芸能界、守ります⁉

雨夏

第1話 転校生は推しでアイドル!

 わたし、うぐいす芽衣めい七色なないろ中学校の1年生。 


 七色中学校は、ごく普通の一般の中学校。


 わたしもごく普通の中学生。


 少し変わっているところといえば、すごいアイドルヲタクっていうことかな。


 最近の推しは、SHAKEシェイクの風柳楓くん!


 SHAKEシェイクっていうのは、今大人気の五人組男子アイドルグループなの!


 リーダーでSHAKEのまとめ役の、髙森たかもり怜音れおんくん。


 ぶっきらぼうでSHAKEの黒王子の、伊集院いじゅういんしゅんくん。


 優しくてSHAKEの白王子の、風柳ふうりゅうかえでくん。


 かわいくてSHAKEの癒し系キャラの、天馬てんま琥珀こはくくん。


 チャラくてSHAKEのお笑い役の、篠浦ささうら真宙まひろくん。


 その中でも、優しくて白馬の王子様系な楓くんが推しなんだ。


 まだガチ恋はしてないけどね。


 今は入学や進級の緊張が薄くなってきた、六月。


「芽衣、おっはよー!」

「おはようございます」

「おはよ!」


 わたしにあいさつをしてくれたのは、幼稚園からの親友の冷ちゃんと夏葉。オタク仲間でもある。


 小折こおりれいちゃんは、『株式会社コールド』っていう会社の社長さんのお孫さん。


 言葉遣いとかも丁寧なお嬢様。こんな優等生がオタクなんだよ⁉


 甘夏あまなつ夏葉なつはちゃんは、超元気で明るいの。


 持ち前の明るさで人をまとめることもできて、スポーツが得意なんだ!


「ねえねえ、昨日のレツミューみた?」

「みました」

「みたよ!」


 夏葉はわたしたちの中でも一番ヲタクなんだよね。


 レツミューっていうのは『レッツ・ミュージック!』という音楽番組の略。


 結構多くの人がレツミューって呼んでるよ。


 昨日のレツミューではSHAKEが新曲をやってたんだ!


「SHAKEマジ神! 特にやっぱり真宙くん! アクロバットかっこよすぎ!」


 夏葉はほおづえをしながら乙女の顔をしている。


 多分妄想かなんかをしているんだろう。


「ちがいます! SHAKEが神なのはわかりますが、一番は俊さんです!」

「ええ? 楓くんでしょー」


 わたしたち、いつもこういうけんかになっちゃうんだよね。


 けんかっていうほど激しくはないけど。


 推し争いは永遠に続くっていうしね?


「みんな、席についてー!」


 そう言いながら教室に入ってきたのは、このクラスの担任の締多しめた先生。


 けっこう若い、新人の先生なんだって。だからわたしたちも歳が近いだけあって、なじみやすいんだ。


 だからみんな次々に席についていく。


「じゃあまたねー」

「また」


 夏葉と冷ちゃんも席にもどっちゃった。


「今日は転校生を二人、紹介します! 二人ともうちのクラスです! では、まず一人目、どうぞ!」


 先生が言い終わると、一人の男の子が教室に入ってきた。


 ふわっとしてているおうどいろの髪。優しそうでにこにこしている横顔。


「風柳楓です。今日からこの学校に通うことになりました。よろしくおねがいします」


 最後に楓くんがふわっとほほえむ。


 え? ええ??? 楓くんっっっっ⁉⁉⁉⁉


 なんでっ⁉ 夢? これは夢かな? 私が楓くん好きすぎて夢にまで楓くんが出てきたのかな?


 わたしはもう混乱しすぎて、頭がぐちゃぐちゃになっていた。


「風柳さん、席は鶯さんの後ろね。鶯さん、手をあげて」


 先生がなにか言ってる。


「あれ? 鶯さん? 芽衣さーん!」

「え? はい!」


 気づいたわたしがはっとして返事をしたら、楓くんがほほえんだ。


「先生、あの子ですよね?」

「そうだよ」


 楓くんがこっちに向かって歩いてきた!


 なんでこっちに来てるの⁉


 楓くんはそのまま歩いてきて、わたしを通り過ぎて、わたしの後ろの席に座った。


 わああ! 楓くん、わたしの後ろの席なの!?


「よろしくね、鶯さん」

「はいい!」


 にこっ、とわらって言うから、わたしは顔が真っ赤っかかも!


 だってあの国民的アイドルが! 推しが! 目の前にいるなんて!


「はい次、二人目です! どうぞ!」


 みんな楓くんに夢中で、先生の言葉を聞いていない。


 また、一人の男の子が入ってきた。


 さらさらつやつやの黒い髪。ひきしまったクールな横顔。


「伊集院俊。よろしく」


 楓くんに夢中だった人たちが、その一言でみんな前を向いた。


 さっきまでよかったね、っていう視線を送ってくれていた冷ちゃんも俊くんを見たまま固まってしまっている。



「今度は、小折さんの後ろが空いてるね。じゃあ、あそこで」

「………」



 俊くんは無言で冷ちゃんの後ろの席にガタン、と音を立てて座った。


 冷ちゃんの席も、わたしの席も、いちばんはじっこですみっこ。


 しかもこのクラスは人数がぴったりだから、後ろに新しい一列を足さないと二人とも入れないの。だからとなりはいない! つまり私たちしか推しの近くにはいない!


「じゃあ、朝の会を始めようか。起立、礼、着席」


 そうやって、ドキドキな毎日が始まったんだ。

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