第22話

 僕達は難なくミノタウロスの居るエリアの前へと辿り着く。


「寒くなってきたから、早めに倒して帰ろうね」

『同感』


 僕達がエリアに入ろうと、足を踏み込んだ瞬間。

 僕は何かのスイッチを踏んでしまう。


 あっ……っと思った瞬間、景色が歪む。

 気付いたら、5階の入口まで戻されていた。


 やられた!

 強制分離型のトラップは、滅多に上層には現れない。


 だからこそ、油断してしまった……。

 引き寄せの石を失くしている時に、今日は本当に運がない。


 唯一の救いはアリスがボスの前に居るって事が分かっている事か。


 こういう時は、分かっている方が動いた方がいいだろう。

 きっとアリスも僕と同じ事を考えているはず。


 道は覚えている。

 上層だから大丈夫だと思うけど、早くいかなきゃ。


 ※※※


 数分、走っていると、細長い道へと差し掛る。

 数メートル先に、クリフとレッドドラゴンがシーフラビットを挟みうちにしているのが見えた。


 あの状態だったら、クリフはきっと仕留められるだろう。

 僕は足を止め、遠くから見守る。


 僕達が仕留め損なった奴だろうか? それとも違う奴か?


 いずれにしても何か盗み見ているようで気が引けるが、何を手に入れるか気になって仕方がない。


「ハイス。そっちに逃げたら火炎ブレスで道を塞いでくれ」


 クリフが指示を出すと、レッドドラゴンは返事をするかのように鳴き声を上げた。


 クリフがシーフラビットに向かって駆け寄る。

 シーフラビットは、レッドドラゴンの方へと向かって逃げて行った。


 レッドドラゴンはクリフの指示通り、火炎ブレスで道を塞ぐ。


 シーフラビットは慌てて足を止め、引き返そうとした。


 その瞬間を狙い、クリフがシーフラビットに向かって斬り掛る。


 攻撃は見事にシーフラビットを捕らえ、首を真っ二つにした。

 シーフラビットが消滅をする。


 やばい。ここだとクリフの背中でアイテムが見えない。

 僕は肉球を上手く使い、忍び足で近づいた。


 クリフが腰と膝を曲げ、ドロップアイテムを拾い上げる。

 それは――。


 僕は驚きのあまり足を止めてしまう。

 クリフが手にしていたのは、進化の結晶だった。


 クリフが僕に気付いたのか、こちらに視線を向ける。

 一瞬、目を見開いて驚いた表情を見せたが、直ぐに表情を戻した。


「なんだお前、またアリスと離れてしまったのか?」


 進化の結晶を腰に掛けてあった布の袋にしまい、僕に声を掛けてくる。

 僕は黙って頷いた。


「そうか。俺がやった引き寄せの石はどうしたんだ? 失くしてしまったのか?」


 僕はまた、黙って頷く。


「そうか。動いている様だが、場所は分かっているのか?」


 僕はまた黙って頷いた。


「それなら、大丈夫そうだな。予備ぐらい持っておけよ」


 クリフはそう言って、僕に背を向ける。


「ハイス。行くぞ」


 レッドドラゴンに声を掛けると、奥の方へと歩き出した。

 僕はそれを黙って見送る。


 クリフ、直ぐにレッドドラゴンを進化させるのだろうか? 


 クリフ達は、進化していなくても自分たちの実力で、ダークデーモンの所まで辿り着いている実力者。


 それが進化してしまったら、どうなるのか気になって仕方がない。


 きっとダークデーモンでさえ倒せてしまう程、強くなってしまうだろう。


 ――まぁ、気にしていても仕方がないか。

 僕はそう思うと、またアリスの元へと走り出した。


 ※※※


 数分走り、ようやくミノタウロスの居るエリアへと辿り着く。


 アリスがこちらに気が付いたのか、ニコニコと笑顔を浮かべながら歩いて来る。


「おーい、コリン」


 その表情から、おそらく余裕でミノタウロスが倒せたのだと思う。


 事情を知らないとはいえ、何とまぁ……呑気な表情をしていた。


 アリスはジッと見つめられている事に対して不思議に思ったのか、僕の前で立ち止まると、首を傾げる。


「ん? どうかしたの?」


 ――僕は首を横に振った。


「そう」


 僕が話せていたら話していたかもしれないが、アリスに伝えた所で、どうにかなる訳ではない。


 それに僕達は競い合っている訳でもないし、目的だってもう違う。

 ――だけど何でだろ。胸の奥がモヤモヤする。


 きっと僕は心の奥底で、勝手にクリフ達をライバルだと認識し、先に行かれるのが悔しいと思っているのだろう。

 負けたくない……僕も早く進化したい。


「じゃあ帰ろうか」


 僕はアリスの体をよじ登り、肩に乗る。

 今日は色々あったけど、僕達は無事に帰還した。

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