第23話

 数日後。

 僕達は手に入れた知恵の果実を交換しに、不思議な果実屋に向かった。


 店の前にクリフとレッドドラゴンが居る。

 アリスはクリフ達に近づくと、クリフの後ろから覗き込むように顔を出す。


「クリフ、何の果実と交換してるの?」


 クリフは驚いたようで、ビクッと体を震わせ、慌てて受け取った果実を後ろへ隠す。

 何で隠す必要あるんだ?


「知恵の果実?」

「何だっていいだろッ」


 クリフは明らかに不快な表情を浮かべ、アリスに背を向けると、布の袋に果実をしまう。


 そのままレッドドラゴンと一緒に歩いて行ってしまった。


「何を怒っているのかしら? 別に怒ることなんてないのに」


 よく見えなかったけど、きっとクリフが受け取ったのは知恵の果実。


 前に知恵なんていらないといった手前、恥ずかしくなったのだと思う。


 知恵の果実を選んだって事は、竜人タイプ狙いだろうか?


「コリン。こっちにおいで」


 アリスがカウンター前で呼んでいる。

 僕がアリスに近づくと、アリスは僕を抱き上げ肩に乗せてくれた。


「どの果実が良い?」


 ここ最近、アリスはこうやって僕に果実を選ばしてくれる。


 自分のタ思い通りにステータスを伸ばせるので、助かっていた。


 この前、筋力を上げたばかりだから、今度は能力の使用回数を増やしてみようかな。

 僕は手でオレンジ色の果実を差す。


「能力の回数を増やしたいのね?」


 僕は黙って頷いた。


「じゃあこれで」


 アリスは女性の店員と果実の交換を始めた。


「ありがとうございました。あなたのシールドキャットちゃん、相変わらず、かしこいですね」

「そんなことないですよー」


 アリスが笑顔で答えているので、謙遜だとすぐ分かるが、ちょっぴりムッとしてしまう。


 かしこいと言われ、ふと思ったが僕達はあれから、何度か果実を使っている。


 もし進化の結晶を手に入れて、はめ込んだ時、また獣人タイプになれるのだろうか?


 ちょっと心配になる。

 ――まぁ、それは手に入れてから、悩む事だな。


「それじゃ、家に戻ろうか」

『うん』


 僕達はこの日、洞窟には行かずに、そのまま家に戻った。

 たまにはそういう、のんびりとした日も必要だ。


 ※※※


 ついにこの日が来た。

 僕達は前日、休んだ甲斐があってか、順調に下へと進み、ダークデーモンが居る下層5階まで来ることが出来ていた。


 あとは目の前のミステリーウィザード一匹を倒して奥の一本道を進むだけ。


 ミステリーウィザードが呪文を唱え、杖から魔法を放つ。

 緑色の球状の塊がアリスに向かって飛んでいく。


「ここまで来て、強化を無効にされるもんですか!」


 アリスは難なく横に避ける。

 すかさず持っていた弓を構え、ミステリーウィザードに向かって矢を放つ。


 矢は真っ直ぐ飛んで行き、ミステリーウィザードの右腕と捕らえた。

 ミステリーウィザードが杖を落とす。


 アリスが次の矢の準備をしようと背中にある矢筒に手を伸ばした時、ミステリーウィザードが杖を掴もうと、しゃがみ込む。


 僕はそれを阻止するため、駆け寄り、ミステリーウィザードの腕に噛みつく。


 ミステリーウィザードは奇声を上げ、僕を振り解こうと腕を振り回す。

 その瞬間――。


 アリスが放った次の矢が、ミステリーウィザードの胸へと突き刺さる。


 ミステリーウィザードは苦しそうに胸を押さえ、消滅していった。


「やったー」


 アリスは嬉しそうにガッツポーズを見せる。


「使える武器を弓にして、正解だったわ」


 確かに正解だった。

 遠くから狙えることで、近付く事によるリスクを抑えることが出来る。


 アリスが近づいてきて、僕の前で立ち止まると、後ろで手を組む。


「実はね。武器を選ぶ時、すごーく悩んだのが、あなたとの相性だったのよ」


 アリスは思わず頬をポッと赤く染めたくなるような事を言って、ニコッと笑顔を見せる。


「きっとこれなら、今のあなたの姿でも進化した後の姿でも、適応できると思ったから選んだの」


 アリスはしゃがみ込むと、僕の額を人差し指でツンッと突く。


「私だって頑張れるんだからね。前みたいな事はナシよ」


 アリスはそれだけ言うと、スッと立ち上がった。

 アリスの気持ちが伝わり、胸が温かくなる。


 大丈夫……僕はもう一人で頑張らない。

 だって君と僕はパートナーだもんね。


 僕はそう思いながら、大きく頷いた。

 アリスもコクンっと頷く。


「さて……ここを真っ直ぐ進めば、いよいよね。コリン、準備は良い?」


 順調に来たおかげで、アリスの防具も弓も+5にまで引き上げられ、回復アイテムも、まだ残っている。


 能力の回数だって果実を使い10回まで使用は出来るし、太陽の巻物も使ってある。

 これなら行けそうだ。

 僕は黙って頷く。


「よし、それじゃ行こう」

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