第七百四十九夜『この面白くない世界の片隅にて-Surprise Ninja Rule-』
2024/09/29「西」「屍」「最後の学校」ジャンルは「王道ファンタジー」
まだ肌寒さが残る三月の始め頃、学生服を着た二人の男女が何を言うでもなく歩いていた。
二人はクラスメイトであり、もうすぐ卒業式を迎える事もあり、同じ大学へ進む訳でも無いので、そうなるともう二度と同じ教室で出会う事も無い。
別段彼女と彼は
ここで互いに連絡先の番号を交換してもいいかも知れないが、半ば友達の様な、はたまた友達の友達の様な相手、声をかけずに
「あ、あのさ」
男子生徒の方が口を開き、どこかぎこちなく言葉を口にした。
そんな二人の様子を、茂みの中からニンジャが
ニンジャと言っても
ニンジャはここで二人が退屈
このニンジャは言わば、世界が退屈を感じた時にちょっかいを出すため出動する一本の指、または一種の終末兵器だった。
何せニンジャが突然出てくれば誰だって
何故なら、ニンジャは目立つし危険だし怖い存在なのだ。ニンジャが出てくればそれだけの
「また明日な」
「おう、また明日」
二人の学生はそれだけ言い合うと、二人は別れて別々の帰路を歩いて行った。
別に何ともない、普通の光景だった。
(これは……)
これを観ていたニンジャは悩んだ。
これは観ていて退屈か、退屈でないか。ちょっかいを出すべきか、出さざるべきか。
ニンジャ個人にとって「また明日」とは好ましいフレーズであった。また明日が来る、なんとも素晴らしい事ではないか。
しかしニンジャには嫌いなフレーズがあり、それは「お変わりありませんか?」だった。変化しない、善い方向へ向かう事が無い、
ニンジャが悩んでいると、二人の学生の背後にふらりと何者かが突如現れた。
何者かは手に
しかしニンジャはこの強盗風の怪人がいつの間にか突然現れた事、そして振舞い方を見て、ある事を察した。
(あれは俺と同じ、終末兵器か。あの二人は退屈だと、他の誰かが判断したのか)
ニンジャの憶測には一部の誤りも無かった。ニンジャは「また明日」とだけ口にした二人のやりとりに迷っていたが、強盗風の怪人にはちょっかいを出すべき退屈に見えた事になる。
強盗風の怪人は息を大きく吸い、そして学生二人を
なるほど、そうすればあの二人は何も無い退屈から解放され、一転して凶悪な殺人鬼から逃げ惑うパニック作品の主人公となる。そうなれば後はしめたもの、二人は
(……気に喰わないな!)
ニンジャは怪人の背後から羽交い絞めにしつつ、片手を口の中に突っこんで
「……!?」
これには怪人も大いに取り乱した。何せ怪人とは無力な人々を追いかけ回して脅かす存在なのだ、自分が羽交い絞めにされたり口を塞がれるとは夢にも思うまい。
怪人は何が起こったか分からないまま、茂みの中へとニンジャと共に倒れ込む形で引きずり込まれた。
(いいからお前は黙ってろ)
「……!!」
茂みの中に引きずり込まれた怪人は、ようやく自分の身に何が起こったか
何せ自分の仕事を
これは感情論であり、そしてメンツの問題でもある。
怪人はニンジャの手を振り払い、ナイフで相手を刺そうとした。
(そうかい! それじゃあ、また明日な)
ニンジャは怪人のナイフを突きつける手を捻り、反対に怪人の喉に彼のナイフを突き刺した。
「!?」
怪人はニンジャと同じく、退屈を終わらせる終末兵器。しかしそれは人々を脅かす怪人物という形で世界から出力されていたのであって、人間の形で出力されているのだから喉を刺されたら
例え不死身の怪人であっても人体の急所を刺されたら必ず倒れるし、仮に生きていたとしてもその
結果、怪人はナイフが喉に刺さり、一切出血すらしなかったが、その場に倒れて動かなくなった。最早こうなってしまっては、次のシーンかエンドロールの後のオマケ映像までは決して動く事は無い。
怪人というのはそういう存在だと、昔から映画史で決まっている。
(これで良かったんだよな?)
退屈を破壊するという任務を帯びたニンジャは「また明日」と言って別れた二人の背中を見ながら自問した。
(考えても分からん。また明日考えて、その時退屈だと判断したら
そう思案するニンジャの顔は、とても退屈そうには見えなかった。
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