第29話

 見渡す限りの溶岩地帯。

 せっかく守ったランタンも、ここでは必要ないぐらいに明るい。


 濡れた服が直ぐに乾いてしまいそうなぐらいの暑さ。


 僕は暑い方がまだ耐え切れるけど、アリスはどうだろうか?

 直ぐに体力が奪われないか、少し心配になる。


 溶岩があるといっても、歩く道は存在している。


 奥に続く人一人がようやく通れるぐらいの細い道に、中央には円状に広い地面が露出していた。


 そこでは今、戦闘が繰り広げられていた。

 戦っているのは、まだ進化していないレッドドラゴンとクリフ、対するは黒い毛に小柄な猫のような魔物が一匹。


 そう……僕にソックリなシールドキャットだ。

 アリスがしゃがみ込み、僕の耳栓を外す。


「ここには呪いの歌姫が居ないみたいだから、外すわね」


 アリスはそう言って、スッと立ち上がる。


「加勢に行くよ」


 アリスは矢を矢筒から取り出すと、走りだした。

 僕も後に続く。


 何であいつが、クリフ達を襲っているのか、それは分からない。


 僕達、召喚された魔物は、異世界から来た魔物。

 この洞窟の魔物として存在しない。


 奴の額には進化の結晶をはめ込む穴がある。

 きっと奴は、召喚されてパートナーをこの洞窟で失ったか、あるいは――。


 いずれにしても、何か理由はありそうだ。

 そう思うと何だか、胸が締め付けられる。


「クリフ、加勢に来たよ」


 アリスはクリフのもとに辿り着くと、後ろから声を掛ける。


「アリスか、助かる。こいつなかなか手強くて、苦戦していた所だ」


 クリフは剣を構え、シールドキャットの方を向きながら答えた。


 数メートル離れて様子を見ていたシールドキャットが動き出す。


 徐に歩きだしたと思えば、急に駆け出し、クイック・ムーブを繰り出す。

 一気に距離が詰められる。


 シールドキャットはその速度を利用し、タックルするためかリフレクトシールドを自分の顔の前に張った。


 狙われたのは――クリフだ。

 クリフはシールドキャットの猛烈なタックルを鉄の盾で凌いだが、勢いは止まらず吹き飛ばされそうになる。


 そこへレッドドラゴンが、クリフの背後に回り、背中を支えた。


 少しは移動したものの、クリフは吹き飛ばされる事なく、踏みとどまる。


 リフレクトシールドが消え、アリスが横からシールドキャットに向けて矢を放つ。


 シールドキャットはそれに気付き、前足をグッと踏み込み、素早く後ろに避けた。


 今度はアリスをターゲットにしたのか、真っ直ぐアリスに向かって駆けて来る。

 僕はアリスの前に立ちはだかった。


 ちッ!

 またクイック・ムーブからのタックルか。

 僕のリフレクトシールドで防げるか?

 それでも、やるしかないッ!


 僕はリフレクトシールドを前方にあり、応戦する。


 リフレクトシールドが激しくぶつかり、僕は後ろへと吹き飛ばされた。


 クソッ!

 衝撃で体が痛い!

 それなのにあいつはダメージ所か、ビクともしていない。


「コリン!」


 アリスがしゃがみながら、僕を受け止めてくれる。


『ありがとう』

「うん」


 シールドキャットが追い打ちを掛けようと、駆け寄ってくる。


「ハイス。火炎放射」


 クリフの掛け声とともに、レッドドラゴンから火炎放射が放たれる。


 シールドキャットは火炎放射に当たることなく、クイック・ムーブで素早く僕達の横を通り過ぎて行った。


 時計回りにグルッと回り、僕達と距離を取っていく。


 クリフ達が苦戦する訳だ……。

 能力・素早さ、共に鍛え上げられている。


 不思議の洞窟と呼ばれている危険な洞窟で、一体あいつは何年……いや、何十年と一人で生き延びてきたのだろうか。

 相当、苦労して生き延びて来たに違いない。

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