第13話

 俺がアリスの元へ戻ると、アリスは複雑な表情を浮かべていた。


「なんか……ごめん……」


 自分が何も出来なかったから、申し訳ないと思っているのか?

 俺は安心させたくて、アリスの肩にソッと手を置いた。


「大丈夫、気にするな」

「うん……」

「もうお腹いっぱいになったか?」

「うん、大丈夫」


 俺は元に居た場所に戻り、パンを回収する。

 汚れを手で払い、腰に下げてあった布の袋に入れた。


 帰還の巻物は手に入ったが、罠によって紛失する可能性だって考えられる。

 長時間、探索することが強いられる事もあるから、食糧は無駄に出来ない。


「じゃあ、先に進もうか」

「うん」


 俺達は、魔物と罠に気をつけ、神経をすり減らしながら先へと進む。

 いよいよ次は中層の5階。

 階段を下りながら、翼竜の事を考える。


 前回、あいつは近接攻撃しかしてこなかった。

 その事を考えると、あいつは遠距離攻撃をしてこない?


 ――いや、それは分からない。

 とりあえず遠距離攻撃もあるかもしれないと思っておくか。


 問題は、あいつは飛び回ること。

 火炎玉を投げて攻撃する方法もあるが、当たるかどうかは分からない。


 最悪、全部当たらずに無駄にしてしまう事も考えられる。

 だったら――。


「なぁ、アリス」


 俺は歩きながら横に居るアリスに話しかける。


「なに?」


 アリスも歩きながら返事をした。


「今度のボス戦も、最初は俺に任せてくれないか?」

「え? 前回、倒せなかった相手だよ?」

「分かってる。でも試したことがあるんだ」


「試したいこと? それって何?」


 これを話せば、アリスは止めるかもしれない。


「――失敗する可能性もあるから、まだ言えない」


 アリスが無言で顎に指を当てる。

 何を考えているのだろうか?

 俺はアリスが口を開けるのを見守る。

 ――長い沈黙の後、アリスは手を下ろす。


「分かった」

「ありがとう」

「でも危なくなったら、すぐに助けに入るからね」

「あぁ、頼む」


 ※※※


 しばらく黙って、真っ直ぐ進んでいると、バサッ……バサッ……と、嫌な音が聞こえてくる。


「近くにいるな」

「えぇ……」

「おそらく右を曲がった先だ。どうする?」

「心の準備は出来てる。行きましょ」

「了解」


 俺達は右に曲がり真っ直ぐ進む。

 すると前のように開けた場所に到着した。

 翼竜は?


 俺は足を止めると、辺りを見渡す。

 ――居た!

 翼竜は俺達に気付いる様子はなく、奥の方で食事をしていた。


 奴の姿を確認出来て良かった。

 これで安心して進める。


「まず俺が先に行く。君はここで待っていてくれ」

「分かった」


 気付かれないまま、攻撃出来れば一番いい。

 俺は物音を立てないように、ゆっくり進む。


 このエリアの半分ぐらい見つからずに歩いた所で突然、背後から金属音が鳴り響く。


 急いで振り返ると、アリスが剣を構えていた。

 気付かれても仕方ないッ


「アリス、どうした!?」


 俺は大声で安否を確認する。


「大丈夫。弓タイプのゴブリンが矢を放ってきただけ。私一人でどうにかなるわ」

「分かった」


 バサッ!

 翼を動かす大きな音が背後から聞こえてくる。

 チッ、やっぱり気付かれたか。


 急いで後ろを振り返ると、翼竜が飛びながら、こちらに近づいて来ていた。

 でも問題無い。作戦はこれからだ。


 タイミングは奴が、攻撃しようと頭を下げた瞬間。


 そこを狙う!

 俺は剣も抜かずに翼竜が攻撃してくるのを待ち構える。


「キェッー!」


 翼竜が奇声を発しながら、クチバシで攻撃を仕掛けてきた。

 よし、思い通りだ。


 俺はヒョイッと思いっきりジャンプをして、やつのクチバシに飛び乗る。

 そのまま一気に、翼竜の背中へと移動した。


 奴は予想通り、体を必死に揺さぶり俺を振り落とそうとしてくる。


 思った以上に揺れたため、俺は少しバランスを崩して膝をついてしまった。

 邪魔くせぇ!


 俺は鞘から剣を抜くと、思いっきり翼竜の背中に剣を突き刺す。


 深くは刺さらなかったものの、痛かったようで翼竜は更に暴れ出した。

 俺は背中に刺さった剣を握りしめ、堪える。


 このまま急上昇されたら厄介だ。

 ここで一気に片を付けてやるッ!


 前に放った全力のリフレクトシールドを思い出す。

 あの時でさえ、翼竜は吹っ飛んだ……この一撃でどうなるか、楽しみで仕方ない!

 思わず舌舐めずりをしてしまう。


 一点集中。

 スゥー……息を整え、左手で剣を握りながら、右手の拳を振り上げる。

 拳だけにリフレクトシールドを纏い……。


「くらぇッ。リフレクト・ストライクッ!」


 全力で振り下ろすッ!

 攻撃が翼竜の背中に当たり、バキッ……ボキッ……っと、骨が折れる感触と共に、音が響き渡る。


 翼竜は叫び声を上げると、ピタッと動かなくなり、そのまま勢いよく地面に急降下していく。


 俺は剣を抜いて、翼竜から飛び下りた。

 翼竜は地面に叩きつけられ、見るも無残に潰れていった。


 ドロップアイテムは?

 ――あった。

 俺は巻物一つを拾い上げると、布の袋にしまう。


 運が良いのか悪いのか。

 アイテムは太陽の巻物一つか……。


 だがこれを読み上げれば、今いる階の全てを明るくする事が出来る。


 貴重なアイテムだ。

 ピンチの時まで取っておこう。


 俺は剣を鞘にしまいながら、アリスの方へと歩き出す。


 リフレクト・ストライクは、いつも体の上から下まで覆っているシールドを拳だけに集中させ、突きを放っただけ。


 たったそれだけで、威力は倍増する。

 ――でもこれ、良いことだけじゃないみたいだな。

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