第七百四十四夜『逆しま、落下、転倒、そして凝固-Do You Want to Build a……-』

2024/09/23「西」「蜃気楼」「冷酷な関係」ジャンルは「ラブコメ」


 突然天と地とが逆になった。


 私はなす術が無く天井へと落ちる。


 天井へ落ちたかと思った次の瞬間しゅんかんには、今や天井となった床が凹み、歪み、さっきまで天井だった物がはりとなり、そして新しい梁と梁が合致して歪んだ別の天井になった。

 何を言っているか分からないかもしれないが、私の方が何が起こっているか分からない。

 こんな奇妙な現象、前後不覚なんて言葉では言い表せない!

 次の瞬間、私は内臓ないぞうが浮く感覚におそわれ、私の体は横向きに猛スピードで落ちていき、かべはりつけの様になった。

 しかし、また次の瞬間には重力は正常になり、私は本来床だった場所へと打ち付けられた。

「くそ、一体どうなっているんだ? 外にでなくては……」


  * * *


 日光が一面の銀世界を照らす下、近所の小さい女の子が雪を転がして遊んでいた。

 私はその微笑ほほえましい様子を眺めながら、一応忠告をする。

「雪遊びはいいけど、雪を食べてはいけませんよ。除雪剤がいてあるからしれなくて、もしそうなら体に毒ですし、そうでなくても雪には

 私がそう言うと、女の子は特に嫌悪感けんおかんを見せるでもなし、分かっていると返した。

「食べない、わたし雪ダルマが大好きだもの!」

「雪ダルマが好きなのですか。では、その子はお名前があるのですか?」

 私がそう尋ねると

「うん、もう決めてあるの! この子は雪の日だからサム! こんにちは、サム!」

 人によっては、この小さな少女の言葉を一笑に付すかもしれない。

 世の中には、無くしたり別れる前提のモノに名前を付けるのは良くないという意見もある。

 しかしながら、私は、モノに名前を付ける事は創造性であり人間らしさだと考えており、無くしたり別れる前提のモノ相手ならば、それは思い出を作る行為だと考えている。

「そうか、サムか……いい名前じゃないか、初めましてサム」


 * * * 


 人間の裸眼では微生物びせいぶつは見えず、雪は白い塊でしかない。故に雪ダルマなんてものは感情の無い白い塊としてしか目には映らない。

 増してや、雪の中に住む微生物など裸眼で見える筈も……

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