第12話

 ミノタウロスが勢いよく振り下ろした大きな斧を、俺は両手でロングソードを握り、受け止めた。


 握った手がビリっと一瞬痺れるような重い一撃だが、大丈夫。

 負けてない!


「コリン! 準備はいつでもオーケーだよ!」


 背後からアリスの声が聞こえる。


「分かった。避けるから構わず投げてくれ」

「了解!」


 このままの状態で、ギリギリまで耐える。


「コリン、退いて」

「分かった」


 俺は精一杯、剣で押した後に後ろに退く。

 その瞬間、コトッと音がして、火炎玉が地面に落ちた。

 火柱が上がり、ミノタウロスを命中する。


 よし、この間に背後に回り込む。

 効果が切れる前に背後に回り込み、剣を再び構える。


 次に試すことは、俺の腕力でこいつが斬れるかどうかだッ!


 効果が切れると同時に、俺は大きく振りかぶり、ミノタウロスの背後をめがけて、斬りかかった。


 攻撃が見事に命中し、ミノタウロスの背に、深い切り傷が出来る。


 よし、いける!

 アリスが次の火炎玉を用意している。


「アリス!」


 俺は首を横に振る。

 通常攻撃で何とかなるなら、貴重なアイテムは温存しておきたい。


「もう火炎玉はいらないよ。俺が食い止めている間に、アリスは剣と盾を装備してくれ」

「分かった」


 アリスは装備を取りに、戻っていく。

 アリスと初めてこいつと戦った時、アリスのロングソードは強化されていなかった。


 でも、いま装備しているものは+3。

 少しだが、ダメージは与えられるだろう。


 俺はミノタウロスの攻撃を避けながら考える。

 奴は火炎玉の攻撃が思った以上に効いているのか、ぜぇ……ぜぇ……と、苦しそうに息をしている。


 動きも確実に遅くなっていた。

 無理する必要はない。

 アリスが来たところで、攻撃を開始する。


「お待たせ!」


 アリスが装備を整え到着する。

 弱ってきているとはいえ、攻撃を受け止める方は、アリスには荷が重いだろう。


「アリス、俺は守りに徹する。君は攻撃に専念してくれ」

「了解!」

「よし、攻撃開始だッ」


 俺が攻撃を受け止め、アリスが攻撃を仕掛ける。

 それを繰り返す。


 思ったとおりアリスの攻撃はあの時より、鋭く。

 ミノタウロスに傷を負わしていく。


 そして――決着がつく。

 ミノタウロスはズシンッと、重そうな音を立て、地面に倒れこんだ。


 俺は剣を鞘にしまうと、ドロップアイテムを回収する。

 全回復の薬と帰還の巻物か。


「やったね!」

「あぁ……」


 勝った……。

 あんなに苦戦したボスなのに、能力を使わず、マジックアイテム1個と剣だけで勝てた……。

 俺達は――確実に強くなっている!


 嬉しさが込み上げ、俺はガッツポーズをするかのように、ギュッと左手を握っていた。


「この調子で次いこー」

「そうだな」


 俺達は興奮覚めやらぬまま、次の層へと向かった。

 中層へ下りたものの、何だか不思議だ。


 空気は違うものの、ミノタウロスを簡単に倒せたせいか、以前来た時と違って、恐怖が和らいでいる。

 だが、油断大敵だな。


 俺達は順調に下の階へと下っていく。

 幸い、落とし穴に引っ掛かる事は無かった。


「ねぇ、お腹空かない? 少し休もうよ」

「そうだな」


 俺達は立ち止まると、壁に背中を預け、座った。

 アリスは腰に掛けてあった布の袋に手を突っ込むとパンを取り出す。


「パンを持ってきたんだぁー。はい」


 そう言って、笑顔で俺の前へと差し出した。

 俺はパンを受け取る。


「ありがとう」

「どう致しまして」


 俺は無言でパンに噛り付く。

 アリスも、パンを取り出すと食べ始めた。


「能力の威力アップ果実も持ってきているからね。欲しかったら言って」

「分かった。今のところ大丈夫」


 そう返事をして、しばらく一点を見据えながらボォーッとパンに噛り付く。

 なっ!


「リフレクトシールド!」


 一本の木の矢が、リフレクトシールドに当たり、地面に落ちる。

 チッ。


 立ち上がって、矢が飛んできた方に向かって目を凝らすと、弓矢タイプのゴブリンが、次の攻撃をしようと準備をしていた。

 すぐさま剣を抜き、アリスの前に立つ。


「ありがとう……」

「あぁ」


 声の感じから、アリスはビックリし、動揺しているようだ。

 無理もないか。

 俺は暗闇でも人間よりは見える。


 だから矢を見つけることが出来た。

 でもアリスは、矢が地面に落ちるまで気付かなかったのかもしれない。



 ゴブリンが次の矢を放ってくる。

 俺は剣で弾いた。

 素早く距離を詰め、ロングソードを振り上げ、斬り掛る。


 読んでいたのか、一撃目は避けられた。

 すかさず薙ぎ払い、二撃目を放つ。

 ゴブリンは避けられず、弓と共に真っ二つに切断された。


 こいつは武器が違うだけで、普通のゴブリンと変わらない。


 だが、こんな暗い中で遠くから攻撃されると、少し厄介だな……。


 油断大敵と思っていながら、弱い魔物相手に貴重な能力を使ってしまった。


 ――悔しいが仕方ない。

 あのままだったら、アリスの額に刺さっていたかもしれないのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る