第七百九十三夜『相応のペナルティ- punchline-』

2024/12/10「灰色」「裏取引」「バカな主従関係」ジャンルは「ラブコメ」


 テレビをつけると、映画がやっていた。

 未来からやって来たネコが主人公の作品が原作の、サイエンスフィクション映画だ。

 画面は今、主人公の片割れの少年が女湯にのぞきを敢行しようとしているシーンで、原作の読者からしたらお馴染みの行事だった。


 突然だが、私はこの作品の覗きシーンが大嫌だいきらいだ。

 別に教育に悪いとか、倫理に反するだの、そう言った創作に反する様な面倒な物言いをする訳ではない。強いて言うなら、と言うべきか。

 覗きを実行に移したスケベ者が応報を受ける。これは創作の上でメジャーかつ効果的な描写であり、キャラクターの印象付けとしても有効だ。

 しかし、私が知る中ではこの作品の中では覗きを行った主人公が制裁を受けるシーンは少ない。

 私に言わせれば、色気を出したり欲望に負けたキャラクターがひどい目にうシーンをスラップスティック的かつ意欲的に描写するべきであり、そうでないならば、覗きを行うシーンなんて価値が無いから辞めちまえと言ったところだ。

 事実、日本では古来から覗きに対して応報があったと記されている。

 古事記に寄れば、ある者は妹の着替えを覗き、この世のものではない酷い目に遭った。またある者はストリップショーをこっそり鑑賞かんしょうしようとして、結果として放り投げた職務しょくむに戻る事になった。

 この様な事は『見るなのタブー』として古今東西に話として存在し、有名なところでは旧約聖書では振り返ってはいけない旅路を振り返った人は塩の柱となり、ギリシャ神話でも女神の沐浴を覗いた人間は猟の獲物えものにされたという。


 そう漠然ばくぜんと考えを広げていると、稲光が走り、その数拍後に雷鳴が起こった。

 雷光と雷鳴の間に数拍起こったという事は、雷の落ちた場所は大分先か。雷の速さはすさまじく、一瞬いっしゅんでも相当な距離きょりを行く。

 言わば、雷様は天空で最高の短距離たんきょり走者という事になるのだろうか。


 私はそんなにもつかない事を考えながら、ぼうとしながらただただ映画を眺めていた。


  * * *


 一方その頃、天の上ではある男が必死になって全力で逃走していた、雷様だ。

 雷様は妻帯者であったが、美女や美男子を見ると誰それ構わず言い寄るナンパ者で、今もナンパにいそしんでいる最中に妻に見つかり、それを怒られて反射的に全力で逃げたところ。

 雷様はこの様にナンパを目撃もくげきされては全力で逃げる事を繰り返し、その逃走速度は文字通り光速へと到達した。

 光速で逃げる事が出来ると言う事は、それこそあらゆるアリバイをともすればひり出せるという事である。何せ光速で逃げる事が可能であれば、現場から遠くはなれた場所に居たと言い張る事だって可能なのだ。

 こうして雷様は、今日も浮気を力業ちからわざでしらばっくれる。

 何せ雷様は神様なのだ、出来ない事はそうそう無い。

 出来ない事があるとしたら、それは奥さんの目を逃れて浮気をするくらいの事だ。

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