第31話
あのクリフが涙を……絶対に許さねぇ!!!
全身の毛が逆立ち、体が震える。
こんなに怒りを覚えるのは初めてだ。
僕がシールドキャットに向かって駆けだそうとした時――。
「コリン。ちょっと待て」
か細い声で、クリフが呼び止める。
僕が振り返ると、クリフは布の袋から、進化の結晶を取り出していた。
「使え」
使えって……それはレッドドラゴンのために、取っておいたやつじゃ。
「遠慮することはない。お前が使ってくれ」
申し訳ない気持ちはあるものの、僕はクリフの気持ちを受け取り、クリフに近づく。
クリフはしゃがみ込むと、僕の額に進化の結晶をはめ込んでくれた。
あの時のように、眩いばかりの光が放たれ進化が始まる。
「ハイスの為にも、絶対に勝つぞ」
か細くも力強い意志を感じるクリフの声が聞こえる。
「あぁ……レッドドラゴンの代わりに、俺が二人を守ってやるよ!」
俺は前と同じ、獣人タイプに進化を遂げると、クリフに向かってそう言った。
クリフは黙って、力強く頷く。
「それじゃ、行くぞ」
俺はアリスに向かって、ゆっくり歩いているシールドキャットを追いかける。
アリスは、弓で応戦していた。
だが素早い動きに対応できず、傷は与えられていない様だった。
シールドキャットがクイック・ムーブを使い、アリスとの距離を一気に詰める。
「クイック・ムーブを使えるのは、お前だけじゃねぇんだよ!」
俺も両足の裏にリフレクトシールドを張り、クイック・ムーブを使って、シールドキャットとの距離を詰める。
アリスは後退しながら、矢を放っていたせいで、溶岩の近くまで追い込まれていた。
シールドキャットがアリスを攻撃できる範囲に入り、大きく口を開けた。
「さねぇよ! リフレクト・ストライク!」
俺はギリギリ間に合い、シールドキャットの横っ腹に思いっきりリフレクト・ストライクを叩きこむ。
シールドキャットは吹き飛ばされるが、体をひねり、爪を立てることで、勢いを殺していく。
シールドキャットは溶岩に落ちる寸前で、踏みとどまった。
だけど爪を立てて踏ん張ったせいで、爪が剥げて血が出ている。
次はもう、同じ事は出来ない。
俺は深追いをせず、クリフが到着するまで、その場で待つ。
「コリン、その姿……」
「あぁ、クリフがくれた」
「そう……」
「ここは危ない。少し溶岩から離れよう」
「うん」
俺達は溶岩から離れ、シールドキャットから数メートルの距離を置く。
おそらく能力の使い方からみて、シールドキャットの能力を使用できる回数は、まだまだ余裕があるだろう。
そう考えると長期戦は不利だ。
だったら――。
「悪い。遅くなった」
クリフが僕達の所へ到着する。
俺は二人と向かい合わせになるように立ち、頭を下げた。
「さっきは悪かった……もう迷わないと心の中で誓っていたのに、また迷ったせいで大切な仲間を失ってしまった。この償いは後でするから、今は俺を支えて欲しい」
俺が顔を上げると、二人は黙って頷いていた。
「ありがとう」
俺は御礼を言って、二人に背を向ける。
「まずは俺が攻撃を仕掛ける!」
勢いよく前に飛び出し、走りだす。
シールドキャットは俺を人間だと認識したのか、俺に向かって駆けてくる。
局所リフレクト。
「クイック・ムーブ」
俺がクイック・ムーブを繰り出すと、シールドキャットも負けじと、クイック・ムーブを発動する。
一点集中……。
俺が拳にリフレクトシールドを集中させると、シールドキャットは前方にリフレクトシールドを張ってきた。
「ブースト・ストライク!!!」
互いのリフレクトシールドが、激しくぶつかり、バリバリバリと激しい音と共に、砕け散る。
双方、その衝撃に耐えきれず、吹き飛ばされた。
何とか姿勢を整えて、踏ん張らないと……。
そう思った瞬間、ドンッ! と両方の肩に何かが激しくぶつかり、体が止まった。
左右をみて確認すると、アリスとクリフが身を呈して止めてくれていた。
「大丈夫か?」
「大丈夫?」
「あぁ……大丈夫だ」
俺はそう答えて頷いた。
支えてくれる者がいないシールドキャットは、態勢を整え踏ん張るものの、勢いは止まらず、溶岩の中へと落ちていく。
生きている苦しみから解放された喜びなのか。
はたまた俺達をみて、パートナーとの嬉しい思い出がよみがえったのか。
最後に顔が飲まれる瞬間、シールドキャットはふっと笑ったように見えた。
どちらにしても、こんな結末は悲しすぎる。
俺はゆっくりと、シールドキャットが落ちた溶岩の場所へと歩いていく。
召喚された魔物は、誰もが最初からパートナーを守りたいという意志があるという。
それは契約により植えつけられているのか、元から持っている感情なのか。
俺には分からない。
いずれにしても、その気持ちが突然、心無いパートナーに踏み躙られたら、どうなるのだろうか?
きっと俺も、行き場を失った感情が怒りへと変わり、憎しみとして他人に向けてしまったと思う。
俺は溶岩の側に行き着くと両手を合わせ、目を瞑った。
助けてあげられなくて、ごめん……。
後ろの方から、二人が立ち止まった足音が聞こえる。
「なぁ……この洞窟、封鎖出来ないかな?」
「残念だが、それは無理だろ。村の人間は、この洞窟によって生活が支えられている。封鎖したところで誰かが破って、進んでしまうだろう」
「そうか……だったら俺、もっと強くなりたい!」
俺は悔しさを両手に込めるようにギュっと握る。
「こんな悲しい結末はもう嫌だッ……強くなって、一人になった召喚された魔物も、仲間も守ってやりたい!」
「――分かった。協力するよ」
「もちろん、私も」
両方の肩にポンッと手が置かれ、温もりが伝わってくる。
その温もりは心地よく、力強かった。
俺は振り返り、二人を見つめる。
「ありがとう……」
二人は笑顔で、頷いてくれた。
「さて、帰ろうか」
「そうね」
二人はそう言って、中央に出現した帰還装置の場所に向かって歩き出す。
俺はまた振り返り、溶岩を見つめた。
また来るからな。
シールドキャットに別れを告げると、地面に何かが落ちているのを見つける。
「コリン? どうしたの?」
「――これ、落ちていたけど何だろ?」
俺は落ちていた半透明の赤い石を拾い上げ、アリスに向かって差し出す。
アリスは知らない様で首を傾げた。
「何だろ? 図鑑でも見た事無いけど。ちょっと鑑定ルーペで調べてみるね!」
アリスは布の袋から鑑定ルーペを探し、取り出す。
俺の手から赤い石を受け取ると、鑑定を始めた。
「――これ……凄いよ」
アリスが目を丸くして驚いている。
何が凄いのだろうか?
「これはクリフにあげよう!」
アリスはそう言って、後ろで待っているクリフの方を向く。
「おーい、クリフ。良い知らせだよ」
アリスはクリフに向かって手を振る。
良い知らせ?
クリフが不思議そうに首を傾げ、こちらに歩いてくる。
「どうしたんだ?」
クリフが俺達と向かい合わせになるように立ち止まると、アリスは石をクリフに差し出した。
「これ使って」
「何だ、これ?」
アリスは嬉しそうに満面な笑みを浮かべる。
「えへへへ……なんと! 復活石なのだ~」
「え?」
クリフは突然の事に声にならないようで、固まっている。
そりゃそうだ。
俺も驚きの感情しか出てこない。
「本当なのか!?」
「本当だよ。ルーペ、覗いてみる?」
「いや、いい」
「そう。使い方は、単純。これを握って、生き返らせたいパートナーを想えばいいんだって」
「分かった。やってみる」
クリフは待ちきれない様で、サッとアリスから復活石を受け取ると、ギュッと握った。
――するとクリフの手の中から、赤い光が溢れだす。
パリンッと何かが砕ける音がしたと思うと、空からレッドドラゴンが舞い降りてきた。
「あぁ……ハイス!」
まだレッドドラゴンは地面に着いていないのに、クリフは逸る気持ちを抑えきれない様子で、駆けていく。
「ハイス! 良かった……」
レッドドラゴンが地面に着くと同時に、クリフは涙を浮かべながらも、嬉しそうに抱きつく。
レッドドラゴンも嬉しい様で、クリフの頭に頬をスリスリと寄せていた。
俺とアリスは、まるで自分たちと重ねるように、涙を流しながら見つめていた。
良かったな……本当に良かった。
ふと空を見上げる。
奇跡を起こしてくれたのは君なのか? シールドキャット。
そう思うと、ほんの少しだけだが、心が救われた気がした。
「コリン、行くよ」
アリスが手まねきをして、歩き始める。
「あぁ」
俺は返事をして、後に続いた。
こうして俺達は無事、脱出に成功する。
村へと続く森の中を歩きながら、今回の冒険を振り返る。
――今日も色々とあったが、何とか切り抜けることが出来た……皆との絆が無かったら、俺達はこうして、ここを歩いていなかったかもしれない。
そう考えると最下層は、パートナーの実力を試すというより、パートナーとの絆を試していたのかもしれないな。
今日で無事に進化を遂げる目標は達成したが、これからは悲しい召喚された魔物を保護するために、俺達は洞窟に潜る事になる。
それが何年……下手をすると一生、終わる事はないかもしれないが、俺はずっとアリス達と一緒に歩んで行きたい。
アリス達とならきっと、どんな困難も乗り越えて行ける!
そう思うから……。
俺はアリスに駆け寄ると、ガシッと肩に手を回す。
「な、何?」
アリスは驚いたようで、目を丸くして、こちらを見つめる。
「これからも頼むぜ、パートナー」
アリスはニコッと微笑む
「こちらこそ」
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