第36話

 さて、次は誰を狙うか。

 リヴェラはさすがに二人相手だとキツイようで、防戦一方でリングの端へと追い込まれている。


 負けるのは時間の問題だ。

 俺は後ろを振り向き、クリフに近寄った。


「クリフ。リヴェラ達が戦っている間、俺達も戦おうぜ」


 俺がクリフに提案したと同時に観客席がザワザワと、どよめく。


「リヴェラ選手、リトル・ゴーレムのパンチを腹部に食らい場外へ! 優勝候補でも二人相手では分が悪かったようだ! ここで三つ巴の戦いへと突入だ!」


「アリス、コリン。途中でハンナ達に邪魔をされるかもしれないが、時間がない。始めるぞ」

「うん!」

「あぁ」


 俺とアリスは剣を構える。

 クリフが最初に剣で攻撃をしてきたのは――。

 アリスだった。


 クリフ相手に、アリス一人じゃ荷が重い。

 俺が助太刀に入ろうと近寄った瞬間、ハイスの火炎放射が邪魔をする。


「ちっ……」


 火炎放射が肩に掠り傷を負う。


「ハイス。コリンは任せた」


 ハイスは返事をするかのように雄叫びをあげた。


「邪魔をすんじゃねぇ!」


 俺がロングソードを振るうと、ハイスは上空に逃げ、火炎ブレスを放ってくる。

 クソッ!


 意図的かどうかは分からないが、上手に俺とアリスを分断するじゃねぇか。


 ハイスの火炎ブレスをかわす度に、俺とアリスとの距離がどんどん離れていく。


「リトルちゃん、やっちゃって!」


 ハンナの声が聞こえたと思うと、クリフが吹き飛んで行くのが見える。


 ハイスはそれに気付き、クリフの方へと飛んで行った。

 ハンナの奴、もうこっちに来たのか。


「コリン。怪我はない」


 アリスが俺のもとへ駆け寄ってくる。


「掠り傷程度だから、大丈夫だ」

「そう、良かった」


 ハンナは不機嫌そうに頬を膨らませ、俺達の方へと近づいてきた。


「ちょっとあなた達。あの人達とは私が先に戦っていたのよ! 邪魔しないでくれる!?」


 腰に右手を当て、左手でクリフの方を指差しながらそう言った。


「そうは言っても、これはバトルロワイヤルだ。誰と戦おうが勝手だろ?」

 、

 ハンナは溜息をするかのように、鼻から息を吐くと、左手を下ろした。


「そうね。だったら、あなた達から相手してあげる」


 斧を構えると、ニコッと不敵な笑みを浮かべた。


「それでも良いぜ」


 俺がそう言ってロングソードを構えようとした時――。


「ちょっと待った」


 クリフが止めに入る。


「なに? リトルちゃんの攻撃を受けて、もう戻ってきたの?」


「俺はこいつ等と戦いたい」

「だから? 私に指をくわえて待っていろと?」

「いや。だからお前達まとめて相手にしてやるよ」


 ハンナはクリフの言葉が不快だったのか、強張った顔を浮かべる。


「はぁ? 何それ。私とリトルちゃんをなめてるの?」

「いや、そんなつもりはない。少し時間をくれれば、お前達が満足する戦いができるはずだ」


 ハンナはそれを聞いてニヤリと微笑む。


「へぇ……面白い。だったら見せて貰おうじゃないか。リングの中央で待ってる。行こ、リトルちゃん」


 ハンナはそう言って、リングの中央へと歩いて行った。


「そんなこと言って、大丈夫なのか?」

「分からない」


「選手たちが何やら揉めているようだが大丈夫か? 時間は残すところ6分だ!」

「時間がない。とにかくやれるだけやるよ」

「分かった」


 俺達はリングの中央へと移動する。

 ――中央に着くと、俺とアリスはハンナの隣へ。

 クリフとハイスは俺達の正面に立った。


「もう準備は終わったの?」

「いや、これからだ。そう焦らせるな」


 クリフはそう言って、布の袋に手を突っ込む。

 取り出したのは――。


「進化の結晶か……」

「そう。こいつを使えば少しは互角に戦えるだろう」


 互角?

 いまでこそ、俺達と互角に戦っていたんだぞ?

 そんなはずはない。

 俺は思わず固唾を飲んだ。


 クリフがハイスの胸の中央に進化の結晶をはめる。

 すると、俺の時のように眩い光が辺りを包んだ。

 眩しくて目を開けていられない。


「――もう目を開けて大丈夫だぞ」


 クリフの声が聞こえ、目を開ける。


「神竜タイプかよ……」

「なんという事でしょう! クリフ選手のドラゴンの姿が進化を遂げ、九頭竜のように9つの頭を持ったドラゴンになってしまった!」


 それだけじゃない。

 体も頭に合わせ、全体的に一回り大きくなっている。


 観客は度肝を抜かれているのか、シーンと静まり返っていた。


「どうやらハッタリじゃなかったようね」


 そう言ったハンナからは笑みが消えている。

 ハイスを一目みただけで、強敵だと認めているようだ。


「さぁ、始めようぜ」


 クリフはまるでラスボスの様な風格で、始まりの合図を告げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る