第4話

 道具屋へと繋がる砂利道を歩いていると、反対側から年配の男が二人、歩いてくる。


 不思議な洞窟を探索する冒険者だろうか?

 魔物は側にはいないが、ロングソードを腰から下げていた。


 男たちはなぜか僕達を見ながらニヤニヤと不快な笑みを浮かべている。


「おい、あれ見ろよ。シールドキャットだぜ」

「本当だ。あの女、運がねぇな」


 男たちは僕達を馬鹿にしたいのだろう。

 わざと大声でそう言って、ケタケタと笑いだした。


 今すぐにでもアリスの肩から下りて、あいつ等の喉元を食い千切りたい程の憤りを感じる。


 でもそんな事をしたら、アリスに迷惑が掛る。

 僕はグッと堪えた。


 アリスはあいつ等に目も向けず、黙ったまま真っ直ぐ歩き続け、通り過ぎる。


「――コリン。あいつ等の言う事、気にしちゃダメ」


 しばらくしてアリスは、僕が怒りで震えていた事に気付いていたのか、落ち着いた声で、そう言った。


「そんな事より、あいつ等より先に最深部に辿り着いて、ざまぁみろって、心の中で言ってやれば良いのよ」


 それって十分、気にしているじゃないか!

 心の中でそう思うと自然に笑みが零れた。


 さっきまでの怒りが自然と安らぎへと変わる。

 でもまぁ……その通りだな。

 気にしない、気にしない。


 ※※※


 道具屋と店の前に看板がある小屋に、僕達は辿り着くと中へと入る。


「いらっしゃい。何にする?」


 カウンターの近くに行くと。男の店主がカウンター越しに話し掛けてきた。


 アリスは不要のものを売り、新しい木の盾と回復薬、そしてマジックアイテムの火炎玉を調達する。

 なるほど、ミノタウロス対策か。

 各層のボスは一度でると復活してしまう。

 さっきみたいに都合よく仕掛けがあるとも限らない。


 そうなると剣を強化するか、マジックアイテムに頼るしかない。


「全部で270Gになります」

「えっと……もうちょっと安くなりません?」


 アリスは甘えたような声を出し、両手を合わせ、お願いポーズをする。


 店主は頬を緩ませ、デレデレした表情へと変わった。


 アリスは整った顔をしており、美人だという事もあり、これが成功する確率は高い。


「しょうがないなぁ。じゃあ200Gで良いよ」


 ほら、成功した。

 単純だな……。


「やったー。ありがとうございます! 今度また来ますね」


 アリスは笑顔で、硬貨を支払うと店を出た。

 店主は笑顔で手を振りながら、アリスを見送る。


「さて……」


 アリスは店の出入り口から少し歩くと立ち止まり、布の袋を整理しながら、買った品をしまい始める。


「あ……」


 アリスの手から火炎玉がスルリと落ちる。


『あぶなッ』


 僕は慌てて、アリスの肩から下りて、距離を取った。


「ふふ、そんなに慌てなくても大丈夫よ」


 アリスは笑って拾い上げる。


「落としたぐらいの衝撃で効果が出ちゃったら危ないでしょ?」


「ほら見て、ここに導火線が付いているの。これに点火して、爆発によって外層が剥がれてから、効果が発揮するようになっているのよ」


 なんだそうなのか……。

 びっくりして、アリスを守らなきゃいけないのに、真っ先に逃げてしまった。

 ちょっと反省……。


「そのせいで効果が出るまで数秒、掛るんだけどね」


 なるほど……。

 アリスはいつもこうして、人に教えるかのように丁寧に教えてくれるから助かる。


 僕はそう思いながら、アリスの肩に向かって、よじ登った。


「次は不思議な果実屋に行きたいの」

『分かった』


 アリスは僕が肩に到着すると歩き出す。

 なぜ不思議な果実屋に行くんだろ?

 さっきの筋力の果実を僕に使わないのだろうか?


 そう思うが、言葉が通じないので黙って付いていく。


 この村のほとんどは、不思議な洞窟に関連する物を扱い、成り立っている。


 不思議な果実屋もその一つ。

 不思議な果実には色々な種類があり、さっき手に入れたのは筋力の果実。


 その名の通り、魔物の筋力を上げる果実だ。

 魔物にはレベルは存在せず、この果実によって強化される。


 ドロップアイテムは自分では選べず運次第。

 だから欲しい果実が手に入るとは限らない。


 そこで不思議な果実屋が役に立ち、自分が欲しい果実と交換することが出来るのだ。


 もちろんレアな果実なので、高く売る事も出来て、冒険者の間では重宝されていた。


 数分して露店タイプの不思議な果実屋に辿り着く。

 カウンターには色取り取りの果実が並んでいた。


「いらっしゃいませ」


 アリスは布の袋から筋力の果実を取り出し、カウンターに置いた。


「これを知恵の果実にしたいんですけど、あります?」

「ありますよ」


 若い女の店員は元気よく返事をすると、しゃがみ込む。

 カウンター下から果実を取り出すと、スッと立ち上がった。。



「はい、どうぞ」


 女性の店員はそう言って、カウンターに知恵の果実を置くと、筋力の果実を回収した。


「ありがとうございます」


 アリスは礼を言って受け取り、知恵の果実を腰に掛けてある布の袋にしまう。


「じゃあ帰ろうか」


 アリスが振り向くと、正面から鉄の装備に身を包んだクリフがレッドドラゴンと共に歩いて来ていた。


 相変わらず、誰も受け入れないような冷たい目をしてやがる。


 あの時は助けて貰って感謝はしているけど、僕はこいつを好きになれなかった。


「クリフも不思議の果実を交換しに来たの?」


 アリスは近くに寄ってきたクリフに話しかける。


「あぁ、アリスも交換しに来たのか?」

「うん」

「何の果実にしたんだ?」

「知恵の果実」

「は? 前に俺がやっただろ?」


 僕が好きになれない理由は、こいつの上から目線の言い方だ。

 アリスの事を完全に下に見ている。


「うん、貰った。だけど、この子の言葉が分からないから、もう一つあげたら話が出来るかな? って思って」


「話す? パートナーなんて指示が通じれば、それで良いじゃないか。それより必要なものが、もっとあるだろ」


 イライラしている?

 いつも冷静のイメージのクリフの口調が、少し荒くなる。


「それはあなたの考えでしょ? 私はそうは思わない!」


 アリスは完全にイライラしているな……。


「あっそ。じゃあ勝手にすれば良いじゃないか。俺はもう助けないからな」

「結構です!」


 アリスは怒ったように頬を膨らませ歩き始める。

 クリフは表情一つ変えずに、アリスと反対側の不思議の果実屋の方へと歩きだした。


 アッカンベー……だ。

 僕はあいつに向かって舌を出す。


「まったく……幼馴染だからって、あんな言い方、無いわよね!?」


 まったくだ。

 クリフが女の店員と話をしている。

 女の店員はキャッキャと嬉しそうに対応をしていた。


 クリフのやつ、性格さえどうにかすればモテるのに、何であんな性格しているんだ?


 それとも、あの態度はアリスだけなのだろうか?

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