第34話


「アリス。まずは正面のモゲールを狙うぞ」

「了解!」


 奴も同じ事を考えているのか、真っ直ぐこちらに向かってくる。


「キングフロッグ。ウォーターガンで、奴らを狙え」


 モゲールの指示で、キングフロッグの頬がプクッと膨れ上がる。


「アリス。カエルの口が開いた瞬間、左右に避けるぞ」

「了解」


 キングフロッグが口をあけ、ビームのような細長い水の塊を放ってくる。


 俺達は余裕で左右に避けた。

 お互いリングの中央に差し掛かったところで、立ち止まる。


「一番弱そうな奴を先に倒そうと思って来てみれば、お前シールドキャットを連れていた女じゃないか。シールドキャットはどうしたんだ? 使えないから洞窟に置いてきたのか?」


 モゲールは相変わらず、ニヤニヤと不快な笑みを浮かべている。


「そんな事する訳ないでしょ!」

「じゃあ、こいつがあの時のシールドキャットか? クックックッ」


「何が可笑しいんだよ」

「シールドキャットごときに、進化の結晶を使ったのかよ。勿体ねぇな」


 あの時は人間の言葉がしゃべれなかったから言い返せなかったけど、いまはあの時とは違う。


「口ばかり動かしてないで、シールドキャットごときかどうか試してみろよ。それとも、そのごときにやられるのが怖くて、手が出せねぇのか?」


「そんな訳ねぇだろ! キングフロッグ、シールドキャットを押し潰せ!」


 モゲールはプライドが高いのか、安い挑発に乗って来る。


 キングフロッグは指示通り、俺を押し潰そうとジャンプをしてきた。


「ふ……やっぱり、その程度かよ。アリス、危ないから下がっていてくれ」

「分かった」


 俺は空を見上げ、手を伸ばす。

 キングフロッグが落ちてくるタイミングを見計らい――。

 頭上にリフレクトシールドを張る!


「な、なに」


 キングフロッグの体は俺に当たることなく、シールドの上でピタッと止まった。


「驚くのはまだ早いぜ。リフレクト!」


 俺はモゲールに向かって手を下ろし、リフレクトシールドが受けた衝撃を、キングフロッグと共に、お返しする。


 キングフロッグは勢いよくモゲールに向かって飛んで行き、モゲールを巻き込みながら場外へと飛んで行った。


「へっ。シールドキャット相手に直接攻撃をしてくんじゃねぇよ!」

「おぉっと! 早くもモゲール選手、脱落だッ!」


 レフェリーが実況すると、観客が沸き立つ。


「おいおい、誰だよシールドキャットを最弱って言ったのは……十分、強いじゃないか」


 この程度で見直されても困るけど、これで少しは捨てる様な奴が減れば良いな。


「コリン、大丈夫」


 離れていたアリスが近寄って横に並ぶ。


「あぁ」

「ねぇ、クリフ達の方をみて」

「クリフがどうしたんだ?」


 俺はクリフ達の方に視線を向ける。

 すると信じられない光景が繰り広げられていた。


「――おいおい、まじかよ……」


 ツインテールの女の子、確かハンナと言っていたな。


 その子が自分と同じぐらいのポールアックスを、木の棒を振るうかのように、ブンブンと振り回し、クリフと互角に戦っている。


 てっきり、あの斧はゴーレムが使うものと思っていたが、ハンナが使う武器だったのか。


 それにしても細くて華奢に見える女の子が、何でいとも簡単に斧を振り回しているんだ?


 ――完全に見かけに囚われ、見くびっていた。

 きっとあの子はパートナーに恵まれただけじゃない。

 あの子自身も相当の実力者なんだ。


「きゃ!」


 アリスの悲鳴が聞こえ、慌てて横を見る。


「アリス!?」


 俺がクリフ達の戦いに見入っている間、リヴェラはバイティング・カズラの蔓を忍ばせ、アリスの足を捉え、宙ぶらりんの状態にしていた。


「くそっ! いま助ける」


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