第14話

 アリスが俺を心配しているのか、眉をひそめ、息を切らせながら、駆け寄ってくる。


「無事で良かった」

「はぁ……はぁ……コリンの方こそ」

「アイテムは太陽の巻物だった」


「そう。それより腕を押えてどうしたの?」

「あぁ、大したことじゃない。ちょっと筋を痛めた程度だろ」

「ちょっと待って」


 アリスは布の袋から回復薬を取り出し、俺に差し出した。


「はい、使って」

「でも、この程度で良いのか?」


 アリスはニコッと微笑む。


「良いに決まっているじゃない。それに筋だけじゃないかもよ?」


 確かに……。

 後になって痛みが悪化する可能性もある。

 そうなったらアリスが守れなくなる。

 勿体ない気がするが――。


「分かった。使わせて貰う」


 俺はそう言って受け取った。

 小瓶の蓋を緑の液体を口に流し込む。


 シールド効果があるのに、それすら突き抜けてダメージを負ってしまった。


 局所リフレクトは強力だが、自分に跳ね返るダメージも大きいって事か……。


 前日に能力を試していて、良かった。

 試していなければ、リフレクトの威力を調節せずに、調子に乗って全力で放っていたかもしれない。

 そう思うとゾッとする。


 使える回数はあと3回。

 うまく使わなければ……。


「コリン。一人で翼竜を倒しちゃうなんて強くなったね」

「え。そんな事無いよ」

「謙遜しなくても大丈夫だよ。凄く強くなったと思う」


 アリスの表情が、なぜかフッと悲しげに変わる。


「私なんていらないぐらいにね……」


 少しトゲのあるその一言で、いまアリスが何を思っているか、何となく理解できる。


 最弱と呼ばれている俺も、その気持ちを知っているから。


 頼りにされない孤独感と、頼ってくれない怒り……。

 そんな気持ちがアリスの中で渦巻いているのだろう。


 いま直ぐにでも否定をしたい。

 そんな事はない。君は俺にとって必要だ。

 それが俺の本当の気持ち。


 だけど――。

 アリスの今の気持ちの時に、それを言った所で気休めにしかならないだろう。


 もっとこう、アリスが納得出来るような言葉はないものか。

 ――くそっ、思い浮かばない。


「ごめん。今のは忘れて」


 アリスはそう言って、苦笑いを浮かべた。

 俺に気を遣って、我慢をしているのが分かる。


 ごめん。言葉が思い浮かんだら、きっと伝えるから許してほしい。


「先に進みましょ」

「あぁ」


 俺達は無言のまま奥へと進む。

 いよいよ下層だ。

 階段にはロウソクが灯されていたが、その先は――。


「なんだここ……」

「真っ暗で何も見えないね」

「あぁ……」


 これじゃ、月明かりに照らされた夜道の方が明るいぐらいだ。


 いまはアリスがランタンを持っているから、進めない事はないが、これがもし罠や魔物によって壊されたら……。


「アリス。ランタンが無くなれば、先に進むのは更に困難になる。君は出来るだけサポートに回ってくれ」

「分かった。出来るだけ離れず進もうね」


 アリスはそう言って、俺の左腕を掴んだ。


「あぁ」


 ※※※


 そのまま十分ほど進む。


「キャッ」


 突然、アリスの悲鳴とともに、左腕にあった温もりが消える。


「アリス!」


 ――返事がない。

 周りを見渡しても真っ暗で何も見えない。

 消えた!?


 まさか!

 罠を踏むとパートナーが、今いる階の何処かに飛ばされる強制分離型トラップか!?


 話には聞いていたが、厄介な事になった。

 今すぐにでも太陽の巻物を使って、アリスを探したいところ。

 だが光がないから読むことが出来ない。


 階段のところにはロウソクがあった。

 仕方ない、一旦戻るしかない。


 ――手探りで、もと来た道を戻っていく。

 ここは初めて、どんな魔物や罠があるか分からない。

 アリスには光があるから、何かあっても脱出することが出来るだろうけど、頼む。

 無事でいてくれ……。


 カシャ……カシャ……と、鎧を着て歩いているような音が洞窟内に響いてくる。

 魔物?


 まさか、影の騎士じゃないだろうな?

 やつは全身黒ずくめだから、こんな暗闇だと、どこから攻撃してくるか分からない。


 その場で足を止め、少し様子を見る。

 ――良かった。音が遠ざかっていく。


 音で状況が掴めるのは有難い。

 さて、先に進むか。

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