第16話

 俺がクリフの元に戻る頃には、敵はゴブリン数匹となっていた。


 クリフが次々とゴブリンを刻んでいく。

 手伝うまでもないな。

 クリフは最後のゴブリンに剣を突き刺した。


「これで、ひとまず落ち着いたな」


 俺は剣をしまいながら、クリフに話しかける。


「あぁ」


 クリフは素っ気なく返事をすると、剣を鞘にしまった。


 俺達は近くにあった大きな岩まで移動すると、人一人分程度の距離を開けて座る。


 クリフは俯き、ジッと地面を眺めていた。

 辺りはシーン……と、静まり返り、何だが気まずい雰囲気だ。


 せっかくだ。

 ここでライバルの動向でも探っておこうか?


「なぁ、あんたは何で最深部を目指しているんだ?」


 俺が質問してもクリフは口を開かない。

 何か考え事でもしているのだろうか?


「――お前には関係ないだろ」


 クリフはボソッと呟くように返事をしてきた。

 やっぱり、そう来ると思った。


 これ以上、聞いても何も出てこないだろうし、話題を変えてみるか。


「そうだよな。――なぁ、あんたはアリスの事が好きなのか?」


 俺の一言にクリフは急に反応を示し、顔を上げて、不快な表情を浮かべながら俺の方を見た。


「はぁ? 何を言っているんだ」

「いやさ、何だかんだ言って、あんた俺達の事を助けてくれるし、アリスの事が好きだからかな? って思って」


 クリフは俺の言葉を聞くと、いつものように冷たい表情を浮かべ、俯いた。


「好きとかではない。ただ俺は、幼馴染が悲しむ姿や死ぬ姿を見たくないだけだ。誰だって抱く感情だよ」


 不器用な奴だ。

 真っ先にそう思った。

 何の感情もない奴が死んだり、悲しんだりしたって何も思わない。


 少なからず、相手に好きという感情があるから、失いたくないと思うんだろ。


 今までの冷たい態度や見下した態度は、アリスにその感情を知られたくない照れ隠し。

 そんな所だろうか。


 もしかすると、俺達の目的は一緒なのかもしれない。


「俺は好きだぞ」


 クリフは俺の言葉にピクリッと体を動かし反応するものの、それ以上は動かない。


「――だからどうした?」

「だから俺は、アリスを守り抜いて、お前より先に最深部に辿り着いてみせる」


 クリフはソッと目を閉じる。


「そうか」


 クリフは今、何を思っているのだろうか?

 呟くようにそう言ったクリフの表情は、どこか柔らかく感じた。

 クリフが目を開ける。


「ところで、石の方はまだ光ってないか?」

「え? あ、そうだった」


 俺は慌てて胸ポケットから石を取り出す。


「光ってる……」


 でも、いま俺が居なくなれば、クリフは一人になってしまう。


 俺はクリフに視線を向ける。

 クリフは俺の方に顔を向けていた。


「構わない。行けよ」

「でも――」

「俺はお前より強い。大丈夫だ」


 本当、素直じゃないな。


「――何だよそれ。心配して損した」

「事実を言ったまでだ」

「じゃあ、先に行かせてもらう」


 俺はギュッと引き寄せの石を握る。


「合流」


 帰還の巻物のように瞬時に景色が歪む。

 気付いた時には、アリスが目の前に立っていた。

 良かった。どこも怪我とか無さそうだ。


「やっと合流できたね」

「クリフのおかげで助かった」

「そうね。今度会ったら、お礼を言わなくちゃ」

「そうだな」


 俺は返事をしながら、引き寄せの石を布の袋にしまった。


「怪我はない?」

「あぁ、大丈夫だ。アリスは?」

「私も大丈夫。影の騎士に襲われたけど、ハイスが助けてくれたから」


「そうか。じゃあ探索を続けようか?」

「そうね」


 俺達は肩を並べながら、奥地へと向かった。


 ※※※


 3階へと辿り着く。

 俺達はランタンの明かりのみを頼りに順調に進んでいた。


「ねぇ、あれ」


 アリスが指差した先にランタンが見え、その隣に布のようなものが見えた。


「近づいてみましょ」

「あぁ」


 近づいてみると、白骨化した死体が一体と、布の袋が転がっていた。


 ここまで来た冒険者だ。

 何か良いアイテムが袋の中に入っているかもしれない。

 俺はしゃがむと、布の袋の中身を確認した。


「何か入ってた?」

「使えそうなのは、太陽の巻物ぐらいかな」

「そう。有難く貰って行きましょ」

「そうだな」


 俺は返事をして、自分の布の袋に太陽の巻物をしまう。


 俺達は両手を合わせ、祈りを捧げてから次へと向かった。


 ※※※


「さすがにここまで来ると、厄介な魔物が多いな」


 俺はミステリーウィザードから剣を抜いて、そう言った。


 ミステリーウィザードは黒いローブを羽織った魔物で、杖で遭遇した者の強化装備を無効にしてしまう魔法を掛けてくる。

 俺達もいま、強化を無効にされてしまった。


「そうね、せっかく強化したのに……でもあと少し、頑張りましょ!」

「あぁ」


 俺達は罠に何回か引っ掛かり、魔物にも遭遇したが、何とか拾ったアイテムを駆使して、下層5階に辿り着いていた。


 噂ではここが最深部となる。

 でもこのまま進んで良いのか?

 装備は上層に居た時と変わらず、アイテムはほとんど使ってしまった。


 あるのは確か――。

 能力の威力アップ果実。

 全回復の薬。

 そして帰還の巻物。


 この程度。

 最深部のボスは誰も知らない。

 どんなボスだが分からない以上、万全な状態で挑みたいところ。


 ――でも、俺達には時間がない。

 今度来るときは、ここまで進めないかもしれない。


「どうしたの?」


 アリスが心配そうに俺を見つめ、首を傾げる。


「いや、何でもない。先に進もう」

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