読み手のない手紙
春風
読み手のない手紙
この手紙は捨ててください。
あなたのことが好きでした。卒業式のあの日、私の勇気は第二ボタンをもらうだけで精一杯。想いも、連絡先も伝えないまま、私の恋は終わったはずでした。
でも心のどこかで思っていたんです。いつか、もしかしたら、また会えるんじゃないかって。また会える時までに素敵な大人になっていたら、その時こそあなたに……。
愚かだと笑ってください。いえ、優しいあなたは、きっとそんなことしないでしょうね。あなたは……、あなたはこの手紙をどんな思いで読むでしょう。私はそれが少し怖いのです。
私自身、こんなにもあなたのことが好きだったなんて思いませんでした。あなたが先日、かわいいお子さんを抱き上げ、素敵な奥様と街を歩いているのを見るまでは。こみ上げる悲しみと後悔に私は戸惑いました。
私は、私がとても恥ずかしかった。諦めた振りをして、自分にもそう言い聞かせておきながら、その実、都合のいい期待を抱いて、淡い幻想を信じていたのです。あなたに連絡を取る努力さえしなかったのに、今さらあなたが好きだなんて。幸せなあなたを見て苦しくなるなんて。
ごめんなさい。あなたを困らせたくて、この手紙を書いたのではありません。ただ伝えたかったのです。あなたは、私にとって
ありがとう。これだけを伝えたかったのです。私の
これからもあなたの幸せを思い続けます。あなたが幸せでありますように。何があっても、どうか、この先も幸せに。
読み手のない手紙 春風 @s0v0p
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