第32話

 俺達が最下層を攻略してから数ケ月の月日が流れる。


 あれから何度も不思議の洞窟に挑戦はしているが、保護出来たのはシールドキャット一匹だけだった。


 だけどこれからの事を考え俺達はいま、自宅の敷地内で保護した召喚された魔物を飼えるように、小屋を作る下準備をしていた。


 そこへクリフと進化前のハイスが現れる。


「小屋を作っているのか?」


 アリスがクリフの声に気付き、額の汗を腕で拭うと、振り返る。


「あら、久しぶりね。作っているというより、材料費を少しでも安くしようと、下準備をしていたの」

「そういう事か」

「今日はどうしたの?」

「これ、出てみないか?」


 クリフはそう言うって、アリスに向かって一枚のチラシを差し出す。


「なに?」


 アリスは不思議そうに首を傾げ、チラシを覗き込む。

 俺も近づいて、覗き込んだ。


 そこに書かれていたのは年1回、王都で開かれる闘技大会の案内だった。


 多くの不思議な洞窟を探索する冒険者達が、参加している事は耳にしているが、俺達は参加した事は無かった。


「闘技大会ね……」


 声の感じから、アリスはあまり乗る気ではないようだ。


「賞金も出るみたいだし、どうだ?」

「うーん……別にお金が直ぐに必要って訳ではないし、やめておく」

「――そうか」


 クリフは凄く残念そうに俯いて、チラシを折り畳んだ。

 クリフの奴、何でそんなに残念そう何だ?


「クリフは出るのか?」


 クリフが顔を上げ、俺の方を向く。


「いや、お前達が出ないなら止めておくよ」

「俺達が出ないなら?」


「あぁ、俺はただお前達と戦ってみたかっただけなんだ」

「なーんだ。それならそうと、ハッキリ言えばいいのに」


 アリスはニヤニヤと笑顔を浮かべている。

 まったく同感だ。


「いや……何だか照れ臭くて」

「照れ臭いことなんて何も無いのに。じゃあ出ようかコリン?」


 俺は深く頷く。


「あぁ。俺もお前達と戦ってみたかった」


 クリフの顔がパッと明るくなる。

 なんだかあの頃に比べて、表情豊かになっている気がした。


「そうか! では早速、申し込みをしてくる! ハイス、行くぞ」


 クリフはそう言って、余程嬉しかったのか、そそくさと行ってしまった。


「ふふ、楽しみね」


 アリスは笑顔を浮かべながら、クリフを見送っている。


「あぁ、そうだな」


 クリフ達と対戦か。

 ライバルだと思ってきたけど、手合わせする事はなかったからな……。


 俺は興奮して汗ばむ両手をギュっと強く握る。

 凄く楽しみだ。


 ※※※


 闘技大会、当日。

 俺達は約束通り、闘技大会に出場するため、会場に向かった。

 受付を済ませ、待機室で待つ。


「アリス、コリン」


 クリフとハイスが近寄ってきて、声を掛けてくる。


「今日はお互い、遠慮なしで戦おうな」

「うん。そのつもりよ」


 アリスがそう答えると、クリフは満足そうにニコッと微笑む。


「それが聞けて良かった」


 それだけ言うと、人の間を縫うように進み、奥へと去って行った。


「それにしても、結構人数が居るわね……」


 俺は辺りを見渡す。


「ザッとみて、40人ぐらいか?」

「うん、それぐらい。魔物もいるから、この部屋、ギュウギュウね」


 アリスは不快なのか、苦笑いを浮かべる。


「そうだな。まぁ、試合が始まれば少しはマシになるだろう」

「そうね」


 さすがにこれだけ居ると、珍しい魔物も居るな。


「私達が出場する下層クラス以外にも、ここに居るのよね?」

「あぁ」


「対戦相手が気になる所だけど、それじゃ分からないわね」


「そうだな。まぁ、焦らなくても俺達は最後に試合だから、直ぐに分かるよ」

「そうね」


 リングへと続く階段の方から、兵士が下りてくる。


「只今より試合を開始致します。上層クラスの参加者は、ゆっくりとリングの方へと移動してください」


 兵士はそう言うと、参加者がゾロゾロと移動を開始する――。


 試合形式がバトルロワイヤルという事もあり、部屋が大分スッキリとした。


「ふぅ……」


 アリスが溜め息を漏らす。


「大丈夫か?」

「うん! 半分ぐらい人が減ったね」

「上層クラスが一番、多かったんだな」

「そうみたいね」


 アリスが両手で口を覆う。


「あぁ……始まったと思うと、何だかドキドキしてきちゃった」


「そうだな。でもクリフ達と戦う以外、何か目的がある訳でもないし、気軽に行こうぜ」

「うん!」

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