第24話
アリスと僕は一本道を進み、ダークデーモンが居るエリアに足を踏み入れる。
前回と同様に、左右上下と、だだっ広い場所へと出る。
その中央では、ダークデーモンが一匹、赤い両目を光らせ、佇んでいた。
僕の姿はもう獣人ではない。
前のようには戦えない。
だけど、この日のために何度もイメージトレーニングはしてきた。
あとは、実戦あるのみ!
僕は真っ直ぐダークデーモンに向かって駆けていく。
「コリン!」
アリスが呼び止めるが、そのまま走り続ける。
僕達は話せない。
だから僕が考えている作戦は、アリスには伝わらない。
でも大丈夫。
アリスならきっと僕の行動をみて、合わせてくれるはず!
前回の経験を踏まえて、奴の射程範囲ギリギリまで粘る。
ダークデーモンは早速、僕を光線で仕留めようとしているのか、右腕を突き出した。
まだ――まだ大丈夫。
ダークデーモンの掌の目が開き掛った瞬間。
僕は4本の足裏にリフレクトシールドを集中させる。
局所リフレクト。
『クイック・ムーブ』
僕は小さい。
だから光線の軌道は斜めに向けられる。
電光石火の如く、光線が当たる一点さえ駆け抜ける事が出来れば、真っ直ぐ走り続けても何も怖くない。
僕のイメージ通り、ダークデーモンから放たれた光線は、僕に当たる事無く後ろに突き刺さる。
前回の戦いで、クリフ達が時間を稼いでくれて良かった。
あの時、冷静に戦いを見ることで、ダークデーモンが2発目を放つのに数秒の時間が掛る事が分かった。
さすがアリス!
ちゃんと僕を信頼して、冷静に見ていてくれたようだ。
弓矢がダークデーモンの右翼に突き刺さり、貫通する。
ダークデーモンは翼を傷つけられた事に腹を立てたようで、ものすごい形相でアリスを睨みつける。
させるかよッ!
ダークデーモンがアリスに向かって右腕を突き出した瞬間、僕はリフレクトシールドで覆った体でダークデーモンの右腕を攻撃した。
その事により、光線の軌道がズレ、今度も地面へと突き刺さる。
アリスはその瞬間を見逃さなかった。
アリスが放った次の矢は、ダークデーモンの左の太ももに突き刺さる。
気持ちが良いぐらいに連携が取れている。
この調子だったら、倒せるかもしれない。
ダークデーモンは、天井を見上げ怒鳴り声のような咆哮を発して威嚇してくる。
僕は怯む事無く、ダークデーモンの後ろへと回る。
すかさず跳び上がり、リフレクトシールドで覆った体で、左の太ももめがけて攻撃を仕掛けた。
その瞬間――。
ダークデーモンはファッと飛び上がる。
しまった!
アリスも怯む事無く矢を放ったようだが、ダークデーモンに当たることなく、奥へと飛んで行ってしまった。
ダークデーモンが空中から、リフレクトシールドで覆われていない僕の背中を狙って、右手の爪で攻撃を仕掛ける。
痛ッ!
僕は、なす術無く背中に深い傷を負い、地面に叩きつけられた。
「コリン!」
情けない。
たった一撃なのに、立とうとすると足がふらつく。
アリスは僕を心配しながらも矢を放ったようで、ダークデーモンの額に弓矢が近づく。
だが、あっけなくダークデーモンは左手で矢のシャフトを掴み、止めてしまった。
まだだ、まだ終わりじゃないッ!
『僕達の連携をなめるなッ!』
僕は痛みを堪えながら思いっきりジャンプをし、尻尾にリフレクトシールドを張る。
そのまま前方宙返りをしながら――。
『テール・リフレクト』
尻尾で矢の矢筈を押し込む。
尻尾により矢は折れてしまったが勢いは止まらない。
矢の先は、押しこまれた事により、ダークデーモンの眉間へと突き刺さる。
「これで最後よッ」
アリスの声が洞窟に響き渡る。
矢を掴んでいた自分の手が当たり、仰け反っていたダークデーモンの胸にアリスの最後の攻撃が突き刺さった。
ダークデーモンはそのまま地面へと倒れこむ。
まだピク……ピク……と動いているが心配ない。
矢は倒れこんだことにより深く突き刺さり、背中まで貫通している。
放っておけば、そのうちに死ぬだろう。
僕達の完全勝利だ!
「――コリン!」
アリスは声を掛けながら僕に駆け寄り、膝をつく。
すぐさま手に持っていた全回復の薬の瓶を開け、僕に差し出した。
僕は瓶に口をつけ、薬を飲んでいく。
「ヒヤッとした所はあったけど、何とか倒せて良かったね」
アリスは飲み干した薬の瓶に蓋をすると、そう言った。
僕は黙って頷く。
「能力回復の薬も飲んでおく?」
どうしようか……。
いまの戦いで半分は使ったけど、まだ5回は使えるし……。
勿体ないから、すべて使い切った後にするか。
僕は首を横に振る。
「分かった」
アリスは、布の袋に空瓶をしまい、スッと立ち上がる。
そのままダークデーモンが居た場所へ行き、しゃがみこむ。
「ここまで強い魔物だから、ちょっと期待したんだけど、残念。進化の結晶ではなかった」
アリスはそう言って、ドロップアイテムの完治の秘薬を手にすると、スッと立ち上がる。
布の袋に薬をしまうと、僕の方に体を向けた。
「コリン、背中の傷は大丈夫そう?」
まだちょっぴり痛いが、この程度だったら歩いていたら治るだろう。
僕は黙って頷く。
「分かった。無理はしないでね」
僕は頷くと、立ち上がりアリスに近づいた。
「ほら、あそこ見て」
アリスが指差した方向を見る。
一番奥の壁に、さっきまで無かった下に続く階段が出現していた。
「ここは倒さない限り、下に行けない様になっているみたいね。そこまでするって事は、何か凄い物でもあるのかしら? 怖いけど、ワクワクしない?」
アリスは度胸があるな……いや、僕が臆病なだけか。
僕は少しワクワクしているけど、どちらかというと怖い方が強い。
完治の秘薬は不治の病と言われたアリスの母の病気を、直ぐに治せるほど凄いもの。
それ以上のものが下にあるって事は、今以上の困難が待ち受けている可能性が高い。
この姿のままで大丈夫だろうか? その思いが拭えない。
――まぁ、ないものねだりしても仕方ないか。
「コリン、心配?」
アリスは僕の反応が遅かった事を気にしているのか、不安げな表情を浮かべ、僕を見つめている。
僕はアリスの不安を拭うため、首を横に振った。
「そう? それじゃ進もうか」
アリスはそう言って、奥の階段に向かって歩き出した。
どんなピンチに陥ろうとも、アリスだけでも逃がしてみせる。
僕はその思いを胸に、アリスの後に続き、歩き出した。
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