第七百四十一夜『たくさん入る便利なグッズ-Small world-』

2024/09/18「草」「ファミコン」「増える大学」ジャンルは「学園モノ」


 テレビをつけると、刑事物の作品がやっていた。

 いわゆる往年の名作という奴で、まだ恐竜が大地を闊歩かっぽしていた頃にられた作品なので、最新の家電製品かでんせいひんなぞ存在せず、携帯端末けいたいたんまつと言えばショルダーホンが精々せいぜいの時代となる。

 こういった作品は今現在を舞台ぶたいとしている場合、後世から見た歴史的資料となるので、俺は現在を舞台とした作品をるのが好きだ。

 これが時代劇じだいげきだと、やれ刀のき方がちがうだの、やれこの植物はこの時代の植生にてきしてないだの、やれこの時代にこの酒類は存在しなかっただの、やれ背景に現代的な車両が写り込んでしまっているだのと、時代考証やボロに関する別の楽しみ方が先行してしまうし、何よりも歴史的資料としての価値が無い。


 テレビドラマでは何かの研究施設で、フロッピーディスクをコンピューターに読み込ませるシーンがあった。

「フロッピーディスク! フロッピーディスクとは! フロッピーディスクでデータを読み込んでいる、アハハハハハハハハ!」

「何をバカ笑いしてるんだ?」

 俺がフロッピーディスクの登場に思わず爆笑ばくしょうしていると、同居人が背後から話しかけて来た。

「いやね、ドラマでフロッピーディスクが出て来てさ……フロッピーディスクだぜ? 容量一四四〇キロバイトしか入らないんだぜ!? ちょっとでも映像入れたらすぐオジャン、許されるのは文章くらいのもんだよぉ!」

「昔はそれで十分だったんだよ。それよりコンビニ行って来るけど、何か買ってくる?」

 同居人はひどくどうでもよさそうな態度たいどで聞き流して、俺に質問した。

「コンビニ? どこ? 最寄りのコンビニなら、何買っても全然ぜんぜん中身スカスカで上げ底が酷いから要らないかな」

 世の中には一チップで充分とか言う激辛げきからポテトチップも存在するという話を聞いた事が有あるが、俺には到底信じられない世界だ。

 どんなに味がいポテトチップでも、常識的じょうしきてきな味のさで適量てきりょう入っているのが良い商品という物だろう。無論、ポテトチップスの適量とは大きい袋にタップリという意味だ。

「そう言うなよ、あそこのポテトチップス好きなんだ」

「でもよぉ、あそこのポテトチップスって長いつつに半分しか入ってないぜ? どんなに美味うまくても、それだと食い足りねえよ」

「いいから黙ってろ」

 同居人はそう軽口を叩きながらアパートの部屋を出て行った。


「いやあ、やっぱここのポテトチップスは美味い」

 あの後買い物から戻って来た同居人は、ソファーの上でテレビドラマを観るタイプのカウチポテトしながら件の筒入りのポテトチップスに舌鼓を打っていた。

 対して、俺は業務用スーパーで買っておいた弩デカい袋入りのポテトチップスを黙々と食っている。なんだかんだ言っても、俺にとってはこの手のシンプルなポテトチップスが、変に小洒落たものより好みだ。

 別にうらやましいとは微塵みじんも思ってないが、俺は何かひっかかるものを覚えて同居人が手に持っている筒入りポテトチップスのパッケージを一瞥いちべつした。

「ははーん。そうかそうか、メーカーも企業努力って奴をしているんだな」

 俺がひっかかりを覚えたのは、ポテトチップスの筒にデカデカと印刷された見慣みなれぬ文句だった。

「『今だけ増量ぞうりょう一.五倍!』か……消費者達しょうひしゃたちからスカスカの筒と言われ続けたのが余程こたえたんだろうな」

「応とも、お陰で全然スカスカじゃないし、なんともポテトチップスが入ってる」

「そりゃすごい! 俺も偏見で語らず、筒入りのにすれば良かったかも知れん」

 そう言い合いながら、テレビドラマは佳境のシーンに入っており、証拠を巡った応酬おうしゅうが繰り広げられていた。

「しかしアレだね、やっぱこの頃の人ってデカいね」

「当時の平均身長は女性が一五八センチ、男性が一七一センチらしい。おおむね現代の平均身長の二倍にちょっと足りないくらいだな」

 俺と同居人はソファーでくつろぎながら、各々容器にタップリ入った大容量だいようりょうのポテトチップスを食って過ごしていた。

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