第15話

 行きより時間が掛ってしまった。

 俺は中層に戻る階段に辿り着くと、急いで布の袋から太陽の巻物を取り出した。


 巻物を読み上げると、太陽の光に照らされるようにパッと辺りが明るくなる。


 良かった。

 岩がゴロゴロと転がっている上層と変わらぬ風景に少し安心する。

 さて、早く合流しないと!


 ※※※


 数分、駆け回っていると奥の通路から、戦っているような音が聞こえる。

 アリスか!?

 急いで奥へと向かう。


「これは……」


 ゴブリンにミノタウロス、それに影の騎士までいやがる。


 開けた場所に、ウヨウヨと魔物が覆い尽くしていた。


 不思議な洞窟は落とし穴やワープトラップがあるせいで、一ヵ所に魔物が集ってしまう場所がある。


 それが魔物の巣と呼ばれ、冒険者が遭遇したくない罠の一つとなっていた。


 その中心で戦っているのは金髪のショートヘアの男とレッドドラゴン。

 クリフのやつ、こんな所まで来ていたのか。


「ハイス。目の前の敵を火炎ブレスで薙ぎ払え」


 レッドドラゴンはクリフの指示に従い、広範囲の火炎の息を吐く。


 その火炎の威力は凄まじく、目の前の魔物の群れをアッという間に飲み込んでいった。


 俺が見たときよりも、威力が増している?

 クリフは、すかさず残った魔物に近づき、斬り捨てていく。


 苦戦しているようには見えないが、どうする?


 アリスを助けることが先決なのは分かっている。

 だけど、このまま闇雲に探しまわっていて探し出せるのか?


 クリフなら、もっと早く探し出せる方法を知っているかもしれないし、人数が増えた方が探しやすいのも確か。


 ――くそッ。

 俺は掻き分けるように目の前の魔物を斬り捨て、クリフの元へと向かう。

 クリフがこちらに気付いたのか、視線をこちらに向けてきた。


「お前は……」


 クリフは目の前の魔物を斬り捨てると、こちらに近づいてきた。


 俺も目の前の魔物を斬り捨てる。

 周りにはまだウヨウヨいるものの、とりあえず俺達の周りは落ち着いた。


「アリスの魔物か?」


 クリフが話しかけてくる。


「だったら何だよ」

「珍しいタイプに進化したんだな」


「あぁ。お前らみたいに魔物を道具としか見ていない奴らじゃ、辿り着けない領域だよ」

「――確かにそうかもな」


 やけに素直だな。

 何だが調子が狂う。


「お前一人か? アリスはどうした?」

「強制分離型のトラップに掛って、はぐれちまった」

「そういう事か」


 クリフは返事をすると後ろを振り返る。


「ハイス。目の前の魔物を一掃したら、こっちへ来い」


 クリフは指示を出すと、またこちらへ向く。

 腰に掛けてあった布の袋から赤い小石を取り出す。


「こいつは引き寄せの石だ。パートナーと離れてしまった時に使うと、瞬時に合流することが出来るマジックアイテムだ。ただ、こいつをもう一つパートナーが持っていないと効果は発揮されない」


 クリフはそう言って、俺に引き寄せの石を差し出した。


「まずこいつをお前にやる。それを握ってパートナー・アリスと言っておけ」


 俺は引き寄せ石を受け取り、ギュッと握る。


「パートナー・アリス」


 握った手を離し、中を確認してみる。

 何も反応がない。


 本当にこれでいいのか?

 魔物を倒し終わったのか、レッドドラゴンが近づいてくる。


「ハイス。アリスは分かるな? こいつを持って探してくれ」


 クリフはそう言って、レッドドラゴンの首に掛っている布の袋を外し、引き寄せの石を入れる。


「見つけたら、引き寄せの石をアリスに渡せばいい」


 そう言いながらドラゴンの首に袋を戻した。


「それじゃ、行ってこい」


 クリフの言葉に従い、レッドドラゴンは羽を広げ、飛びながら奥へと向かって行った。

 俺は、とりあえず引き寄せの石を胸ポケットにしまう。


 レッドドラゴンが結構、倒してくれたとはいえ、まだ魔物は残っている。

 俺達は互いに背を向け、剣を構えた。


「アリス。この石の使い方、知っているかな?」

「熱心にこの洞窟の事を勉強しているぐらいだ。きっと大丈夫だろう」


 俺達は戦いながら会話を始める。


「それよりここが片付いても、お前は残れよ」

「何で?」

「すれ違いにならないようにだ。そのためにレッドドラゴンを向かわせた」


 確かに。

 お互いが動いてしまうと、どんどん離れてしまう可能性がある。


「分かった」

「さっきレッドドラゴンに渡した石がアリスに届いて、アリスがお前の名前を言えば、石は光出す。そうなったら合流と言えば瞬時に移動できるはずだ」


「分かった。それまで付き合ってやるよ」

「それはこっちのセリフだ」


 なんだこいつ、優しいじゃないか。

 いつもの冷たい感じは何処へ行った?


 ――考えたら初めて会ったとき、こいつはアリスが目を覚ました瞬間、パっと明るい表情を見せていた。


 アリスに見下した態度を取るのは、何か理由があるのかもしれないな。

 それより――。


 こいつ全然、攻撃が効かねぇ!

 俺は一旦、後ろに下がり、影の騎士から距離を置く。


 リフレクトシールドを使えば、倒せない事もないが、どうする?


「退いてろ。俺がやる」


 苦戦している俺を見兼ねたのか、クリフが俺の前に出る。


「お前は俺の後ろの敵を倒してくれ」

「分かった」


 一緒に戦ってみて分かる。

 こいつは状況を瞬時に判断して、行動しているから、戦いやすい。

 悔しいが、ここまでくるだけの事はある。


 ガシャン! と、金属音が響く。

 チラッと、音が鳴った方に視線を向けると、クリフが影の騎士を倒していた。

 まじかよ……俺が苦戦した相手だぞ?


 どうやったかは知らないが、負けてたまるかよッ!

 どうせここで待ってなきゃいけないんだ。

 だったら――。

 俺は剣を鞘にしまい、クリフから離れる。


「おい、どこへ行く?」

「お前に、ど肝を抜く一撃を見せてやる! 付いてくるなよ」


 俺はそう言って、魔物の前をわざと通り、誘いながら来た道に戻った。


 ここは一本道。

 うまく誘えば、魔物は縦に並ぶ。


 ギリギリまで引き寄せて――よし!

 一点集中。

 スゥー……息を整え、右手の拳だけにリフレクトシールドを纏う。


「いくぞッ。リフレクト・ストライクッ!」


 全力で先頭のミノタウロスの腹に殴りかかる。

 攻撃が当たったミノタウロスは後方へ勢いよく吹き飛び、次々と縦に並んだ魔物を巻き込んでいく。

 リフレクトシールドの威力の方は抑えた。

 大丈夫、どこも痛くない。


 俺は通路を通り、魔物の巣へと向かう。

 抜けた先に居たのは、影の騎士だった。

 やっぱり、威力を抑えた分、全ては倒せなかったか。

 だが、確実にダメージは負っている。


 影の騎士の鎧を見ると、両腕と腹の部分が砕けて、肌が露出していた。

 俺は鞘から剣を抜く。


「これなら、いける!」


 俺は思いっきり、影の騎士の腹を狙って、剣を振った。

 攻撃が見事に命中し、影の騎士はその場で倒れこむ。


「悔しいままで、終われるかよ」


 俺が捨て台詞を吐く頃には、影の騎士は消滅していた。


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