第2話 部活の時間、二人を取り合い

 あれからいろいろあって、今は部活の時間、なんだけど。


「なあなあ風柳! 演劇部入んないか⁉ 歓迎するぞ!」

「俊くん! ダ、ダンス部入らない⁉ きっと楽しいよっ!」


 今は楓くんと俊くんの取り合いナノデス。


 わたしは家庭科部なんだけど、部長がずっと二人に声かけてて部活が始まんないから呼びにきたの。


「部長、部活が始まらないので来てくれませんか? 家庭科部は時間が必要なんですよね?」


 でも部長は「ちょっと待ってて」としか言わない。


 そりゃ私だって楓くんとか俊くんに入ってもらいたいよ⁉ だけどさ、非現実的だよね。たくさんある部活の中で家庭科部だなんて。


そんななか、楓くんはぽろっと一言。


「じゃあ僕は、家庭科部に入ろうかな。料理が苦手だからさ、教えてもらおっと」


 へ⁉ 今非現実的って話をしてたんだけど! 楓くん入ってくれるの? それは嬉しい!


「風柳くん本当に⁉ ありがとう!」


 部長も喜んでる。満足かな。


 はあ。やっと部活が始められるよー。


「俺はバスケやる。バスケ部のやつ、どこだ?」

「おお伊集院!ここだ!」


 俊くんもきまったらしき声が、小さいけどきこえてくる。


「これからよろしくね、鶯さん! と」

「部長の四十井よそいだよ! 楓くんよろしくね!」

「よろしくおねがいします」


 部長はハーフアップのガーリーな四十井よそい先輩。

 料理がすっごい得意、っていうウワサを聞いたことがある。四十井先輩は三年生だけど、三年連続部長っていう説も聞いたことがある。


「ここが家庭科室。ここで家庭科部は活動を行っているの! 席は、あそこの男子の席! 六人グループなんだけど、あそこ五人でさ」

「わかりました、ありがとうございます」


 楓くんはふわっとほほえんで走っていく。


 わたしも席についた。


 わたしのテーブルのメンバーは、わたし、夏葉、冷ちゃん、あいちゃん、亜莉紗ありさちゃん。


「ねえ芽衣、楓くんも同じなの?」


 夏葉がそう聞いてくるから、怒られないように静かにうなずいた。


 そしたら夏葉が小さくガッツポーズ。


 そりゃうれしいよね! わたしもうれしいもん! まさか推しがこの学校にきて、わたしのクラスで、席が後ろで、部活も同じなんて! まだ感動でいっぱいだもん! これって奇跡だよね! 運命だよね⁉


 こんな幸せなこと、夢であってほしくない!


「はい、これから部活を始めます! 今日はレシピをみて、次回つくりたいと思います! グループで一個つくってください! そのレシピは、チーズケーキです! まずレシピを配っていきます!」


 部長がいつもよりハイテンション! うれしいのはわかるよ!


 プリントが配られてきた。たしかにチーズケーキだけど。


 ミキサーに入れて混ぜて予熱して焼くだけの超簡単レシピだったの!


 さっきまでむずかしそう、とかできるかなあ、とかだったけど、これならやれるかも、とかがんばろう、とかの声が聞こえるようになってきた。


「では、次の時間のための作戦や、役割分担をしておいてください! ではスタート!」


 部長がそう言った瞬間、家庭科室が一気ににぎやかになった。


「では、まず役割分担からしていきます」


 このテーブルのリーダーは冷ちゃんなんだ。


「では今回も五つに分担しますと、材料係、入れる係、焼く係、混ぜる係、レシピ確認係になります。今回もわたくしが決めてもいいですか?」


 みんながうなずく。


 冷ちゃんは分析力がすごいから、いつも冷ちゃんが決めてくれるの。


 それでいつも成功してるんだよ!……まだ二回くらいしか部活したことないけど。


「まず芽衣さん、入れる係です。夏葉さんは、焼く係です」


 いつも最初はこうなんだよね。わたしたち、不器用だから。


「わたくしはレシピ確認係です。愛さんは材料係です。亜莉紗さんは混ぜる係です。これでよろしいでしょうか?」


 またみんながうなずく。


「ではこれで決定です!なにか作戦を思いついた方はいらっしゃいますか?」


 夏葉が「はいはい!」と手をあげる。


「夏葉さん、どうぞ」

「冷ちゃんの指示通りにするー!」

「そうしてくれるとありがたいです」


 なにを当たり前のことを言ってるんだろう、とも思うけど、冷ちゃんは笑顔でお礼を言う。


「他にいらっしゃいますか?」


 だれも手をあげず、みんなきょろきょろとおたがいを見回している。


「ではわたくしたちのテーブルはこれで終了ですね。静かに待っていましょう」


 このグループの人は静かになる。


 でもやっぱりひまなので、楓くんのテーブルは隣だから聞き耳を立ててみた。


「それで、役割分担は僕が決めてってこと?」

「「「「そういうこと」」」」


 聞き耳をたてると、いきなりそんな声が聞こえてくる。


 あちゃー。うちの男子、結構人に任せるところあるんだよね。


「じゃあ君が焼いて、君が予熱、君がまぜて、君は材料を入れて、僕が材料を量るって、いうのはどうかな?」


 それでも楓くんは嫌な顔一つせずに、人差し指をピンとたててすらすらと提案した。


 そのすごさにうちの男子たちは「「「「おぉ……」」」」と言葉を失っている。


 楓くんすごい! カッコいい!


 わたしは楓くんカッコいいーー!!ってさけびたくなってしまう。


「ダメ、かな?」

「いや全然!むしろ賛成!」


 男子のうち一人が言うと、次々に「俺も!」「もちろん賛成!」と言っている。


「ありがとう! 良かった、こんな僕でも役に立てて」


 本当にほっとしたのか、その声からはじんわりと胸があったかくなっていくような温もりがある。


 そこから少したって、部長が自分の席を立ち、全員に声をかけた。


「はーい! みんなできたかな? じゃあ今回の活動はこれにて終わりまーす!」


「終わりまーす!」と部長に続いて声を出してみんなは次々に教室に戻っていく。


「めーい! 一緒にかーえーろ!」

「あ、ごめん! 今日は用事があって!」

「そうですか。残念ですが、また明日会いましょう」

「ごめんね! また明日!」


 夏葉と冷ちゃんが誘ってくれたけど、断った。


 別に楓くんとか俊くんとかと帰りたいわけじゃないけどさ。(いやもちろん一緒に帰りたい気持ちは0じゃないよ? むしろ99%だよ?)


 今日はママの会社に寄って、助っ人として少し働いて、って昨日言われたんだ。


 わたしは会社に向かって歩き出した。


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