第10話 見回りは意外と楽しい?

「それじゃあ行くか」


 俊くんが歩き出したので、わたしと楓くんが急いで追いかけた。


「うーん、メアーズヘビ、今日はいるかな?」


 うう、やっぱりメアーズヘビの見回りなんだ。


 しょうがないからわたしは疑問を楓くんにぶつけた。


「メアーズヘビって、いつもいるんじゃないんですか?」


 わたしの問いかけに、楓くんは「そうだよ」と言いながら首をたてにふる。


「たまにしかこの事務所にはいないよ。もっとすごい大きな事務所だったら毎日い

 るかもしれないけど」


 えええ! MEAって大手事務所じゃないの!?


 すっごい大きなところだと思ってた……


「そういえば、メアーズヘビに略称とかつけないんですか? 長いじゃないですか、メアーズヘビって」

「そうだねー。例えば、芽衣ちゃんはどんなのを思いつく?」

「わたしですか?」


 メアーズヘビ、だから……


「メアヘビ、ですかね?」

「シンプルだねえ」


 楓くんがあははと笑う。


 キュン! 楓くん、カッコいいです!


 でもでも、メアヘビってシンプルかな?


「楓くんは? どんなのですか?」

「僕は……メビ」

「ブッ! だっせえ!」


 ずっと黙っていた俊くんがいきなりふきだしたかと思うと、楓くんを指さしながらゲラゲラ笑いだす。


「なっ! ダサいって! じゃあ、そういう俊はどうなの?」


 むっとした楓くんが俊くんに挑戦的な笑みをうかべる。


「俺は、アへだ!」


 俊くんは、なぜかドヤっていう自信ありげな顔をしている。


「ぷっ!」

「はははっ! アへ! アへだって! アホみたいじゃん! はははっ!」


 楓くんはさっきの俊くんよりも大げさに、お腹を抱えてわらっていて、涙も出ている。


 わたしも笑いはこらえたけど、ぷって少し笑っちゃった。


「なんだよ楓! お前だってメビだろ!」

「でも!  アへの方がおかしいだろ!」


 あわわ、ケンカになっちゃいそう! でも面白いんだよね!


「まあまあ! その話は部屋でするとして! いったん終わりにしましょう!」


 そのとたん、ヒートアップしそうだった二人がくるりとこちらを向き、またおたがい向き直った。


「芽衣ちゃんがいうならしかたがないな。部屋で決着をつけるとするか」

「そうだな。楓、負けても泣くなよ」

「望むところだ」


 楓くんと俊くんの目と目の間に、バチバチっていう、見えない火花がとびちってる気がする。


 あー、なんで喧嘩は続くことになっちゃったんだろう。


 しかもこんなくだらない喧嘩!


 まあ、とりあえず収まったってことで、いっか! そうしよう!


「あは、あははは」

「絶対俺が勝つ……」

「俊には負けない……」


 この二人は仲が悪いのかな? それともあれ? 喧嘩するほど仲が良いってヤツ。


 二人がお互いそっぽを向いてぶつぶつつぶやいている。


 なんかメアーズヘビに出てきてほしいよう。こんな空気ならメアーズヘビが出てくれば解決するでしょ!


 わたしはそう考えなかがら曲がり角をまがった。


 ぐにゅ。


「ん?」


 なにかやわらかいものをふんじゃった? 食べ物とかだったらいやだな~!


 踏んだものを確認するために下を向くと、わたしの靴の下には……メアーズヘビ!


 メアーズヘビは目をくるくるさせている。


「きゅ~」

「えぇ~っ⁉ メメ、メアーズヘビさんごめんなさい!」


 メアーズヘビさんをふんじゃった!


 急いで足をどけてメアーズヘビに向かってぺこぺこお辞儀するわたし。


 そんなところに、少し先まで歩いていた楓くんと俊くんが慌てて戻ってきた。


「鶯⁉ 見つけたのか⁉」

「見つけたというか、踏んじゃって……」

「あらら……」


 メアーズヘビは、今も目をまわして「きゅ~」とないている。そんな姿はちょっとかわいい。


「よーし、芽衣ちゃん! これはチャンスだよ! スカイ・ディサピアーして!」

「ええ、そんな……」


 正直あんまりしたくない。


 前みたいに惜しかったら恥ずかしいし、それにメアーズヘビさんがかわいそうっていうのもある。


「うぅ」

「鶯、やれ」

「うぅ」

「芽衣ちゃん、がんばって!」

「うぅ~‼」


 やりたくないっていう気持ちと、推し様たちからの応援というものが私の中で戦ってる。


「鶯! 早く!」

「芽衣ちゃん! 復活しちゃうよ!」

「え~い! もう! うるさいです! わかりましたから!」


 結局、推し様たちの応援が勝った。だってしつこいんだもん!


 うるさいって推し様たちに言っちゃったから、二人は少しおどろいていたけど、わたしがやるって言ったから文句はないみたい。


 二人は私の横にそれぞれ立ってくれた。


 なんだか緊張しちゃうけど………


「ス、スカイ・ディサピア―!」


 必殺・楓くんのマネッ!


 空色の光輝く紋章は、ゆっくりとメアーズヘビにとんでいく。


 そして、当たった!


「きゅううぅぅ」


 攻撃が当たったメアーズヘビは、白く光ったあと、跡形もなく消えていった。


「わ、わ、わーっ!」

「すごいよ芽衣ちゃん!」

「ふん、やるな」


 推し様たちもほめてくれた! メアーズヘビも消せた!


 わたし、本当に戦えた⁉


「やっぱり才能あるんだよ、芽衣ちゃんは」

「今度は弱ってないアへにチャレンジだな。毎回踏まないといけないのは危険だから」

「「ぷっ」」

「おい、お前ら笑うなー!」


 俊くんが再び発した『アへ』に、わたしと楓くんはまた笑ってしまう。


 俊くんも最初は怒っていたけど、だんだんおかしくなってきたらしく笑った。


 そのままわたしたちは、帰りが遅いわたしたちを探しに来た怜音くんが来るまで、ずっと笑いあっていたんだ。


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