな」
シンジ「ひでぇ!!騙したな!!」
リン「ルールをしっかりと確認しないのが悪いわ」
コウタ「つまり、シンジは偽物ってことで良いんだな?」
リン「ええ、聖女だと嘘を吐いたってことは、シンジは魔王側でしょ」
ケント「ん?なんでそうなるんだ?」
コウタ「撹乱させるメリットがあるのは、魔王側だからだろう」
ケント「撹乱?メリット?」
トオル「聖女が2人いて、どっちが本物か分からなきゃ、仮に本物の聖女がこいつが魔王ですって周知しても、周りは本物が言っているのか、偽物が言っているのか分からないから、こいつが魔王ですってのが本当のことかどうかわからないわけだ」
ケント「なるほどっすね」
トオル「ま、割とセオリーだけどな」
シンジ「あー!そうだよ!俺は魔族だ!魔王じゃないけどな!はいはい!残念でした!」
ケント「んー!これ、シンジを処刑しておいた方が良いんすか?」
アヤカ「そうね。魔族でも魔王側だから、確実に敵を減らした方が良いかもしれないわ」
ジーク「ああ、アヤカの言う通りだ」
リン「今日の処刑対象者はシンジで決まりね」
コウタ「何だ。これでゲームは終わりか?」
サキ「待ってください!」
リン「どうしたの?」
サキ「そもそも、魔王って人間なんですか?」
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