第33話

 順調に試合が進み、中層クラス出場者がリングへと向かっていく。

 残った人数はたったの4人だった。


「ねぇ、あれ見て」


 アリスが指差す方向を見る。

 手入れのされていない長髪に、無精ひげを生やした下品な顔つきの男。

 間違いない。


 あれはシールドキャットを連れていると馬鹿にした男の一人だ。


 その側には、キングフロッグが居た。

 やはり不思議な洞窟の冒険者だったか。


「あいつ、私達を見下した奴よね? 本当に下層まで到着しているのかしら?」

「さぁな。いずれにしても、戦ってみれば分かる」

「そうね。見返してやりましょ」

「あぁ」


 とはいっても、油断は大敵だな。

 キングフロッグの体は人間を押し潰せるほど大きく重いし、奴が放つウォーターガンは、巨漢の人間を吹き飛ばせる程、強力だ。


 あと残っているのは――。

 ツインテールの黒髪少女に、緑色の髪をしたポニーテールの女性。

 そして、クリフか。


「ポニーテールの女の人、下層で見かけたことあるね」

「あぁ」


 戦いを見たが、あれは間違いなく、クリフ達と並ぶ実力者だった。

 連れているのはバイティング・カズラ。


 本体の人面樹に絡まっている複数の蔓が厄介な魔物だ。


 奴はあの蔓を自由自在に操れる。

 あれに捕まれば場外に飛ばされるか、幹の中央にある大きな口に放り込まれ、噛み砕かれてしまうだろう。


「あのツインテールの女の子は見掛けた事ないよね?」

「あぁ。あの子、アリスより若いんじゃないか?」

「そうね。11、2ぐらいに見えるけど」


 そんな子が下層に?

 疑問に思うけど、あの子が連れている魔物は、俺がさっき珍しいと感じた魔物。

 リトル・ゴーレムだ。


 リトル・ゴーレムはリトルといっても、成人男性ぐらいの大きさはある。

 女の子が小さいだけに、とても大きく見えるけど。


 リトル・ゴーレムが厄介な所は、こいつさえ居ればシールドキャットなんていらないと言われてしまう程、体が硬い事だ。


 それに攻撃力もあり、屈強な戦士でさえ片手で吹き飛ばす事もあるらしい。


 能力の高いパートナーだから、運よく辿り着く事もあったのかもしれないな。


「まぁ相手が若くても、油断できそうにないな」

「そうね」


 アリスが返事をすると、兵士がリングへと続く階段から下りてくる。


「お待たせ致しました。下層クラスの方、お集りください」


 5人と魔物は兵士を取り囲むように集まる。


「人数が少ないため、最初の配置をこちらで決めさせて頂きました。クリフさんはリングの左上。アリスさんはリングの左下」


「ハンナさんは右上。モゲールさんは左下。そして最後にリヴェラさんは前回の優勝者なので、誰か抜けた後に入ってください」


 ポニーテールの女性は、前回の優勝者だったのか。

 通りで強い訳だ。


「それでは、どうぞリングに向かってください」


 3人が動き出し、先にリングへと向かう。


「コリン、行こう」

「あぁ」


 俺達は最後に階段を上り、リングへと向かった。

 大きな歓声が俺達を迎える。


 なんて大きなリングなんだ……。

 さすがバトルロワイヤルを行えるだけの事はある。 

 奥にいるクリフ達の顔が分からないぐらいだ。


「凄い数の観客だね」

「そうだな……」


 リングをグルッと囲むように観客席が作られており、三階ぐらいはあるのに、ほとんど埋まっている。

 これだけの人に見られているのだと思うと、少し緊張して手に汗が滲み出て来ていた。

 アリスがポンっと俺の背中を叩く。


「行くよ」

「あ、あぁ……」


 さすがアリス、緊張するって言っていたのに肝が据わっている。

 俺達は兵士に言われた通りに、リングの左下に向かう。


 真正面は俺達を見下した男か。

 確かモゲールと言っていたな。

 丁度良い、最初はあいつを狙う。


「おい、あれシールドキャットじゃないか?」


 観客席から声が聞こえてくる。


「違うだろ? シールドキャットが下層なんて行ける訳がない」


「そうだよな? でもなんか似ているような……」

「気のせい、気のせい。例えそうだったとしても、嘘ついているんだろ」


 それを聞いた俺は思わず笑みが零れてしまった。

 おもしれぇ……お前らの度肝も抜いてやるよ!


「選手の皆さん、位置に着きましたね?」


 白のシャツに黒いズボンを履いたレフェリーが、マイクを持ちながら周りを見渡し、確認をする。


「それではルールを簡単に説明します。まずは敗北となる条件ですが、相手を殺す、ギブアップをする。リングから落ちる、支給以外の回復アイテムを使用するとなっています」


「続いて勝利の条件ですが、全ての対戦相手を制限時間内にリングから落とす。ギブアップをさせる。死亡以外で戦闘不能にさせるとなっています」


「もし制限時間の30分を過ぎても複数人残っていた場合は、引き分けとなりますので、ご注意ください」


「それでは準備は良いですか?」


 レフェリーが右手を上げる。

 俺は拳を構え、アリスはロングソードを構えた。


「戦闘開始!」


 レフェリーが右手を下ろすと、戦いのゴングが鳴り響いた。

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