第六百四十八夜『天邪鬼な辻占い-Chekhov's gun-』

2024/05/07「町」「ファミコン」「人工の物語」ジャンルは「ホラー」


 私は辻占いを生業なりわいとしている。

 そして突然だが、私はこの世界が物語の中だと理解している。

 世界は紛い物で、人生とは死ぬまでの時間潰しだとか、そういう思想を持っている訳ではなく、私はこの世界が作り物の創作物だと理解していると言った方が正しい。

 そして私の占いは百発百中だ。

 だってそうであろう、あなたは創作物の中で占いを外す占い師を見た事があるだろうか? あるとしたらそれは占い師としてはであったり偽物で、占い師を名乗っているだけの詐欺師だろう。

 創作物の占い師は百発百中であり、故に私は百発百中なのだ。


 ある日、私はある紳士を占った。

 占った結果、その紳士は違法薬物の売人の元締めでで恨みを買っていて、その復讐ふくしゅうとして殺されると出た。

(想像を超える様なヤバい客が出てきたな、これはどうしたものか……)

 私は創作物の占い師とは聖域であり、安全地帯だと信じていた。

 ゲームに登場する占い師は闘争に巻き込まれないし、街が襲撃しゅうげきされても何事も無かった様に生存しているし、私も自分自身がその様なものだと思っていた。

 しかし私は今や、という奴で、次の瞬間しゅんかんにはこのヤクザかマフィアかも分からん人物に殺されてもおかしくはないのだ!

「近い内に、当人にとって大切な物が見つかると出ています。きっと吉報でしょう」

 私は咄嗟に当たり障りの無い、ふわっとした漠然として具体性を欠いたうそを吐いた。


 あれから、私は占いの際には明確な事を言う事を避けている。

 いつ何時なんどき知り過ぎた人物になってしまい、殺されるかも知れないと考えると、見えた結果を知らせる事などとても出来ない。

 私は先程も客の未来の詳細が見えたが、これを具体性を欠いた内容で知らせた。

 例え知り過ぎた人物を殺そうとする人でなくとも、過去や未来を詳細に言い当てられたら気持ち悪がるかも知れないし、プライバシーを知った事を理由に豹変して私を害して来るかも知れない。

 その結果、私の評判は良く当たる辻占いではなくなったが、そんな事はどうでもよい。

 命あっての物種だ。

 その時の事だった。

(ようやく、あなたも理解出来ましたか)

 どこからともなく、声が聞こえた。


 その日以来、私は占い師として不能になった。

 知識ちしきが無くなった訳ではなく、占術の道具の読み方も分かるが、どうしても過去や未来の詳細な様子が視えなくなったのだ。

 一応、世間はカードの読み方や並べ方を知っているだけの私の事を占い師と認めてくれているが、しかし私は自分が占い師という実感が無くなってしまった。

 試しに自分自身の手を見たりカードを並べたりしてみるが、一言で言うと私の身からは一切の霊感インスピレーションが消え失せてしまっていた。

 今となっては、あの声が私の身を案じて過去や未来を視えなくしてくれた庇護ひごの手なのか、占いに対して消極的になってしまった私を律する罰の執行なのか、神ならぬ身の私の目には全く何も見えない。

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