第七百九十五夜『未来への挑戦-horkey-pokey-』

2024/12/13「地獄」「みかん」「嫌な廃人」ジャンルは「指定なし」


 タイムマシンの実現は不可能と言われている。何故なら今現在、時間旅行者は一度たりとも確認されていないからだ。

 全くバカバカしい理屈だ。

 科学というのは当たり前をうたがい、不可能を可能にする事にあるだろうに。

 何故現在不可能だから、矛盾だからと、未来永劫不可能だと決めつけるのだろうか?


 故に、私はタイムマシンの開発を、理論の実現に熱意ねついを注いだ。

 一説によると、時間とは一本の線ではなく、螺旋らせんの形状をしていると言う。現在は過去や未来に向って一直線なのではなく、螺旋を描く様に回転して進んだ結果、すぐ上や下に過去や未来が存在すると言う理論だ。

 これに加え、視線とは一種の光の反射であり、視線が行って戻って来る間には視線の先は一瞬いっしゅんとは言え遅れた過去の物となる。

 つまり厳密げんみつに言うと、あなたが鏡を見たとして、鏡に映ったあなたの姿は光の反射という工程を挟んだ一瞬の過去の物という事だ。

 これを起点とする。目が過去を映すというのならば、全身を過去に移す事だって可能な筈だ。


 別に私はタイムマシンを使って過去や未来に行きたい理由は無い。

 強いて言うなら、未知を自分の手で作り上げて既知きちにしたいという欲求が強い。

 それだけあれば、十分だ。


「よし、これで理論上は完成だ!」

 私は歓声を挙げた。

 見た目はみすぼらしいが、夢にまで見たタイムマシンが完成した。

 しかしこれは試作機しさくき、時間旅行なんて危険きわまりない事をするのだから、誰かを乗せる訳にも行かず搭乗人数は当然ただ独り。

 私は理論や青写真をまとめて、ともすれば誰かが記録を読んで改良や普及をしてくれる事を期待はしているが、タイムマシンの外観がいかんや詳細は説明しないでおく。仮にこのタイムマシンが失敗作だったとして、ダメな部分を書き連ねた報告書が残るのはいいが、タイムマシンの姿を残してしまっては失敗作そのものを追ってしまう人が出る恐れがある。生存者バイアスは大きらいだ。

「さあ、動かすぞ」

 私はタイムマシンに乗り、さかのぼる様操作をする。

 私を乗せたタイムマシンはその場で回転し、刹那せつな視界がゆがみ、今ではない場所へと飛んだ。

「やった! これは成功か!?」

 ここは現在の私の部屋ではない。

 いや、ここは私の部屋ではない。

 何と形容すべきか、私の考える宇宙空間の様であり、そして周囲には何かしらの装置そうちが空中に各々好き勝手な角度でゆっくりと回転しながら浮いていた。

 装置は一人乗りの潜水艦せんすいかんの様な物があり、たたみかカーペットの様な物に操縦桿そうじゅうかんや計器が付いた様な物があり、小規模な宇宙船の様な物もあった。

 どれにも共通している事と言えば、ここから搭乗者の姿が確認出来る事。しかし搭乗者達は全く動かず、まるでマネキンの様に表情も変わらない、生きている人間ならば何かしらの生理的動作は見られるだろうが、まるで時が止まったかの様に微動びどうだにしない。

「まさかアレらは全部、タイムマシンと開発者か……?」

 私はこの光景が棺桶に収まった死体でも見ている様な気がしてしまい、どうしようも無い悪寒おかんを覚え、逃れる様にタイムマシンを逆に動かした。


  * * *


 タイムマシンの実現は不可能と言われている。何故なら今現在、時間旅行者は一度たりとも確認されていないからだ。

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