第17話

 俺達は狭い一本道を真っ直ぐ進む。

 他は見て回った。

 おそらくこの先にボスが居る。

 緊張して、手から汗が噴き出ていた。


 狭い通路を抜け、どんなに暴れても問題なさそうな開けた場所へと出る。

 その中央では、魔物が一匹、佇んでいた。


 細く筋肉質の漆黒の体に、全てを切り裂きそうな鋭く尖った爪。


 そして、コウモリのような羽を生やしている。

 目光は鋭く、頭には牛のような角を生やしていた。

 身長は大したことなく、人間の男ぐらいか。


 この階で、太陽の巻物を使っておいて良かった。

 辺りに明かりを灯せるものは、何一つない。

 暗闇の中、あの漆黒の体で飛び回って攻撃されれば、なす術はなく一方的に攻撃されて終わりだっただろう。


「最後のボスだけあって強そうね」

「そうだな」


 でも強そうなだけであって、筋肉の量からして、力負けするようには感じない。

 鋭く尖った爪も剣や盾で防げるはず。

 気になるのは――。


「何で右腕だけ、あんなにガードを固めているのかしら?」

「俺もそれが気になった」


 奴は黒く塗られた上腕部までしっかり覆われたガントレットに、ポールドロンまで装備していた。


「奴の利き腕が右だからかもしれないが、他は剥き出しなのを見ると何か気になる。少なくとも、あれじゃ斬り落とせない。他を狙うしか無さそうだ」

「そうね」


 あと厄介なのは翼か。

 それさえ何とかなれば、どうにかなりそうな気がする。


「準備は良いか?」

「うん、いつでも!」

「それじゃ行くぞ!」


 俺達は同時に、ボスのところへ駆けていく。

 二手に分かれるように距離を開け、ボスの前で立ち止まり、剣を構えた。


「なぁ、アリス」

「なに?」

「こいつ、名前無いんだろ?」


「えぇ、多分」

「じゃあ、俺が付けてやる! ダークデーモンだ」

「カッコイイね。それで行こう!」

「だろ?」


 ダークデーモンが呑気に会話をしているのに腹を立てたのか、鬼のような形相で、飛行してくる。


 ダークデーモンが最初に攻撃を仕掛けてきたのは――俺だった。


 鋭い爪で俺を引き裂こうとしたのか、腕を振り下ろしてくる。


 俺はすかさず剣で凌いだ。

 思った通り、腕力は大したことない。


「アリス!」

「大丈夫」


 アリスは既にダークデーモンの背後を取り、背中を斬り掛ろうとしていた。


 だが、ダークデーモンはアリスに気付き、横に避ける。

 そのまま空中へと逃げて行った。


「思った以上に素早いな」


 右腕以外、防具を身に付けないのは、スピード重視だからか?

 それに加え、やっぱり翼が厄介だ。


 最初に翼を斬り落としたいところ。

 でもどうやって、斬り落とすか……。

 ダークデーモンは飛行しながら、アリスを狙ってくる。


「アリス、盾でガード」

「分かってる」


 アリスは盾で凌いだが、押し負けていた。

 俺が横から斬りかかろうとすると、ダークデーモンはまたもや空へと逃げた。


「チッ」


 ダークデーモンはクルクルと空を回って様子を見ている。

 好都合だ。

 こちらもその間、対策を考えられる。


 ダークデーモンは戦い慣れているのか、俺達の攻撃を見切っている。

 普通に戦っていては油断を誘えない。

 奴が一番、油断する瞬間は何だ?


 ――きっと飛んだ後だ。

 奴は俺達が飛べない事が分かっているから、あぁやって飛び回って様子を見ている。


 きっと遠距離攻撃も持っていない事に気付いているだろう。

 だったら――。

 試したことはないが、あれをやってみるか。


 ダークデーモンがアリスの背後を狙って飛行しながら、攻撃を仕掛けてくる。


 俺はすぐさま距離を詰め、ダークデーモンの正面から斬撃を仕掛けた。


 ダークデーモンは攻撃を読んでいて、後ろへヒラリと避ける。

 ほら、飛んでみろよ

 ダークデーモンは俺の思ったとおり、飛んで逃げた。


 一点集中。

 スゥー……息を整える。

 両足にグッと力を込め、足の裏にリフレクトシールドを張った状態でジャンプをする。


「リープ・リフレクトッ!」


 人間では有り得ない跳躍で、ダークデーモンに追いつく。

 ダークデーモンは俺に気付き、目を見開き驚いていた。


 だが、もう遅い!

 俺は落下しながら、両手でロングソードを握り、思いっきりダークデーモンの左翼を斬りつけた。


 攻撃が命中し、ダークデーモンと共に、翼が落ちていく。

 よし! 作戦成功だ。

 俺は難なく地面に着地する。


 ダークデーモンは態勢を崩し、地面に膝をついていた。

 このまま一気に片を付けてやるッ!


 一点集中。

 俺はダークデーモンに近づきながら、拳にリフレクトシールドを張る準備をする。


 するとダークデーモンはムクリと起き上がり、右手を突き出した。


 ゾクッ! 何か嫌な予感がする……。

 俺は拳にリフレクトシールドを張るのを止め、立ち止まった。

 奴の掌の真ん中にある目はなんだ?


 ダークデーモンの掌にある閉じた目がカッと開く。

 まずいッ。

 俺は咄嗟に全力のリフレクトシールドを張った。


 痛てぇッ!

 リフレクトシールドは間に合った。

 でも――ダークデーモンが放った2センチ程の一筋の光線は、俺の左肩に当たり貫通する。

 俺はすぐさま、右手で肩を抑えた。


「コリン!」


 アリスが俺に近づこうと動き出す。


「近づくなッ!」


 俺が大声を上げるとアリスは立ち止まった。 

 まとまった所で、また放ってくるかもしれない。


「アリス。一旦下がるぞ」

「分かった」


 俺はダークデーモンの様子を見ながら、後退していく。


 おかしい……なぜ奴も後退する。

 一気に畳み掛けるチャンスだろ?


 まぁいい……いまは回復をしないと。

 肩から血が噴き出て来て、クラクラする。


 俺は右手で布の袋から全回復の薬を取り出すと、口で瓶の蓋を開け、飲み干す。


 直ぐには効かない。肩を抑えながら、様子を見るか。


「大丈夫?」


 アリスの方に顔を向けると、アリスは心配そうに俺を見つめていた。


 目を逸らしている間にダークデーモンがまた、光線を放ってくるかもしれない。

 俺はまた、奴の方を向く。


「あぁ、薬を飲んだから大丈夫だ。くそッ! 油断した……あんな目で追えないぐらい速くて強力な一撃を、切り札として取っているとは思いもしなかった」


「仕方ないよ。初めて戦うんだから、焦らず行こう」

「あぁ」


 通りで誰もダークデーモンの事を知らない訳だ。

 あの光線は、そう簡単に避けられるものじゃない。

 さて、どうする?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る