第七百四十夜『背が伸びる洞-the piece-』

2024/09/17「水」「パズル」「嫌な記憶」ジャンルは「ホラー」


 初めに断っておくが、これは作り話だ。

 作り話というのはつまり、出所が不明であり、ソースは不明、事実無根で、歴史のやみほうむられていて誰も知らず、友達の友達なるなぞの人物から聞いたいい加減かげんな話という事になる。


 ある場所に『背の伸びるうろ』なる場所があった。

 よくある自然に出来た洞窟どうくつと言った感じの場所で、特に見た目は不審なところは無い。


 では『背の伸びる洞』なる名称で呼ばれているのか? それは洞の内部構造こうぞう秘密ひみつがあった。

 洞窟の中は成人男性が身をかがめずにも入れる広さがあった。『背の伸びる洞』なのだから、ちぢこまって入るのは少々違和感いわかんがあるし、それでは『不思議ふしぎの国のアリス』に絡めて命名されてしまう。

 『背の伸びる洞』だが、始めは歩きやすい足場の普通の洞窟としか感じないが、歩いていくとどんどん道が細くなる。

 そんなの洞窟ではよくある事だと思うかもしれないが、これが狭くなるのではなく細くなるのである。上手く言えないが、道は狭くなるのではなく細くなっているとしか言いようが無い。

 どんどん細くなる道、ポタポタと水滴すいてきのしたたる音、光源の無い環境かんきょう、そういった洞窟内の状況に不安を覚えて引き返そうとするも、その時には既におそい。実はこの『背の伸びる洞』は斜面の上に形成されていて、入って進むのは容易く、戻るのはかたく、斜面に任せてスイスイ前進した頃には戻るのが困難こんなん傾斜けいしゃに阻まれ、尚前進するしか出来なくなっている。

 仕方が無しに前進をするも、道は増々もって更に細くなり、やがて人間の身一つを通すのがやっとになってくる。

 しかし『背の伸びる洞』は増々急斜面になり、ちょっとでも摩擦まさつが生じると洞窟の奥へと滑り落ちてしまう様な状況、最早人型の穴に滑り落ちていると表現した方が正しい有様。


 時に、ミャンマーの首長族をご存知だろうか?

 平たく言うと、首に特別な装身具を付ける事で首を長くする民族が存在するのだが、その実、首そのものの長さは変わらずに首を長く見せる様に胴体が矯正きょうせいされているというのが正しい。


 それと同じ事が、この洞窟を進む人間にも起こる。

 いや、首だけではなく四肢にも同じ事が起きる。

 即ち、狭い人型の洞窟を通るにつれて胴体が矯正され、首と手足が長く見える形に矯正されている。

 これが『背の伸びる洞』の正体だ、別に背を伸ばす効能は無い。

 急斜面に構成こうせいされ、最早細い人型の穴に落ちている状況で、進入した人物の肉体はどんどん細くなり、最早胴体の組成は侵入する前とは別人の様。

 しかし『背の伸びる洞』なんて命名された洞窟なのだ、入ったら最後は出る事になる。そうでないなら、人喰い洞窟とでも命名すればよい話になる。

 細い細い人型の穴に落ち続けた侵入者は、それは細い人型の穴から排出されて『背の伸びる洞』の外へと出た。『背の伸びる洞』の出口たる穴は洞窟の入り口には到底見えず、自然に生じた岩壁がんぺき亀裂きれつにしか見えない。

 ここから出て来た人間が存在すると仮定して、頭部の大きさや胴体の幅から言って、内臓機能ないぞうきのうや真っ当な精神状態せいしんじょうたいを保っているかは大いに疑わしい。


 ところで『背の伸びる洞』のある山の向こうがわ位置いちする森なのだが、何でもアガリビトとかヤマノケと呼ばれている、人型の妖怪とかダイモンとか呼ばれている存在がうわさされている。

 地元の人間は、それらをまつろわれない神々とし『まつろわぬ神々に』と刻んだ祭壇さいだんを設け、これをなぐさめとしたが、人型の何かが立ち消えたという話は一向に聞かない。

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