第26話


「2階まで下りてみたけど、アイテムが全然ないわね……」


 アリスは歩きながら、辺りを見渡す。

 洞窟に落ちているアイテムのほとんどは、冒険者が落としていった物。


 そう考えたら、無いのは当然か。


「後は魔物からのドロップアイテムに期待するしかないけど……」


 魔物のドロップアイテムも大抵、魔物が冒険者から得ているパターンが多い。


 ここに冒険者が辿り着けていないんだ。

 それもきっと、期待できない。

 これは厳しいぞ。


 そう思った瞬間、僕は何かを踏みつける。

 カチッ。


 壁から矢が発射され、アリスめがけて飛んでいく。

 しまったッ!

 僕は直ぐにアリスに向かってジャンプをする。


『痛ッ』


 僕の左肩に矢が突き刺さる。

 何とか着地はするも、倒れこんでしまう。


「コリン!」


 アリスは心配そうに僕をみつめ、しゃがむと布の袋に手を入れた。


「直ぐに回復薬をあげるからね」


 あれ?

 なんだか体の様子がおかしい。

 気持ち、悪い……。


 僕はその場で胃の中の物を吐き出してしまった。

 これって……矢に毒が塗られていたのか?


「え? コリン? 大丈夫!?」


 声の感じからアリスは酷く慌てているように感じる。

 大丈夫だよって一言いってあげたい。


「――ごめん。大丈夫じゃないから、吐いたんだもんね。ちょっと待っていて」


 アリスはそう言うと、包帯を取り出す。

 続いて、僕の肩から矢を抜くと包帯で止血を始めた。


「もう少し待っていてね。これが終わったら、完治の秘薬をあげるからね」


 アリスは一生懸命、包帯を巻いてくれている。

 ここで貴重な完治の秘薬を使って良いのだろうか?


 もしかしたら、毒を全て吐き出してしまえば、使う必要なんてないんじゃ……。


「よし、終わった」


 アリスはそう言って、包帯をキュッと縛り、布の袋に戻した。


 次に布の袋から完治の秘薬を取り出すと、蓋を開ける。


「飲めそう?」


 アリスは完治の秘薬を僕の口の近くに差し出してくれた。


 僕は首を横に振る。

 そんな僕をみて、アリスは心配そうに眉を顰めた。


「吐きそうなの?」


 僕は首を横に振る。

 まだ気持ちが悪いが、吐きたい訳ではない。


「じゃあ何で――」


 アリスは僕が何を言いたいのか察したようで、怒っているように目つきが鋭くなる。


「まさか薬を使いたくないって言うの?」


 僕は少し躊躇ったが、黙って頷いた。


「勿体ないとか、そんな事を気にしなくて良いから飲みなさい! 飲まないんだったら、この場で帰るからね!」


 アリスは怒りながら、僕の口に薬の瓶を突きつけた。

 ここまで来て、探索を終わらしてしまうのは勿体ない気がする。


 仕方ない――僕は渋々、口を開けた。

 アリスが、むせない様にゆっくり薬を流し込んでくれる。

 その表情は優しく、穏やかだった。


 僕が薬を飲み干すと、アリスは空の瓶を袋にしまう。


 横座りをすると、僕をソッと抱き上げた。

 太ももに僕を乗せると、優しく頭を撫で始める。 


「まったくもう……無茶しないでね」


 面目ない。

 僕はアリスの顔を見ることが出来ず、項垂れた。


 でも何でだろ?

 叱られているのに、心の奥底がポカポカして、妙に心地が良い。


「アイテムなんて気にしなくて良いの。また手に入れれば良いんだから。それよりあなたの方がずっと大事」


「あなたが私を守りたいと思っているように、私もあなたを守りたいと思っているのよ。あなたは私達の大切な家族なんだから、二人で絶対に帰らなきゃ駄目よ!」


 薄暗い洞窟なのに、まるで太陽の下で笑っているような明るい笑顔。


 僕はそんなアリスの笑顔をみて、鼻の奥がツーン……っと痛くなった。

 あぁ……ヤバい。泣きそう。

 僕は同意の意味を込めて、アリスの体に寄り添った。


「分かってくれたのね? 良かった。具合の方は大丈夫?」


 アリスの癒しの効果なのか、薬の効果なのか。

 気持ち悪いのがスゥ……っと抜けていくのが分かる。


 多分、毒は完全に抜け、能力封印の呪いも解けている。

 僕は黙って頷いた。


「良かった……もう少し休んだら進もうね」


 アリスは胸をなでおろすかのようにそう言って、地面に両手を付いた。


「――そうだ!」


 アリスが突然、両手を地面から離し、パンッと両手を合わせる。


「もう呪いは懲り懲りだから、対策しておきましょ!」


 対策? 何だろ?


「ちょっと違和感があって、戦い辛くなるだろうけど我慢してね」


 アリスはそう言って、布の袋から包帯を取り出した。


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