第七百四十三夜『岩と骨の時代-Asgard-』

2024/09/21「池」「歌い手」「ゆがんだ存在」ジャンルは「王道ファンタジー」


 ある島国で、巨大生物の化石が見つかった。

 巨大生物と言っても大型の恐竜ではない。

 あまりにも巨大すぎて何の動物か分からず、見つかった当初は変わったプレートと断定すらされていた程。

 さて、この巨大生物とやらが大型の恐竜では断じてない理由なのだが、まず第一にこれほど巨大な恐竜は存在し得ない事が一因。加えて第二に、見つかった頭部が人類に近い。


「これは映画に出て来る怪獣かいじゅうよりもずっとデカいぞ!」

「これは話に聞くデイダラボッチかポールバニヤンにちがいない!」

「いや、伝承を見るに、それを足したより更に大きい!」


 人々はそう言い合い、ねつを帯びたが発掘作業はろくに進まなかった。

 何せお話の怪獣や巨人よりも巨大なのだ、そんな物がホイそれと採掘出来る訳が無く、発掘作業は困難こんなんを極めた。


 化石そのもを掘りだせないならば、その周辺の土や地層ちそうを調べる事も学術的に有意義ゆういぎだろうが、何せ巨大生物は余りにも巨大で掘っても掘っても巨大生物の化石と土ばかり、人々の関心は巨大生物にばかり行ってしまっていた。

 結果として、巨大生物の発掘はその島国の一大プロジェクトとなり、その島国の意義いぎの様にすらなった。

 その島国の人々は巨大生物の化石を掘りだす事に躍起やっきになり、野を掘り、森を裸にし、山を平らにし、土地と言う土地を拓いていった。

 そうしてある日、やっと巨大生物の化石の全貌ぜんぼうが見えた。


「やった! 我々は遂に成し遂げた!」

「さあ巨人の化石を掘りだそう!」

「これは人類の偉業、人類の証だ!」


 意気揚々と巨大生物の化石を掘り出す人々だが、その時島に異変が起こった。

 地下から水がとめどなく水が湧いて来たのだ。

 水が湧いたと言っても、湧水や泉のそれではない、水の湧く早さは尋常じんじょうでなく、採掘現場一帯は―即ち、島じゅうは―すっかり冠水してしまった。

 これが普通の島ならば森や山が天然のダムの役割りを果たし、水をせき止めたくわえるところだが、この島には森も山も無くなってしまっていた。


 その島はあっと言う間に湧水に沈み、島は地図から消えてしまった。

 巨大生物がもし生きていたとしても、この事を悲しむか、もしくはざまあないと思うか、それは全く分からない。

 何せ化石には表情筋が無いし、目の色も無いのだから仕方が無い。

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