第3話
こうして僕達は、入る度に中が変化する不思議な洞窟の最深部を目指すことになる。
もちろん、アリスの父には内緒で。
僕達はここ数日、焦らず洞窟を攻略することで、危なげなく上層の5階まで来ることが出来ていた。
「コリン、止まって」
静かにアリスが呼び止める。
よく耳を澄ますと、左の曲がり角から足音が聞こえてきた。
魔物?
アリスはロングソードを構える。
少し様子を見ていると、ゴブリン一匹が僕達の前に現れた。
ゴブリンもこちらに気付く。
「コリン! いつもの作戦で」
アリスが僕に指示を出す。
『分かった』
僕は通じてはいないけど、返事をした。
僕は素早く駆け抜け、ゴブリンの後ろに回り込む。
ゴブリンは僕の行動を目で追っているが、遅いッ!
僕はリフレクトシールドを張った状態でゴブリンの背中をタックルする。
こうすることでシールドが受けた力を相手に反射し、通常のタックルより、突き飛ばす効果がアップする。
リフレクトシールドはシールド効果もあり、僕はダメージを受けない。
反射した力だけが対象物へと伝わる能力になっている。
ゴブリンは思った通り、アリスの方へと飛ばされ、よろめく。
そこへアリスがゴブリンの首を狙う。
見事にゴブリンの首と胴体が離れた。
よし!
アリスは決して弱くはない。
初めて潜った時は防具がなく、僕を庇って当たり所が悪かっただけだ。
きっと僕と出会う前から、血の滲むような努力をしてきたのだと思う。
「やったね、コリン」
アリスは笑顔で、しゃがみ込み、手を突き出す。
僕は手足が短いので、尻尾でタッチをした。
「ふふ。この調子だったら、もうちょっと下も目指せそうね」
アリスはそう言って、スッと立ち上がる。
僕もそう思い、黙って頷いた。
「コリンもそう思うのね。じゃあ、行ってみようか?」
『うん』
「でも問題なのは、このフロアにいるボスね……」
アリスは顎に指をあて、考える仕草をした。
この洞窟は様々に変化するが、必ず5階ごとにボスが居る。
そのボスを倒さない限り、先には進めない仕組みになっていた。
「しかも、帰還の巻物はないし……」
この洞窟は一度入ってしまうと、出口が塞がってしまう。
帰る方法は唯一つ、帰還の巻物を手に入れること。
この巻物はレアなアイテムではないため、割りとすんなり手に入るが、今日は入手出来ていなかった。
「安全を取るなら、やめておこうか?」
きっとこの先、この様な事が沢山あると思う。
試してみるチャンスだと思うけど……。
僕は首を横に振る。
「試してみたいって事?」
僕は黙って頷いた。
「分かった。じゃあ少しでも危ないと感じたら、逃げようね」
僕が頷くとアリスは歩き始める。
僕も後を付いて行った。
しばらく進むとガーゴイルの像が数体並ぶ場所に行き着く。
この洞窟の上層は多くの冒険者が訪れるため、所々にランプが置かれていて明るいが、ここはなぜかランプの数が少なく、薄暗かった。
「何だか不気味ね……」
アリスがそう言って、進んだ瞬間、カチッとスイッチの音がした。
ヤバいッ!
僕は咄嗟に、リフレクトシールドの威力を調節して、アリスの背中を押した。
像の口から炎が飛び出したが、間一髪、アリスは当たらずに済んだ。
焦げ臭い匂いが漂ってくる。
髪の毛ぐらいは焦げてしまったか。
「危なかった……」
アリスは目を見開き、驚いた表情をしている。
「コリン、ありがとう」
『どう致しまして』
アリスがしゃがみ、踏んだ床を良く見てみる。
少し膨らんでいる……そこを踏まない限りは大丈夫か?
「どうやら床の盛り上がった所が、スイッチのようね」
アリスも直ぐに気付く。
「気を付けて、進みましょう」
アリスはそう言って、立ち上がった。
『うん』
アリスと僕は、スイッチを避けて進む。
数分程、真っ直ぐな道を進んでいると開けた場所に辿り着く。
ここは割と明るい。
キョロキョロと辺りを見渡す。
壁には蝋燭が飾られていた。
正面を見ると、赤褐色の肌に牛の頭を持ち、人間のような体をしたミノタウロスが巨大な斧を持ち、階段の前で立ち塞がっていた。
多分、あいつがこの階のボスだな……。
ミノタウロスが僕等に気付き、突進してくる。
アリスは剣を鞘から抜き、構えた。
「コリン、下がって」
アリスの判断は正しい。
筋肉モリモリのあいつが、僕のリフレクトシールドで、よろめくとは思えない。
言われた通り、後ろに下がって、様子を見るしかない。
ミノタウロスが斧を振り上げ、アリスを攻撃する。
アリスは木の盾で防ぎ、ミノタウロスの横腹を攻撃した。
「え、嘘ッ」
アリスの攻撃は全く効いておらず、凄まじい攻撃に盾の破片が飛び散った。
盾が押されている! このままじゃヤバいッ!
僕は素早くアリスの体を登っていき、リフレクトシールドで盾を押す。
それでようやく、ミノタウロスの攻撃を弾くことが出来た。
「コリン、逃げるわよ」
それしかない!
ミノタウロスが攻撃を弾かれ、態勢を崩している間に、僕達は必死で逃げ出した。
あんな硬くて強い奴、どうやって倒すんだよ。
そう思いつつ、チラッと後ろを振り返る。
嘘だろ!?
攻撃を弾かれた事に腹を立てたのか、階段を守っているはずのミノタウロスが追いかけて来ていた。
慌てて、ガーゴイルの像がある場所を通り抜ける。
待てよ――。
「コリン!?」
僕が立ち止まったことにアリスは気付き、立ち止まる。
僕は背が低い、でもあいつは――。
「ちょ、コリン! 何で引き返すの? 危ないよ!」
僕はアリスの制止を振り切り、ひた走る。
よし! あいつが像の前を通り始めた。
タイミングを見計らい、スイッチを押していく。
僕は背が低いから炎は届かない。
でもあいつは、でかい図体だ。きっと、どれかは当たる!
予想通り、像から吹き出した炎が、次々とミノタウロスを包んでいく。
どんなもんだい!
「凄い……」
ミノタウロスだったものは灰となり、散っていく。
炎が止むと、そこには帰還の巻物と、赤色の果実が落ちていた。
魔物を倒すとたまに出てくるドロップアイテムだ。
僕はアリスの元へと帰っていく。
「コリン! やったね!」
アリスは満面な笑みを浮かべて、高く抱き上げる。
「あなたは、頼もしい相棒ね」
アリスはそう言って、頬ずりを始めた。
頼もしい相棒か……その一言が、ただただ嬉しかった。
ついつい、嬉し涙が出るぐらいにね。
アリスは頬ずりを止めると僕を地面に下ろした。
アイテムが落ちている方へと向かっていく。
帰還の巻物と赤色の果実を回収すると、僕の方へと戻ってきた。
「たった一撃なのに盾、欠けちゃった。帰還の巻物も手に入ったし、戻ろうよ」
僕は黙って頷く。
アリスは僕を肩に乗せると、帰還の巻物を読み始めた。
一瞬で洞窟の外へと移動する。
「寄り道して帰っていい? 新しい盾を買いたいの」
『うん』
「じゃあ、行こうか」
アリスは僕を肩に乗せたまま、道具屋へと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます