第七百九十七夜『レポートに かきこんでいます-catch them all-』

2024/12/16「戦争」「矛盾」「危険な子供時代」ジャンルは「ギャグコメ」


「コラ! ゲームばかりしているんじゃありません!」

「ちょっと待って! 今は手がはなせない!」

 コンピューターゲームにきょうじる子供、母親がいきなり怒号を挙げた。


 親というのはコンピューターゲームに理解りかいが無いと声荒げ、コンピューターゲームに理解があると心配する。これは世界の道理、お天道様が西に行くのと全く同じ。

 けれども子供も事情が有る。学校で友達とコンピューターゲームでどこまで進んだか、お話し合うのが楽しみで、踏破が困難こんなん、物資も枯死する、凶悪無比な極悪ダンジョンをクリアしたい。はたまたあるいはオンラインプレイ! 友達と遊んでいる最中かも知れぬ。

 なので子供はゲームを、ハイここまで! と切り上げるのは難しく、そして親からしたらだらしない。難儀なんぎ趣味しゅみだ、嫌味な話。


「まあまあ、いいじゃないか」

 そう言って母親をなだめるのは、子供の父親。

「お父さん、そうやって甘やかして……」

 しかしこの父親、はっきり言って甘くない。甘くないというより毒入り、腹黒、余計な事をさせたら天下一!

「坊や、ゲームは好きか? 学校で友達とゲームの話をするのが好きか?」

「うん、大好き!」

 子供は振り返らずに、画面を見たまま返答する。画面じゃ暴れるモンスター、プレイヤー全員で取り押さえて生け捕りにしようと大騒ぎ。

「じゃあ、こうしよう。今日はいくらでもゲームをしてもいい。いや、今日からずーっとゲームを幾らでもしてもいい」

「えっ、本当!?」

「お父さん!?」

 子供は喜び、子供の母親はおどろいた。けれども子供の父親は、腹の中では舌出して、こっそりひっそりあかんべえ。

「おう。でもその代わり、ゲームをやったら、その日の内にゲームをやった内容を全部、事細かにレポートに書いてお父さんに発表しなさい」

「え?」

「ちゃんとゲームの説明を、そのゲームを知らない人向けに、そしてそのゲームを知っている人にも通じるちゃんとしたレポートじゃないとダメだぞ? 今日はどのモンスターを捕まえたか、そのモンスターと戦いに行った理由、失敗したら反省点もまとめて、他のプレイヤーが失敗し易いポイントも調べるんだ。それにモンスターやアイテムの流行の傾向に、稼いだお金の金額、ゲームの中のプレイヤー間の需要じゅようと供給なんかも興味があるな。それから……」

「え、じゃあいいです。もうゲームやめます」

 子供はコンピューターゲームの電源を切り、コントローラーを地面に置いた。

 学校の宿題だけでもたくさんなのに、コンピューターゲームをする度に家族に宿題をさせられるんじゃあ、たまらない。

「そうか、お父さんは子供から見た今のゲームが気になるんだけどな……」

 子供の父親、心底残念そうに本気で溜息。もしも自分の立場なら、絶対楽しくやるのにな。

 それもその筈、お父さん。夜な夜な友達つどって遊ぶ、今期はどのキャラ強くて弱い? 対人戦を本気で遊ぶし、意見も交換、レポートなんて児戯じぎの様。

(この子は俺程はゲームが好きじゃないのかもな……)

 父親ひっそり肩落とし、けれども我が子の頭をでた。


  * * *


 講堂こうどうで古生物の分類に関する、学生向けの講義こうぎが行なわれていた。

 熱弁ねつべんを振るっている教授は学生達に分かりやすく生物の分類と進化とを説明しており、示されているスライドには学術的用語のみならず、市民権を得ているキャラクターも比喩ひゆとして用いられており、これが学生達からは重点を覚えやすいと好評だった。

「故に、このキャラクターがゲームと同じ様に動くには、空気中の酸素濃度さんそのうどが現代の二倍は無いと成立しないって事ですね」

 スライドには資料としてコンピューターゲームの一シーンが用いられており、赤い大きなトカゲが口から火を吹いているのがはさまれており、ご丁寧ていねいにどこのメーカーのなんてゲームかもキチンと記されていた。


 学生にとって教諭や教授がコンピューターゲームが好きというのは、教師とのへだたりをこわす一助となっていた。

 そして毎年、教授は不思議ふしぎな事に新入生から同じ質問をされていた。そして、教授は必ずこう返答するのだった。

「学校は遊びに来る場所だと思って下さい。遊ぶだけでも、勉強するだけでも人間は育ちませんからね。僕も子供の頃、父からもっと遊びなさい! とこっぴどく怒られたものです」

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