第七百四十八夜『よそ者共に死を-alien-』

2024/09/28「春」「死神」「最悪の才能」ジャンルは「邪道ファンタジー」


 草と土の臭いと、春の風を感じながら私は気分転換の散歩を行っていた。

 私は愛車のオープンカーを走らせることも好きだが、やっぱり人間は自分の足で歩かないと足がどうにかなってしまいそうな気がする。


 今、私が行なっているのは外来種に関する発明だ。

 つい先日マングースの根絶宣言が声明されたのは記憶に新しいが、外来種の問題とは由々しいもの。

 例えば土をゆたかにするからとアジアのミミズをアメリカ大陸に輸入ゆにゅうした結果、土の性質がアジア化し、地中の生物や植物が全滅ぜんめつしてアジア土着の生物しか住めなくしてしまう。

 アジア土着の生物しか住めない環境をアメリカに作り出すという事は、即ちその範囲はんいに元々住んでいた動植物を全て殺すか追い出すかという事であり、ミミズはその作業を数カ月で完遂する。実に由々しき問題だ。

 今しがた私がいだ草と土と風の中にも外来種がひそんでいて、元々住んでいた動植物を皆殺しにしているかも知れないと考えると、背筋に寒いものを覚える。


 しかし、そんな懸念けねんもこれまで。今の私の研究成果はほぼ完成しており、後はテストだけ、そして私の研究成果は理論上完璧かんぺきに動く筈!

「さあ、テスト運転だ! 私の新発明、名付けて全自動外来種終了装置、またの名をエイリアンターミネーター!」

 いよいよこけら落とし、取り出したのは車輪付しゃりんつきの寸胴型のロボット。しかしロボットの胴体には高機能こうきのうレンズが付いており、更には搭載とうさいした頭脳は全ての外来生物を記憶しており、その上ネットワークに接続されていて常に情報をアップデートしている!

 終了装置だのターミネーターだの、大仰な名称がついてはいるが、私のこの発明品は一帯から全ての外来種をほろぼす大規模破壊だいきぼはかいを及ぼす物ではない。

 私はそもそも大規模な環境破壊を嫌って、この全自動外来種終了装置を作ったのだ。全自動外来種終了装置は一家に一台というイメージで作り、そして広くとも家庭菜園程の範囲はんいでしか稼働かどうしない計算だ。

「さあ、スキャンを開始しろ! 憎き外来生物を根絶やしにしろ!」

 全自動外来種終了装置は私の声に反応し、我が家の庭を眺め始めた。

 全自動外来種終了装置にかかれば葉っぱのうら、土の中、家の軒下、どこに居ようがスキャンを行ない、外来種を確認したら絶対に逃がさない!

「………………」

 全自動外来種終了装置は我が家の庭に対して何の反応も示さなかった。

 誤作動かと思ったが、次の瞬間しゅんかん、全自動外来種終了装置は車庫の方へと車輪を走らせた。

「車庫の方角……? そうか、車庫に外来生物が隠れて巣を作っていたんだな!」

 私はそう考えていると、車庫の中から強烈な破砕音が起こった。

 全自動外来種終了装置はあらゆる生物種を終了させるための攻撃手段こうげきしゅだんを搭載しているのだ。ねつに弱い生物なら高温のレーザーで焼き切るし、化学変化に弱い生物なら薬液をかけて窒息ちっそくさせるし、相手がクマムシの様な生物の場合を想定して純粋にロボットアームでる殴る叩きつけるのもお手の物だ。

「全自動外来種終了装置よ、車庫にどんな外来生物が居たんだ? お前の仕事内容を教えてくれないか……えっ!?」

 私が車庫の中で見たのは、無残につぶれてペチャンコになっていた外国産の愛車だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る