第35話

 俺が鞘から剣を抜いて、蔓を切ろうとした瞬間、他の蔓が俺の腕に絡まり邪魔をする。


「なんだよ、これ」


 何重にも蔓が巻き付けられていて、ビクとも動かない。


「アリス! 君のロングソードで切れるか?」

「やろうと動かしているけど駄目! 動かない!」


 だろうな。

 どうする……このままじゃ、アリスが場外に飛ばされちまう!


「ハイス。火炎放射だ」


 クリフの声が聞こえ、ハイスの火炎放射によって、アリスの足を捉えていた蔓が焼き切れる。


 アリスが地面に落ちる寸前でクリフはキャッチをした。


「俺達とまだ戦っていないだろ? 油断するなよ」

「悪い。クリフ、どうやってここに?」


 ハイスが俺に近づき、腕に絡まった蔓を炎で焼き切ってくれる。

 クリフはアリスを地面に下ろした。


「ありがとう」


 アリスがお礼を言うと、クリフは黙って頷く。


「ハンナも、蔓に捕まっているんだよ」


 ハンナの方に視線を向けると、確かに両腕が捉えられていた。


 ゴーレムも同じく両腕が捉えられ、身動きできない状態にされている。


「俺はお前達とサシで勝負したい。先にバイティング・カズラから片付けるぞ」

「了解!」


 アリスが返事をし、俺は頷く。

 俺達は中央に居るイティング・カズラに向かって、動き出す。


「おおっと、リヴェラ選手。見動き出来ないハンナ選手を狙っているのか?」


 レフェリーの言う通り、リヴェラは俺達と反対のハンナ達の方へと動き出している。


 バイティング・カズラをやるなら今しかない!

 俺達は襲ってくる蔓を切り払いながら、前へと真っ直ぐ進む。


「ちっ、切りがない」

「でも、着実に前に進んでいるよ」

「もう少しの辛抱だ。あと少しでハイスの火炎放射がバイティング・カズラの本体に届く」


 クリフがそう言った時、何やら観客席がどよめく。


「おい、嘘だろ……」


 両手が塞がった状態なのにハンナ達は、腕力だけで蔓を引き裂こうとしている。

 何て奴らだ……俺はあの子に驚かされてばかりいる。


「私とリトルちゃんをなめるなッ!」


 微かにハンナの叫び声が聞こえ、ついに二人とも蔓を力ずくで引き裂く。


 こりゃ、状況が分からなくなってきたぞ……。

 ハンナ達が居ない方が有利なのに、何だかワクワクしてしまう。

 負けてられねぇ!


「しまったッ!」


 俺がそう思った瞬間、後ろに居たクリフが声を上げる。

 俺は立ち止まり、後ろを振り返った。


「どうした?」

「すまない。ハイスの口を蔓で封じられた。解くから先に行っていてくれ」

「分かった」


 俺とアリスだけで、前に進む。

 後少し――クリフなんて待ってられねぇ。


「アリス、やるぞ」

「了解、そのつもり!」


 アリスが俺を追い越し、前に出る。

 蔓がアリスを捉えようと伸びてくるが、ロングソードで切り払った。

 蔓がパラパラと地面に落ちていく。


 その隙を狙って、俺は思いっきり地面を踏みこみジャンプをする。

 その勢いのまま――。


「リフレクト・ストライク」


 バイティング・カズラの本体。

 幹の部分に拳を叩きこむ!


 幹が抉れ、メキメキと木片が飛び散り、勢いよく場外の方へと吹き飛んでいく――。


 だがバイティング・カズラは枝と蔓をリングに当てることで勢いを殺し、ギリギリのところで、止まってしまった、



「ちッ。さすがに一筋縄ではいかないか」

「いや、これで終わりだ。ハイス、蔓を焼き切って突き落とせ」


 クリフが俺の後ろから指示を出す。

 ハイスは上空から火炎を吐き出し、バイティング・カズラを支えていた枝や蔓を焼き払う。


 支えが無くなったバイティング・カズラが斜めに傾いた所で下降して、足で枝を掴むと、そのまま場外の方へと、突き飛ばした。


 バイティング・カズラがズシンッと重そうな音を立て、場外へ落ちる。


「ここでリヴェラ選手のパートナーが脱落だ~! 優勝候補のパートナーがここで脱落とは誰が予想したでしょうか?」


「さぁ、残すところ10分。残っているのは選手4名とパートナー3匹。ここからどんな熱い展開が繰り広げられるのか! 目が離せない状況になってきたぞ」

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