第8話

 でもあれは一度挿し込んでしまえば、二度と外れない。


 戻りたくても、戻れない。

 魔物がどんな姿になるかは、魔物のタイプや、今のステータスによって異なる。


 想像出来ないぐらい醜い姿になることだって、十分あり得る。


 正直、怖い……だから僕は躊躇った。

 アリスに嫌われたくない……。


 アリスの温かい肌の温もりを、いつまでも味わっていたい。

 そんな身勝手な理由で僕は躊躇った。


 チッ!

 翼竜が突然、大きくクチバシを開け、急降下をしてくる。


 あれだとリフレクトシールドを張っても、丸のみされてしまう。

 だったら――。


 僕はタイミングを見計らって、翼竜の顎の下に回り込み、リフレクトシールドを張りながら、突き上げるように攻撃をした。


 翼竜は痛かったようで、悲鳴を上げながら、また天井へと戻っていく。


 助かった……でも時間の問題だ。

 リフレクトシールドを使えるのはあと一回……。

 このままでは二人とも死んでしまう。


 ――温もりを失うのは怖い……怖いけど、君を失う方がもっと怖いッ!


 僕は急いでアリスの腰に掛った布の袋に向かい、口で布の袋の紐を解いた。

 頭を袋に突っ込み、進化の結晶を探す。


 あった!

 口で結晶をくわえると引きずり出した。


 どんな醜い姿になったって良い……僕は君を守り抜いてみせるッ!


 僕は地面の上にある進化の結晶めがけて、額を付けた。


 カチッと進化の結晶が僕の額にはめ込まれた瞬間、眩い光が辺りを包む。


 みるみる手足が伸びていき、筋肉が膨れ上がるのが分かる。


 どうなってしまうのか? そんな不安が吹き飛ぶほど、力が溢れてくる。


 光が止んだ瞬間、自分の手を確認すると、人間のような五本の指が確認できた。

 獣人タイプか……おもしれぇッ!

 両手をギュっと握る。


 自分でも、ひどく興奮して攻撃的な状態だと分かるぐらい、この力を試したくてウズウズしていた。


 翼竜が何かを感じ取って、急降下してくる。

 そんなに腹が減っているのか?

 俺は右手を前に突き出す。

 だったら、くれてやる……。


「全力のリフレクトシールドをよッ!」


 タイミングよく繰り出したリフレクトシールドが翼竜のクチバシに当たり、翼竜は悲鳴を上げながら、後ろへ吹き飛んだ。


 俺の5,6倍はありそうな巨体が一瞬で吹き飛びやがった……やべぇ……。


 思わず頬が緩むほどの爽快感に心が躍る。

 もっと試してみたいが、これで最後だし、そんなことしている場合じゃない。


 さっき人間のように声が出せた。

 きっとあれも使えるはず。


 すぐにアリスに駆け寄り、布の袋から帰還の巻物を取り出す。

 アリスの腕に触れながら、口に出しながら読み上げる。


 よし!

 そう思った瞬間、いつものように景色がゆがみ、脱出に成功した。


 まずはアリスを医者に診せなきゃ。

 俺は洞窟の入り口の前でアリスを抱きかかえ、森を歩き出す。


 今の俺は人間のような形をしているものの、体中、黒豹のような毛に覆われていて、尻尾も残っている事は分かる。


 顔も触った感じは、毛で覆われているだろう。

 でもどんな顔をしているのだろうか?

 俺はまだ自分の顔を確認できていない。


 興奮が冷めたのか、急に不安な気持ちで胸が一杯になる。

 俺はアリスの顔に目を向け、立ち止まった。


 ――いまアリスが目を覚まして、俺の顔を見たら、どんな顔をするのだろうか?


 出来ればまだ、目を覚まさないで欲しい。

 俺はまだ、心の準備が出来ていない。


 不安な気持ちを振り払うかのように、慌てて首を振る。


 いや今はそんな事、どうでもいい。

 無事でいてくれれば、それで良いじゃないか。


 俺は真っ直ぐ見据えたまま、歩き出す。

 最悪……解散することも考えておかなきゃな。

 大丈夫、そうなっても俺一人で君の願いを叶えてあげるから。

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