第25話

 真っ暗な階段をランタンの明かりを頼りに下っていく。


 コツッ……コツッ……と、アリスの靴の音だけが響いている。


 アリスは最後の階段を下りると、立ち止まった。

 僕もアリスに合わせて立ち止まる。


「ここも太陽の巻物が必要ね」


 アリスはそう言って布の袋から太陽の巻物を取り出すと、巻物を読み上げた。


 周りがパッと明るくなる。

 さすがにここまで来ると、いつもの様な景色ではなかった。


 奥の方に透き通った紺青色をしている地底湖があり、上の階より更に肌寒く感じる。


 幻想的な雰囲気だが、心を奪われている余裕はないようだ。

 きっとあの地底湖は浅くない。


 もし地底湖に落ちるような事があったら……そう思うとゾッとする。


 どんな敵がいるかも分からないし、何としてもそれは避けたい。


「地底湖に落ちない様、気をつけようね」


 アリスも地底湖を見て、同じ事を感じたようだ。


『うん』

「さぁ、行くわよ」


 アリスは覚悟を決めるかのような真剣な顔で歩き出す。


 僕もアリスに続いた。

 ここは割と広いが、この先が同じとは限らない。

 どうか狭い道で、魔物と会いませんように。


 ※※※


 ここは不思議な洞窟。

 苦戦するのは何もボスだけではない。

 状況次第では雑魚敵にだって苦戦を強いられることは存在する。


 目の前にいる呪いの歌姫は、目が隠れるぐらいに前髪が長いオカッパ頭で、赤いワンピースを着ている一見、普通の少女ように見える魔物だが、歌を聴かせることで、召喚された魔物の能力を封じてしまう厄介な奴だ。


 本当に居るのか? と噂されているが、本当に居たんだな。


 僕はたった今、こいつに能力を封じられてしまった。

 呪いを解く方法は、そう多くはない。


 薬を飲むか、こいつを倒すかだ。

 だがこいつは臆病な事もあり、一人では現れない。


「コリン。大丈夫、直ぐに倒すからね」


 アリスはそう言って、呪いの歌姫に向かって矢を放つ。


 だが――影の騎士が呪いの歌姫の前に立ち塞がり、矢を鎧で弾いてしまう。


「ちぃ……影の騎士が邪魔ね。だったら――」


 アリスは弓を投げ捨て、後退しながら雷玉を取り出す。


「あなたを先に倒すまでよ」


 アリスは導火線に火をつけ、影の騎士に向かって投げつけた。


 影の騎士は避けきれず、雷玉を受けズシンッと地面に倒れこんだ。


 アリスは直ぐ様、弓を拾い上げる。

 その頃にはもう、呪いの歌姫は微かに見えるぐらいまで逃げていた。


「逃がしてたまるもんですか!」


 アリスは弓を構え、矢を放つ。

 頼む……当たってくれ。


 呪いの歌姫の防御力は高くない。

 一発でも当たれば、致命傷を負う。


 アリスが放った矢は――。

 無情にも呪いの歌姫には届かず、地面に突き刺さった。


「やられた……」


 アリスはガクッと肩を落とす。

 僕の方に体を向けると、しゃがみこむ。


「ごめん、大丈夫と言っておきながら逃げられちゃった」


 あれは仕方ない。

 僕は首を横に振る。

 それよりアリスが無事で良かった。


「なかなか上手くいかないわねぇ……」


 アリスはそう言いながら、布の袋から完治の秘薬を取り出した。

 蓋をあけ、僕に差し出す。


「きっとこれを飲めば治るよ」


 こんな所で、大切な完治の秘薬を使って良いのかな?

 アリスが首を傾げる。


「どうしたの?」


 僕は首を横に振った。


「飲みたくないの?」


 少し様子を見てみたい。

 僕は黙って頷いた。


「分かった。もしかしたら万能薬が見つかるかもしれないし、少し様子を見てみましょ」


 アリスは瓶に蓋をすると、スッと立ち上がる。


「気を取り直して、次いくよ」


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