第六百四十六夜『願いが叶うとも叶わないとも言われている噴水-small change-』

2024/05/04「戦争」「彗星」「真の運命」ジャンルは「学園モノ」


 ある街に立派な噴水ふんすいがあった。

 この噴水には、たくさんのコインが投げられていた。

 人間は噴水を見ればコインを投げ入れたくなる習性を持っている事は周知の事実だが、しかしこの噴水はただの噴水ではない。

 なんでも、この噴水は部分部分に隕鉄を使っているらしく、街の人は『流れ星の噴水』と呼び、願いが叶う噴水とうわさされていた。


 顔や手を始め、体中に生傷が絶えないが、大ケガはしていない様子の学生服の男子が流れ星の噴水にコインを投げ入れた。

(今年こそは、喧嘩っ早い性格が治りますように……)


 酷く憔悴しょうすいした様子の、元軍人の男性が流れ星の噴水にコインを投げ入れた。

(こんなクソみたいな世の中から、少しでも争いや戦がなくなりますように……)


 貫禄のある、職場では白衣を着ている体幹のしっかりとした女性が流れ星の噴水にコインを投げ入れた。

(面倒臭い家族を持つ患者や、死を待つだけの患者が減りますように……)


 そんな人々のすぐ横に、恰幅が良い太鼓腹で禿頭の男が葉巻を吸いながら、それこそ映画や芝居で見る成金そのものの様な所作の男が現れた。

 彼はセーソン・ナリキヌという名前の商人で、流れ星の噴水に大量のコインを投げ入れながら大声で言った。

「この噴水への願いが全て、決して叶う事が無い事を!」


  * * *


 流れ星の噴水は一つだけ、自分への願いを叶えた。

 もとい、必然一つだけ願いが叶っただけと言った方が正確かもしれない。

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