第七百二十七夜『眠っている間の習慣-húdié-』

2024/08/31「夜」「砂時計」「意図的な技」ジャンルは「指定なし」


 俺にはちょっとした習慣しゅうかんがあった。

 なんて事は無い、眠っていた時に見た夢を覚えている限りメモを取るという物。


 そんな習慣、なんのための物なんだ? と言われそうだが、これが結構けっこう面白い。

 まず第一に、見ていた夢を思い出してメモを取るという作業が中々面白い。

 そして第二に、眠っていた時にみていた夢を思い出そうとしている内に、自分が夢を見ている最中に夢を見ているという自認が出来るようになっていった。

 特にこいつが増々面白くてたまらない!

 何せ今自分が夢の中に居ると分かれば、何でもやりたい放題だ!

 例えば、俺が夢の中で訳の分からないバケモノに追いかけられるとする。それでこれが夢の中の出来事だと分かれば、理解に苦しむ様な意味不明なバケモノとの追いかけっこに付き合ってやる義理ぎりも道理も無い訳で、俺は夢の中でバケモノの首根っこを掴み、組み伏せ、馬乗りになってバケモノを何度も何度もぶん殴ってやった。


 俺は気が付くとベッドの上で、心地いい気分で目を覚ましていた。

 俺は夢の詳細は覚えていない方で、覚えている事だけメモを取っているのだが、何となく気分がいい。

「はてさて、どんな夢をみていたっけな?」

 とにかく、俺は夢を思い出す作業が楽しいし、夢を見ている最中も楽しかった覚えがある。

 こうして出来た夢のメモには、色々と愉快ゆかいな思い出がたくさん書いてある。

 ある時は自由に空を飛んでいたらしく、またある時は夢の中で好き放題ほうだい豪華ごうかなビュッフェで酒池肉林し、またある時は何事も無く平穏にカフェでコーヒーを飲みながらドーナッツをかじっていたらしい。

 今夜はどんな夢を見るか、楽しみだ。


 意識いしきがハッキリすると、俺はベッドの上に居た。

 しかし、俺はこれが夢の中で現実ではないと判断した。何故なら、俺のすぐ目の前には、絵に描いた様な泥棒が居たからだ!

「今時、目出し帽に唐草模様の風呂敷ふろしきなんて背負しょいやがってこの野郎! そんな泥棒が実在する訳ねえだろうが! 俺をバカにしているのか? 他人の財産権を侵して無事に帰れると思ってんじゃねーぞ、この去勢きょせいされたゴミパンダ野郎がよ! ケツの穴かっぽじって、テメェのクソでも喰らいな!!」

 目出し帽の人物は俺の怒号に金縛かなしばりにあった様に微動びどうだにせず、俺はソイツの鼻筋はなすじにパンチを放ち、結果として俺のパンチはクリーンヒットした。

 鼻筋にパンチを喰らった目出し帽の人物はそのまま仰向けに倒れ込み、その際に後頭部を俺のタンスにしたたかに打ち付け、ゴンッと重いものが衝突しょうとつするいやな音を立て、そのまま動かなくなった。

「夢の中とは言え、案外あっけないもんだな。ま、俺の夢なんだからコイツが怪獣かいじゅうやお化けに変身しても困るし、これでめでたしめでたしってところか」

 すると、俺は急にまぶたが重くなり、意識が遠のくのを感じた。きっと夢から覚める時刻なのだろう。

 現実の俺はこの事をよく覚えていないだろうが、大体の事はメモに残る事だろう。

 俺はそのままベッドに横になり、夢から覚めるのを待った。

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